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34 職場の噂話

「何を言い出すのかと思ったら」

「彼女に言い寄ってる男、たくさんいるらしいよ」

「ふうん」

「食料局には、ろくな男がいないものね」

「だから、なんなのよ」

「だいたい、食料局っていう組織名自体がダサいし」

「だから!」



 ジルが不愉快そうな顏を作った。

 この作られた表情がジルの真骨頂。

 女でさえも、魅入られてしまう。それほどかわいいのだ。


 ピンク色のショートカット。瞳もピンク。

 小さな顔に小さな唇。きれいな桃色で艶々。


 黒い服を好んで着るが、今日も黒いドレス姿。

 ジルはきっと、あの資材庫で、Tシャツ一枚より重要だと判断したのだろう。



「対抗心があるかなって」

「誰が?」

「ジルが、よ。私は悔しいよ。あなたじゃなく、レイミばかりもてるのは」

「フフフ」

 チョットマは思わず笑ってしまった。

「なにがおかしいのよ」

「だってさ」



 以前は、攻撃隊の中で、シルバックが同じような対抗心をむき出しにしていたのだ。

 ジルに対して、チョットマに対して。

 ジルには美貌の面で、チョットマには人気の面で。


 人気という意味では、ジルもチョットマに対抗心を燃やしていたものだ。

 チョットマとシルバックはずっと前に打ち解けあっていたが、ジルを含めた三人でこんなふうに話せるようになったのは、ほんの半年ほど前のこと。



「シルバックのそういうところが嫌いなんだな」

 ジルがにこりとして言う。


「嫌いで結構。どんな面においても常に二番手三番手だったシルバーコレクターの気持ちなんて、分らないでしょ」

「そう? この三人でシルバックが一番ってこともあるじゃない」

「ないよ。そんなもの!」

「あるって」

「ない!」

「攻撃力」

「はあ! 今や、何の役にもたたない」

「それから、竹を割ったような性格」

「は! それ、まさか褒めてるつもり?」




 話題は、いつしか職場のことになった。

 ありがちな話題だし、チョットマは食料局内部のことに関心はない。

 同じ職場のシルバックとジルにとっては、楽しい話なのだろう。

 何しろ、新鮮だ。

 数百年に渡って荒野を駆け巡る生き方をしてきた二人にとってのオフィス勤め、なのだ。


「あいつ、どうにかならないかな。邪魔でしようがないんだけど」

 などと、愚痴が出るのも自然の成り行き。



「ねえ、チョットマ、トゥルワドゥルー、知ってるでしょ。あそこで飲んでる人」

 聞き役ばかりだったチョットマに、ジルが話題を振ってくれた。


「もちろん。パリサイド軍のトップだった人でしょ」

「そう。今はうちの局長してるんだけど、変な噂がいろいろあるんだよね」

 まだまだ、噂話の種は尽きないらしい。


「なんでも、近々イッジと結婚するらしいよ」

「へえ!」


 愚にもつかない噂かと思いきや、楽しい話ではないか。

 思わず身を乗り出した。


「いつ?」

「さあ。でも……」


 ジルが口ごもった。

 言い出しておいて、迷っている。

 これから話を盛る手かもしれない。

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