定期便と高速便
本日の天候、曇りのち晴れ。
アルギアンス共和国にある冒険者ギルドの一日が、また始まる。
~ 定期便と高速便 ~
アルギアンス共和国が他国に勝っているものは、なんなのか?
そう問われ、即答えを出すとするなら『戦力』である。
共和国が成立していなかった時代、ドラゴンは好き勝手に各々が暮らしていた。
故に一人で居る事が普通であり、コミュニケーションレベルはお粗末だった。
如何に強大な力を誇るドラゴンといえど、たかが1個の巨大な生物。
そこを人間に付け込まれ、ある時代を境にして武器、狩りに関する革命が起こり
静かに静かに、種族として寿命を迎えつつあった。
一般民衆で評価されているドラゴン単体の戦力は、大体がこの時の情報に依存している。
つまりは、「きついが倒せない事は無い」というレベルでしかなかった。
だがしかし……時代は常に移り変わるモノであり、ある人間とドラゴンが出会う。
その者達を原点とし、ドラゴン達は生存のために寄り集まるようになった。
そして現在……
◇
「よぅ、アンサルスー。
お前んトコの畑の調子はどうだ。来てくれてる人達は頑張ってくれてるか?」
「グォォォオオォォォォゥ」
ギルドマスターが共和国内の広大な土地をのんびりと歩きつつ
たまたま歩いて傍に寄る事となった紫色の竜に声を掛ける。
その声に、アンサルスと呼ばれた竜は嘶きで答えた。
時代が進歩し、ドラゴンの中でただ一人混ざってきた人間が
元々頭が巨大で、知恵を持とうとすればいくらでも持つ事が出来るドラゴンに革命を起こした。
そんな現代では、ドラゴンも土地を用いて畑を管理する様になってしまった。
進化しすぎである。
「多分もうちょいギルドの仕事片付けたらアルギアも来ると思うから
今日も人化の訓練頑張れよー」
「グゥォォォーー」
一般的に見れば強大な口を少し開け、威嚇のような唸り声を上げるアンサルス。
今年で年齢552歳となる、竜族の中でも中堅に位置する原種……つまりはドラゴンである。
「おぅ、国王さまぁ。おはようございます」
「いやいやいや、国王て……マスターって呼んでくれりゃいいですよ。
普段からギルドに詰めてるからそっちの方が呼ばれ慣れてますし」
「いやいやいやいやいや、そんな、恐れ多いですさ。
こんなでっけー竜族様達をしっかり手懐けてらっしゃるんですから……」
「グゥゥォォゥゥゥゥゥゥ……!」
「いやいや、違いますって、手懐けるじゃないですってば。
ほら、アンサルスも怒ってるでしょう。
彼等の場合は、『俺が』手懐けてるんじゃなくて『俺に』丸投げしてるだけなんです」
「は、はぁ……。 ? ? ?」
「ゴォゥ。」
「うんうん、大丈夫だから。勘違いして無いからな。
だから食うなよ割とマジで。出てくんの大変なんだからよ」
会話から察する事が出来るかもしれないが、このアルギアンス共和国で
最大の権力者は一応冒険者ギルドのギルドマスターという事になっている。
他の国の市民にはこれは有名な内容であり、確かにそう呼ぶ事に差し支えは無い。
しかし裏事情を覗いてみれば、なんという事は無い。
ただの雑用に近い形でしかなかったりする。
旧ドラゴン・現竜族が一つの地域に集結し、そして『国』を勝ち取る。
ただ一人だけ、その中に混ざっていた人間……今のギルドマスターは
『国』という権利を最大に利用するためには人の法に触れた方が楽であると
その当時のエンシェントドラゴン・アルギアを通訳として介し、納得させた。
が……納得させたら納得させたで、ヒエラルキーの頂点に居るドラゴン達。
途端に掌を返し、無理難題を吹っかけて来た。
『人の法なんぞ、我らにはわからぬ。
人の法を使うのなら人である貴様が管理すれば良いではないか』
こんな調子でほいほいと、面倒な案件を全て丸投げしたのだ。
他の国との交渉、国の維持のための境界線などなど。
加えてギルドマスターは建国当時から冒険者ギルドを打ち立て
待遇が劣悪だった冒険者達を一時的に招き入れ、改変に忙しかったのだ。
二人でこれを担当するならまだしも、一人ではかなりきついものがある。
かといって、その当時は既にアルギアと親愛までに愛情が発展しており
ここで竜を野放しにしては、自分の寿命が尽きた後にでも
再びドラゴンが人間に襲われ、絶滅の危機に陥るであろうと予想していた。
そして当のドラゴン達は寿命が凄まじく長い癖にそこら辺は超アバウトなのである。
結果─────30匹のドラゴン達は、毎日をのんびりと過ごす環境を得て
一人の人間は、余り役に立ってくれない嫁を相棒として人身御殿となってしまった。
まぁ、当の本人はその忙しさにも慣れてしまい
現在を持ってしても充実した毎日を送っているようなのだが。
「あぁ、そうそうアンサルス」
「グゥォォォォォ……?」
「ちょっと面白いもん作ったから定期便が終わった後にでもギルドに来て見ろ。
多分気持ち良いからさ、デッキブラシは」
「ッ! ギャォゥァァァアアーー♪」
「ぅ、ぉおぉぉう!? だ、大丈夫ですかねこれは?!
