メニュー11 慈悲………何ソレ美味しいの?
幸せいっぱいな気分で意気揚々と帰宅していた実来がピクッと何かに反応した。
明らかに敵意と害意を含んだ視線に実来の顔は自然と無表情になる。
「…………」
無言のまま向かったのは家へと続く道では無く、この時間帯では人気が無くなり不良がたむろすると言われている森林公園である。
『………』
視線の主が、後を着けているのを感じながら、実来はただ歩を進める。
いくら茶店で時間を潰したとはいえ。今の時期だと六時近くになっても周囲はまだ明るい。
実来は目的地である森林公園に足を踏み入れた。
直後───。
背後から感じていた視線に力が籠もる。
「──せっかくお誂えむきの場所まで来てあげたんだからいい加減出てくれば? 居るんでしょ? 胸糞悪い幽霊女……」
『うっふふふ………あは、ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!』
突如として公園中に響き渡る深いな高笑い。
どこから聞こえてくるのかも判らないその耳障りな哄笑に、しかし実来は気にすることなく周囲を警戒する。
と。ほぼ無意識に実来の体は真横に跳びずさる。直後に実来の居た場所が土煙を立てて抉れた。
その様に怯えること無く───目の前に現れた獲物に内心笑みがこぼれてしまう………。
「何時まで経っても現れないから逃げちゃったのかと思ちゃった……。せっかくブチのめせる大っっっ嫌いな人外に遭えた絶好の機会なのに」
『許さない許さない許さない許さない許さないユルさないユルさないユルさないユルさないユルさないユルさないユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ!!』
狂ったように同じ言葉を繰り返す幽霊女に、実来は怯えるどこか薄く嗤って───、
「奇遇だね。………私も、絶対にユルサナイ」
絶対に認めない……。
その言葉を引き金に、実来と幽霊女がぶつかった……。
「………ふっ、!!」
真っ直ぐに繰り出す正拳突き。しかし幽霊女も学んだのか、実来が動いた直後にその姿をフワッと消して実来の背後に回って首を絞めようとする。
しかし、本来正拳突きは……空手の試合において繰り返す攻撃は相手の体に当てない寸止めで仕様である。そしてその攻撃が有効と認められるには寸止めした拳を『引いて』次の追撃準備の型を取らなくてはならない………つまり。
ブゥン!!
引いた拳の威力でそのまま体を反転、再び踏み出した足に力を込めて再度正拳突きを繰り出した───!!
バッキン!
『ぐっ!? う゛、う゛う゛う゛う゛う゛!!』
避けたと思った拳を顔面で受け止める羽目になった幽霊女。
「こっちは物心ついた時から鍛錬鍛錬鍛錬の修行漬けだったんだよ? あきらかに素人丸出しの動きに惑わされる訳がない───!!」
言い終わるや否や。
前回と同じように幽霊女をタコ殴りする実来。
しかし幽霊女も負けてはいない。
時折姿を消しては上手く攻撃を避けている。だがそれだと攻撃は出来ないのか、ひたすら逃げ惑う。
『う゛、う゛う゛う゛う゛!』
悔しげに呻く幽霊に、実来は情け容赦無く追撃する。もはやどちらが悪人か分からない。
受けた衝撃を逃すことも出来ずのたうち回っている幽霊女に向かって実来はあるモノを投げつけた。
『う゛っぎぃイイイイいゃあ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛────────!!!』
投げつけたモノの効果は絶大であった……。
「良かった効いて……。念の為に神棚にあったのを持ってきたのが良かったのかな?」
実来の投げつけたモノそれは────塩、であった。
市販の物で効果がなかったら嫌だと、本家の道場にある神棚の盛り塩を持ってきたのだ。
前回、トドメを刺しきれず逃してしまったことを反省して新たな被害者が出ないように準備しておいたのだ。
シュウシュウ音を立てながら煙をあげている幽霊女に、実来は感情の見えない瞳で女に塩を降り続ける。
───確実に、トドメを刺す!!
「すみません。トドメを刺されたら困ります。今度、三段ティースタンドを特別に奢って差し上げますからその辺りでお止めください」
「!!?」
驚いて、振り向くとそこには先ほどまで居た喫茶店の店員が、申し訳なさそうに佇んでいた。




