異種族との交流
前話に※による説明を1個追加しております。
お金に関する一文です。一言だけの追加ですがよければどうぞ。
本日のメインディッシュ、魚。
アルギアンス共和国にある冒険者ギルドの一日が、また始まる。
~ 異種族との交流 ~
冒険者ギルドが存在する、アルギアンス共和国。
世界における国々が有する人口数で、多いところは2000万人。
少ないところで50万人、人間以外だと10万人でも成り立っている国がある。
そんな中で『国』という機構において、
アルギアンス共和国はたったの150人しか籍を置いていない。
一応は、既に建国から100年は建っているのだが。
が、しかし。
150人という人数しか居ない割りに、その領土は凄まじく広い。
広いという事は、よほど枯渇した土地ばかりで無い限り
資源自体が豊富という事も意味する。
そして何よりこの人数で広い領土を持つ理由……。
ある意味当然であり、ある意味概念の外の発想となる。
アルギアンス共和国は、言語の意味としては謎になるが【竜】にも人権が与えられている。
簡単に言えば国に居る竜は法の中で活動をしており
自国、他国問わず危害が加えられればそれは国の法に則られ裁かれるわけである。
そして、そんな竜に人権を与えられているために
人の基準で土地を管理していると、あっという間に住居がなくなるのだ。
基本的には森暮らしなドラゴンに対し、住居という単語が正しいかは
また判別基準が分かれるモノだと思われるが……。
とにかくバカでかい竜が暮らせる土地というのは
それこそ小さい国の範囲ひとつが丸ごと必要であり
そんなものが必要な竜が、134人も住んでいるのである。
「お前様ぁー」
「ん、どうしたアルギア」
「少々、用を足してくる。すまぬが受付を頼みたい」
「わかった、そろそろ何人も来る頃だろうしなるべく早く戻ってくれよ」
「おう、心得た。では行ってくる」
まぁ、そんな巨大生物が100年ほど前に30匹程に陥り
絶滅しかけていたその当時に比べれば、割と復興していると思われる。
とは言っても、この100年で増えた竜族の大多数は……
「おじじ様ー、これは何と読むですかー?」
「ん……これはだな」
彼等の曾孫、ミニアのように純粋な竜族では無い。
世間にドラゴニアンと呼ばれる事になった人間と竜の混血と、その子孫が9割を占めている。
そして彼等は最初に人の形に似て産まれこそすれ、よほどの才能が無い限り
しばらくの間は力の制御に成功せず竜になってしまい、やはり大量の土地を必要とする。
「─────っと」
「わぅっ」
突然、建物がズズン、と揺れた。
「……しかし本当、難儀なもんだなぁ」
「今のはおばば様ですよね?」
「ん、そうだ。あいつはお前のパパとかじーちゃんと違って
魔法で化けてるだけだから、あの状態だと排泄器官が無いからなぁ……」
今の揺れはエンシェントドラゴンたるアルギアが人化を解き
広大な森へと飛んでいった振動だった。
その大きさ、約73メートル。そこまで行くと重量だけで
人化を解いた際に地面が揺れるのだ。
「あれ? でも、そうなると……おばば様って、とっても重いのですか?」
「あーいや、確かに体重はとんでもないはずだけど
元々竜族は体重制御の魔法に優れてるからな」
化けて人の姿になったところで、質量保存の法則は無視出来ない。
故に、普段から人の姿でギルドの中を歩いているアルギアの中身は
73メートルの巨体が誇る体重が、そのまま反映されている。
が、そんな巨体でどうやって空を飛ぶかと言えば
体全体と羽に軽量化と微弱な風を操る魔法を掛ける形で
重量の最適化を本能的に図っているのである。
「ミニアも竜に戻って空飛ぶ時、体が凄く軽く感じないか?」
「あ、そうですね! なんだかとってもふわふわして気持ちいいですよ!」
「それで使い慣れている魔法っていうのもあるから、応用が若干利くのさ。」
とはいえ、昔は苦労したもんだよ……よくあそこまでになってくれたなぁ」
そんな風に呟き、ギルドマスターは遠い昔を思い浮かべる。
この冒険者ギルドを設立した3年内に、建物が建て直された回数は10では利かない。
「……ど、どんな風に?」
「えっと、まずなぁ……。寝起きで寝ぼけて階段で足滑らせるだろ?