怒ってらっしゃらないですかねっ!?」
「アハハハ、大丈夫ですよ農家さん。
これ、喜んでる雄叫びなだけですから」
日頃のんびり過ごす権利を得たとはいえ
元々ドラゴンに暇つぶしなどあるわけもない。
故に日常に何かしらの変化を及ぼすモノは、国に居る原種にはとても好評なのだ。
「ま、俺はそろそろ他んトコにも行くよ。
農家達さんも、熱中症に気をつけてくださいねー」
「あいあい、お任せくだされ国王さまー」
『お元気でー』
「グゥォォォォァァァー」
そうして、ギルドマスターはまた歩を続け
ゆったりと広々とした田舎道を歩いていった。
◇
今擦れ違った農民自体は、実はこの国の住民では無い。
竜の定期便に乗り、休日以外に毎日働きに来ている他の国の人間である。
前にも記した通り、この国は国民数と全く釣りあっていないほど無駄に土地が広い。
例え竜が住まうに必要としても、少しだけ土地を借りれば
その少しの土地だけで大農場が出来る程に広く、そして土質も豊かなのだ。
ギルドマスターは国王として各国集結議会に参加中、他国の王族に
【アレだけ広いのに無駄に放置していたら勿体無いではないか!!】
と難癖を付けられ
【あ、なら畑でも作ってみますか】
と、即答で決定してしまった経緯がある。
本来は、他国の『もっと領土を縮めて私の国とさせろ』という裏の意味があったのだが。
そこからさらにぶっ飛んだ発想をしてしまい……現在の『竜族・畑の防人』に至る。
日頃から日常を持て余し続けているドラゴンに
『1.毎日徐々に変わって行く畑に興味を持たせる。
2.畑で出来たモノの一部をドラゴンに食べさせて味を占めさせる。
3.竜に畑を耕す事なんぞ出来ないだろうし、他国から雇っちまえ。
4.畑からの報酬は、金こそ用意出来ないが、広大な土地から取れる作物でいいだろ。
5.どうせ国民総数なんぞ全然居ないし、税として畑の0.3割位の作物貰おうか。
Ex.というかむしろ管理しなきゃならない施設なんてギルドだけしかないよな? 』
こんな感じにドンドンと決まってしまい
歴史上初である、社長ドラゴン連合を発足させてしまった。
そしてやり始めてみた所、最初こそドラゴンを完全に恐れ
人など殆ど集まらなかったのだが、切羽詰まった者や好奇心旺盛な者はゼロではなかった。
もちろんの事、そんな人数で耕し管理出来る畑は大きくなかったが。
が……何にしても畑に対し税が1割を切っている事が大きかった。
ドラゴン自体も、体こそバカでかいのだが
戦いなどで激しく動き回らない限り、体の中の体力が殆ど減らない。
故に基本、体格基準でいえば全ドラゴンが少食なのである。
基準を示すと、先のアンサルスが1週間に一度だけ食べる食事量が野菜5キロ程度。
大して畑の収穫量は2ヶ月も育て上げれば4トンを超える。広すぎるのだ。
初年度の人数が少ない畑の管理では、300キロを生産するのが農家の人達の限界だった。
のだが……1週間で5キロ・2ヶ月を8週としても40キロ。
その計算で残る約260キロから残る税・0.3割はなんと7キロ。
約253キロの生産物が丸々、農家の人達の懐に入ったのだ。
加えてこれだけの物量が、アルギアンス共和国で作られているため
農家の人達が自国に帰った際に、国側が税を掛けられず
全ての野菜が丸々、畑を耕した人達の資産となった。
すぐさま国に持ち帰り、適正値段で全部売り捌いた結果
切羽詰まった者はその1回で完全に生活が蘇り、好奇心旺盛な者は左団扇となった。
この情報は瞬く間に色々な国に広がり……と思いきや
やはりドラゴンがすぐ傍に居るのがネックなのか、噂は広がったが
人はそこそこしか集まらなかった。
とはいえ、政策自体はそこそこ程度でも十二分に機能し
既に90年近く経過している今では、人も徐々に増え続け
結果的にギルドの経営の助けになる程度に、税が納められるようになった。
そして、この際の国の移動で
たまたま1匹のドラゴンが行った農家の人達の送り迎えがギルドマスターの目に入り
