メニュー9 日頃の行い+好機=いざ行かん!
部活が休みになってから早半月近く経ち、実来が襲われてから約三日。
質犯罪者幽霊女が再び現れるのをカバンに潜ませた警棒と共に今か今かと待ち構えていた実来からすれば少々拍子抜けなぐらい何も起こらなかった。本来ならば良いことなのだがあの変質犯罪者幽霊女をブチの………締め上げるつもりだっただけに残念無念───チッ。
(落ち着いて……落ち着くのよ………私。私が襲われた日から被害者は増えてはいない……。きっと……あの変質犯罪者幽霊女は私を獲物に選んだはず。油断は出来ないけどチャンスは必ず来る……。その時こそこの煮えたぎる想いを警棒に乗せて振るうのよ………ふふ、ふふふふふ)
「ふふふふふふ……」
クラスに響く、実来の嗤……笑い声。
(鈴鹿さん、鈴鹿さん!? 実来が何だか怖いよ……。物騒な目で薄ら笑いをしているよぉぉおおお!!)
(最近はお気に入りのお店にも行けない上に部活の先輩先生方から期待を寄せられてるは元凶の部活は変質者のせいで活動中止になるは踏んだり蹴ったりだからね……。北見さん。ここは友達として黙って見守りましょう……?)
(鈴鹿あんた……関わるのが面倒くさいだけでしょ?!)
実来と一緒にお弁当を食べていた鈴鹿と北見は実来の様子に若干引き気味。クラスメートに関しては触らぬか神に祟り無し! と全員視線を逸らしている。中にはその空気に耐えられなかったのか教室から逃げ出す者もいた。
「ふふ、ふふふふ、ふふふふふふ!」
だから怖ぇぇよ! 手塚(実来)!!
心の声の共鳴率がドンドン高くなっていく一年C組なのであった……。
「えっ? 今日はお父さん来れないの?」
午後の授業もすべて終わり、後はホームルームを残すだけとなった実来の元に父実時からの電話の内容に驚く。
実来の学校も昨日から保護者同伴での送り迎えを実施していた。警察が変質者の動向をこのまま掴めないようなら休校もあり得ると先生は言っていた。
『ああ。担当者の奴がヘマしてな。行けそうにないんだ。本当なら母さんか義兄さん辺りに変わりを頼みたかったんだが道場の方で少しトラブルが起こってな。実来の方に行けないそうだ。実留は友達の親と一緒に帰るというのでお前もそうしてくれないか?』
担当者……ああ、あのトロそうな人か。顔に似合わずイラストレーターの仕事をしている実時は、どうやら担当者の人がミスをしたらしい。急遽仕事を受け持っている本社に向かわなくてはならなくなったそうな。
『頼まれていながらすまないな、実来。友達と一緒に気をつけて帰るんだぞ?』
「わかった。お父さんも仕事頑張ってね」
ピッ……。
携帯を切って無言でポケットにしまう。
「…………………………いっよッッッしゃああああァアアアア!!!」
思わずガッツポーズを決めて喝采を上げる実来に、近くを通りかかった男子生徒がビクッとして……顔を逸らし、そそくさと立ち去った。
そんなことも露知らず、実来は湧き上がる衝動に身を任せていた。
(仕事の話だって言っていたから帰りはきっと遅くなるだろうし、お母さんは道場のトラブルでこっちもきっと遅くなるだろうし……。何よりあの実留が素直に友達の親と一緒に帰ってくるわけがない!! あんの変質犯罪者幽霊女を密かにヤる絶好の機会……‼)
殺る気満々の実来を止められるものはいなかった。
(そうと決まればモチベーションを上げるためにも今日はお店に行って英気を養うわよーーー!!!)
何だかんだと言ってちゃっかりしている実来だった……。
●○●○●○●○
そんなこんなでやって来た喫茶店~彩~。
定休日を把握している私にもはや死角無し! と妙な意気込みを見せている実来を諫める人はいなかった。
カランカラン
ドアを開き、店内に入ればカウンターにいる店員さんがいらっしゃいませと笑顔で挨拶してくれる。今までこの店員以外のスタッフを見たことが無いけど………まさか一人で運営しているのか。
定位置と化したテーブルに着くとすぐにメニューとお冷やが出される。
実来は店員にお礼を言ってから改めてメニュー表を開く。
「…………」
ふむふむ。どうやら三段ティースタンドは今日も提供休止らしい………。残念ではあるが仕方ない。他は……と思ったら今日のオススメセット、季節の果物たっぷりホットケーキがデカデカとメニュー表に挟んであった。
値段を確認して見ると…………な、なに!? この厚さ三枚で千円以下!!?(税別)ファミレスとて千三百円以上はするのに!?
お得すぎるお値段に実来のハートは打ち抜かれた。
「すみませーん! この季節の果物たっぷりホットケーキお願いしまーーす!! 飲み物はダージリンのストレートで!!」
元気良く注文する実来を店員が微笑ましそうに見ているのは気のせいだと思いたい。