そこで慌てて制御が狂って、アイツの体重がストレートに建物の大黒柱に直撃。
他には……椅子に腰掛けようとして、何を間違ったのか
そのまま椅子を粉砕して床ぶち抜いて4メートルぐらい埋まったっけ」
そんな風に苦笑しながら、長い間共にいる伴侶の恥を晒して行く。
本人にバレたら丸呑みされかねないレベルである。
人の形を取っている手前、地面に掛かる圧力も凝縮されており
体のどの部分をとっても、制御が狂ってしまった場合
下手をすれば野獣ですらその衝撃で殺しかねない威力が生まれる。
そのため、家屋が倒壊したり、埋まったりしてしまうわけだ。
「……あの、おじじ様……?」
「ん、どうした?」
「それって、やっぱり建物が崩れちゃった時に、泊まっていた冒険者さんって……」
「無論、巻き込まれた。」
「うわぁー」
幸いながら、この制御不安が確認された1回目の倒壊以降
屋根だけはなるべく軽い素材を使用するに至り、下敷きによる死者は出ていない。
が、たまに部屋に備え付けの引き出しが刺さった冒険者とかが掘り出され
とても申し訳ない気持ちになったりしたのは、その当時ならではの出来事。
「まぁ、今は平和だけどもな。
これからミニアもここに携わりたいんだったら、そういうのには気をつけなきゃな」
「はいですー」
元より伴侶を笑い話にするのを好かないギルドマスターの性格により
ミニアに対しての教訓という事で、話の区切りをつけたのだった。
「─────ッ、んっ?」
「ぅわぅっ」
ここで突然、冒険者ギルドが再び揺れる。
「……? 早く帰って来いとは言ったが……さすがに早過ぎないか?」
行きの解除でアレだけ揺れるなら、空から降りてくる際も当然揺れる。
が、こんな会話の短時間で戻ってくる事が出来るほどの距離ではないはず。
「……あっ! おじじ様っ!! 外ッ! 外ッ!」
「ん? おぉー、そうか……もうそんな時期か」
ミニアに釣られ、窓の方へ向いてみると……答えがわかったらしい。
ギルドマスターが外へ向かうのと同時に、ミニアも後ろへ付いて行く
その顔はとても嬉しそうにほころんでいた。
◇
衝撃の震源地は、とても賑やかにザワザワしていた。
そこに居たのは、凄まじく色とりどりな種族達と、1匹の青いドラゴンだった。
その集団を目的として、ギルドマスターとミニアは一緒に歩いて行く。
近寄って行くところで、色とりどりの中の誰かがマスターたちに気付いたようだ。
「……グギャ? ッ! ギャー! ギャギーッ!」
「おーぅ、長旅ご苦労さんだー。元気だったかー」
「ギャギーッ! ギーッ!」
そんな会話を繰り広げながら、色々とゴソゴソしている集団から飛び出し
一番手に飛び込んできたのは人と比べて小さい……その中で一際小さい
美的に見ると醜悪でしかない亜人、ゴブリンの子供だった。
元気に足元に突っ込んで行き、ギルドマスターに頭を撫でられてほんわかしている。
「マスター! そっちも元気にしていたかッ!」
「あぁ、こっちはいつも通りだ。若手達にいつも使い回されているよ」
「ハッハッハ、使い回すとはまた言い得て妙だな。
健勝な様で何よりだ。今回も中々の物を持って来たぞ!」
まるで同級生の様に話す、紫色が全体を占め、背中には羽、頭には角が生える男は
かつて全人類の敵とされた存在、悪魔・デーモン。そんな風に呼ばれる存在。
しかし、人間であるギルドマスターとは険悪な様子は一切無い。
「今回は魔族とゴブリンだけか?」
「あぁ、もうひとつ居るぞー」
「……ひとつ? ああ、あいつのどれかか」
「そうそう、ンで、後は─────」
そんな風にデーモンは述べながら、自分の後ろへと顔を向ける。
風景を確認してみれば、ある存在が消え果ていた。
青い竜のドラゴンが、一瞬のうちに居なくなっている。
その代わりに増えている種族が一人。人間のような格好をしている者が
彼等の輪の中に混ざっていった。
「─────お久しぶりです、ギルドマスター」
「……ハハハ、あえて俺をギルドマスターって呼ぶか。
そんなに畏まらずともいいんだぞ、ライゴウ」
「そ、そうですか? では、失礼ながら……
私共の娘はご迷惑を掛けていらっしゃらないでしょうか、御爺様」
「なに、返って優秀すぎて
俺達なんぞすぐに隠居してしまいそうさ。だよな? ミニア」
「え、いえ、その……そんな、事はッ!
