29 ベータディメンジョン どことなく、懐かしい響き
イコマとゴーダは、すべてを記録するという仕事に就いている。
アギであったイコマの知り得ないことを、アンドロであるゴーダが補完していると聞く。
「ええ。なかなかうまくいってますよ」
話題が作れてほっとしたのか、ゴーダは目を輝かせて、上目遣いでチョットマを見た。
知的な光を湛えた瞳。
どことなくレイチェルのSPだったハワードを彷彿とさせる。
髭の剃り跡も清々しい。
「先生も、もう少しお休みになられたらいいと思うのですが。アンドロとは体の構造が違うのですから」
と、パパを気遣ってくれる。
「そうよね」
「先生はあと三年以内に、あらかた書き上げるおつもりのようです。しかし、記録しておきたいことが次々と浮かんでこられるようでして」
これまで二年がかりで歴史の骨格を書き上げ、これから細部のエピソードを書き始めようとしているところだという。
イコマは、まずはアンドロが住んでいたベータディメンジョン成立の背景から、細部の執筆を始めようとしていた。
それほど歴史を遡るつもりはないらしいが、パリサイドが地球に帰還した頃のことから書こうとしても、その前情報として記録しておかねばならないことが膨大にある。
しかも、単にデータとしてではない。
物語として。
時代を生きた人々の息吹さえも記録しておこうとしているのだ。
「アンドロ次元か……」
正式名はベータディメンジョン。
どことなく、懐かしい響きがする。
「今、どうなってるんだろ」
「気になりますか?」
ゴーダは四十歳位に見える。
もちろんチョットマより数倍、いや数十倍も長生きしてきたはずだ。
しかし、丁寧な言葉遣いは変わらない。
アンドロとして人類に奉仕する仕事に長く就いてきたおかげで、相手が誰であれ、そういうものの言い方をするのだろう。
ハワードがそうであったように。
「気になりますよね」
「戻りたい?」
「ええ、まあ……」
ゴーダは言葉を濁す。
あの場所に戻りたいというより、あの頃に戻りたいというのが本音かもしれない。
チョットマも、またあそこに行ってみたい気がした。