今現在、他国の重要交通機関である『竜の定期便』として進化しているのだった。
そこまで急ぐわけでもない冒険者達は、農場に向かう雇われ農夫と一緒に
定期便に乗って、冒険者ギルドに帰ってきているのである。
◇
用事も終わった夕方頃、ギルドマスターは冒険者ギルドへと戻って来る。
久方振りの休日を貰い、色々と解消されたのか
とてもすっきりした顔をしていた。
「おぅ、お前様。
休みの方は満足出来たのか?」
「ああ、やっぱあのスライムの感触は気持ち良いなぁ~。
昔の俺、本当によく頑張った。よく斬り掛からなかった。偉い。」
「フフフ、そうか。満足したのであれば何よりだ」
そんな会話をしながらも、アルギアは真剣に書類とにらめっこをしていた。
1日の終了時の収支と、依頼の新規、更新、削除の確認である。
普段であれば日頃から情け無い程に役に立っていない古代竜だが
何故か旦那の休みの日だけは、ひたすら真剣に仕事に打ち込んでいる。
とはいえ、元々粗が目立ちすぎる仕事方法なために
ギルドマスターの管理手腕には遠く及ばない。
が、それでも……頑張っていると言えるし、マスター本人も認められる内容だ。
その行動が表す気持ちは果たして
旦那が滅多に取れない休日だからこそ、なのか
旦那に良い所をじっくりと見せたい、なのか……。
それでも、頑張ってくれているのを見て気分が悪くなる者は少ない。
この夫婦が長年、種族の違いがありながらも仲良くやれている要因の一つだった。
「今、お茶を汲んでこよう。待っていてくれ」
「うむ、すまんの。お前様」
ギルドマスターがお茶を汲むために、受付入り口から受付の中へ入り
私生活空間へと歩を運んでいった。
◇
「ふむふむ、明日は妙に採集の依頼が立て込んでいるんだな……
アルギア、お前一人で大丈夫なのか?」
「何、平気さ。
全力で飛んで送った後に、不備が無いか空から見通せばよかろうさ」
「いや……駄目だろそれは……。
お前が本気で飛んだら皆が風圧に勝てないで落っこちるか窒息するって」
「おぉ、そういえば。
人間とは軟弱なものであるなぁ」
「どこの大魔王だっ。
まぁ……そろそろミニアにも手伝わせてみようか?
あいつも竜化制御に関してはかなり稀有なモン、あるしな」
「ほぉ、ついにミニアも【でびぅー】となるのか。
良い事良い事。冒険者達との仲も順調であるしな」
そしてもう一つの交通機関、高速便についてだが。
こちらは完全にギルドの都合により、生まれる事となった。
ギルドマスターが他国との国交の際に、情報の収集の許可を貰い
いざ、その依頼を冒険者の方に回すとなったところで、問題が発生した。
冒険者ギルドは世界単位で探しても、アルギアンス共和国に一つのみ。
世間体ゆえ、100年の歴史を刻んでも未だ他国に支部を築けない。
必然、依頼を受託出来るところは冒険者ギルドのみ。
竜の定期便を使ったところで、採集が遠いところは遠い上に
持ち帰る間に収集品の品質が落ちて、依頼の期間の割りに
もらえる報酬が少なすぎるという、とても重要な問題が発生した。
情報が集まっているのだから、ということで
近場の採集の複数依頼を持参させたところで、再び収集に時間が掛かり
依頼の品質が安定せず、顧客が増えない等といった問題が追加で浮上した。
顧客が現れなければ、ギルド自体も殆ど成立しない。
この点に関しては、実に1ヶ月近く
冒険者達に涙目で『何とか出来ませんか』と言われ続け、そして……
アルギアがキレた。
当時の映像を追いかけるとこのような構図になる。
『こんなんじゃここに情報が集まってたって
何時まで経っても食っていけるか不安のままだぁー!』
『そーだそーだぁー!』
『今月乗り越えられないと家族が……家族が……!』
このような苦情を1ヶ月も続けられれば、温厚な人間でもさすがにへこんでくる。
だが……伴侶に出会い温厚になっていた、元々凶暴な種族と言われたドラゴンは
この苦情に我慢しきれず、盛大に噴火した。
『じゃぁっかしゃぁぁあぁぁぁーーーーーーーーーー!!