ともかくお帰りなさい、お父様ッ!」
「あぁ、ただいま! 元気そうで良かったよ、ミニア」
そうして娘と父は、久方ぶりの再会を喜び合う。
ミニアの父……つまりは、ギルドマスターの孫に当たるドラゴニアン。
それが今回この地に降り立ったドラゴン、ライゴウの正体。
「最近調子はどうだ、ライゴウ。もう2年はこの仕事をやってもらってるが……
さすがに色々と手馴れてきたか?」
「いえ、まだまだ学ぶ物が多くございます。
直接的に会話を出来ない種族との交渉が、やはり難しいです。
この子……子で良いのでしょうかね? これは」
そうして、ライゴウの方からぴょこりと顔を……顔? を覗かせる緑色の何か。
顔を現した何かには表情も何も無く、ひたすらにぷるぷるとしているだけである。
「……まぁ、間違っては居ないんじゃないか?
分体が子供という概念でよければだが」
(ぷるぷる)
「お、っととと……。
こらこら、無理に飛びついてくるな」
「ギャギ~♪」
「こ、コラ! お前もかっ! バランスがきついだろうが!」
「じゃ、じゃあ……私もッ!!」
「だーかーらぁー!!」
「アハハハハハ、御爺様は相変わらずのようで」
「んむ、なんであんな言葉もわからんやつらにえらい好かれるんだろうなぁ」
さて、このぷるぷるしているモノの正体だが……。
音の通り、ある巨大スライムの分体である。
◇
彼はギルド運営の間に、一つの種族と長年の交渉を繰り返し
色々な種族と友誼を持つに至っていた。
今回集合しているデーモンが所属する魔族の国、ゴブリンの集落の一つ。
他にもコボルトの集落や、一部この国に住んでいる獣人を介した村。
果ては海の中の種族、マーメイドに加え、なんとスライムとまで友誼を持った。
この中で一番謎な存在であるスライムについて軽く触れよう。
少なくとも彼が友誼を持っているスライムに関しては
人間の学者達もこぞって研究に顔を出し、調査をした結果
スライムながらに『意思』が存在している事が確認されていた。
その意思の可能性を拾う際はただの偶然でしかなかった。
他の種族との友誼を深めるために出張した帰り、そのスライムと遭遇する。
元々スライムは単細胞生物として、分裂を繰り返し
自分の眷属を発生させるだけの、くらげのようなものと考えられていた。
ギルドマスターとスライムが敵対している最中
チーズを包んでいた袋のヒモが緩んで、スライムの前に落ちてしまったのだ。
ギルドマスターが、たかがチーズ故仕方なしと考えていたところ
そのスライムは落ちたチーズに自分の体に引き寄せ
少し伸びてチーズをゆっくりと包み込み、自分の体に収めた。
ここまでなら特段疑問も沸かない流れなのだが
そのチーズに対する捕食が起こった後
スライムの敵対行動がぱったりと止まったのだ。
完全に消化したのを見届け、また襲い掛かってくると思い
剣を身構えているにも拘らず、一切動かなくなったスライム。
ここでふと、ギルドマスターは有り得ない方向へと思考を走らせる。
─────もしかしてこいつ、意思あるんじゃないか?