だったら貴様等、我の背中に乗れッ!!
途中で振り落とされても知らんからなッ!!
そんなに切羽詰っているなら命を賭けんか小童がッ!!』
そうして、その日を境に比較的安全と言われ続けた採集依頼は
地 獄 の 如 き 試 練 が付き纏うようになったと言う……。
だがしかし、この偶然発展した高速移動は
採集依頼がメインだった駆け出し冒険者の不安を一手に解消するに至った。
採集したてに近い状態の物を顧客に届けられるようになり
この時代から完全に、顧客の安定化が実現していったのだ。
ただし、採集依頼を1回こなす毎に風圧と戦わねばならず
今なお持ってしても、採集依頼がメインの者は地獄と常に戦っているのだった。
そしてこの際の反論はこうである。
『アルギアさん……あのスピードはきつすぎます……』
『知らん』
という問答で全てが終わった。これは問答と例えて良いものなのだろうか。
◇
「─────では、お前様。行ってくる。
我が居ない間、寂しがってはならんぞ?」
「ハハハ、アルギア、お前もな。
ミニアは大丈夫か? 緊張しちゃ駄目だぞ」
「は、は……いっ! だ、だいじーぶです!」
そうして翌日、朝食を終え
採集に向かう冒険者達は、全員ギルドの入り口へ集合していた。
「まあ、そんなわけでお前達。
今日からミニアも高速便として頑張る事になった。
5歳故、まだまだ至らん部分も多々あると思うが……
何か気になったら、優しく教えてやってくれると助かる」
「よ、よろしくお願いしゃっすっ!」
その様子に、冒険者一同は全員にこやかな笑顔を作っていたが
(やばいなにこのかわいいいきもの、もってかえりてえ)
と、思考は一致団結していたりした。
「ところでルミナ……お前もう4日連続で採集依頼してるが……
本当に、本当に体のほうは大丈夫なんだろうな?」
「もっちろんですギルドマスターさんっ!!
なんか最近だともう、あのスピード感が無いと物足りなくて!!」
「うむ、ルミナよ! お前はよくわかっておる!!
やはりあの疾走感こそ、空の旅の最大の快楽であるよな?」
「ええ、ええもう完ッ全に同意しちゃいますっ!
今だともう3日もあいちゃうと体が疼いちゃってッ!」
(((ねえよ。)))
まさかのギルドマスターも含めての全員一致の意見だった。
彼女の家柄の都合上、本来なら1日置いて受けさせる採集依頼だったが
連続で受けさせるうちにクセになってしまったようである。
そのうち、空賊にならなければよいのだが。
「じゃ、行ってきます!!
私はアルギアさんに乗せていただきますねッ!」
「お、おう……お前等はどうする?」
『『ミニアちゃんにしておきます』』
「なんじゃおぬし等、ノリが悪いのう……
慣れると案外気持ちが良いモノなのだぞ?」
そんなアルギアの意見を全力で否定した後
人化を解いた二人の背中へと乗り移り、全員が空へと旅立っていった。
ミニアに乗っかっていた他の冒険者達は
慣れぬミニアの搭乗飛行におっかなびっくりだったようだが。
冒険者ギルドは、今日も平和である。
ルミナがアルギアに振り落とされて森に落ちて、2日ほど行方不明になった以外は。
※ 初回だけは、働く農民を含めた食い物の用意は
ドラゴン本人の狩りとギルドマスターの借金で賄いました。
減った47キロは、ドラゴンに味見として大量に提供。
そのうち残ったものはギルド内部の備蓄食料に。
しばらくの間、食事量が増えて冒険者は狂喜乱舞していたとか。
ついでに述べると野菜は地味に高いです。