何故かそっち方面に思考が突き進み、ちょっと考えた末に新たに食べ物を出す。
消化しやすそうなものを選び、手を出して与えてみたところ
なんと人体に対して一切触れず、与えられた物のみを包み込み
自分の体へと移していったのだ。
この行動でギルドマスターは完全にこのスライムを話が出来る相手と認知。
傍から見れば人がスライムに話しかけているという阿呆な光景だが
表情もわからない、うなずく事もしない。
だがしかし、簡単な選択肢であれば声を聞いた後に動き出す知能がある事が判明。
これは面白い発見だとノリノリになったギルドマスターは面白がって色々与える。
6、7個吸収させたところで食べ物に反応しなくなり、動きが鈍ったかと思うと
そのスライムはいきなり分裂を開始した。ものの3秒で2匹になる。
試しに2匹に物を差し出してみると、一方は喰わず、一方は貪欲だった。
どうやら喰わない方は分裂の元となった固体だったらしい。
そのままガツガツと食うスライムに和んでいると
基となった固体が急にブルブル震えだし、体と同じ色の何かを
地面にベッと、吐き出したのだのだった。
─────俺に、くれるのか?
と、試しに聞いてみると、横に軽くぷるぷる震える。YESとの事らしい。
じっくり観察してみたところ、スライムの核でもないし、体の一部でもない。
もしスライムの体の一部であるなら、手に乗せた時点で徐々に徐々に手が溶ける。
現状ここでは調べる環境でもないため
ギルドマスターはそのままスライムを連れ帰ってしまった。
そして、当然の如くアルギアに怒られてしまい
とりあえずスライムがもっと住みやすく、ギルドにも程近い場所へと移動させ
長い間実験、研究、食料の提供、謎の物体の提供と友誼を図ってきたのだ。
そして、そのスライムは住みやすい環境に完全に適応したのか
目立つ外敵も存在しないその地で、全長10mの凄まじい巨体となり
「害意が無いキングスライム」として冒険者にはちょっと有名になっていた。
キングスライム自体は、存分に養分が作り出されているためか
既に何も食しはしないが、分体は生まれた後にも養分を探し、餌を求める。
そしてこの分体も、どうやらキングスライムの記憶を引き継ぐらしく
餌を与えられる限りは大人しいスライムとなっている。
◇
そんな経緯があり、2、3ヶ月に一度だけだが
身内のドラゴンにも協力を願い、異種族交流を図っていた。
最初こそコボルトとゴブリンなど、殺し合いまで始めたが
色々と仲介をし、互いが持つ特産物を交換させてみたところ
互いが提出したモノが見事に双方の好みに一致し、完全な和解に成功する。
どちらも、彼等と交渉をすれば役に立つ事に気付いたのだ。
今では、異種族に対し最初に忌避しか持てない人間の国々に代わり
特産物を交換し合う事で得られる貴重品の発生源として
この場所の存在を色々な国に認められている。
そしてあまり欲の無いギルドマスターは
冒険者の役に立ちそうなものであれば優先的に安値にして彼等に卸し
いつも黒字が余り発生しない商談となっている。
ギルドマスターと空から降り立った一行がドタバタとしていると
震源地に程近い場所に居た、他のゴブリンとデーモン達の準備が終わったらしい。
「っと、終わったか……。お前達、くっついてくるのは良いが
俺のバランスを持って行くのは勘弁してくれよ?」
「はーい♪」
「ギャギャー♪」
(ぷるぷる)
「……そういえば、ライゴウ。
さっきここからアルギアが飛んでいった筈だが、擦れ違わなかったのか?」
「あ、はい、居ましたね。
ただ方角的に花摘みと思いまして、あちらも私達に気付いていらっしゃったので
擦れ違うだけに留まっておきました」
「んむんむ、相変わらずご老体様は威厳的におっかねーなぁ」
「本人の前で言うなよ? 下手したら喰われかねんぞ」
「おぉぅ……怖ぇ事言わんでくれマスター」
そんな軽口を叩きながら、全員で冒険者ギルドの方へ向かう。
総勢20名程度の中商隊の規模である。
「さて、今日はここら辺でもいいか?」
「ああ、構わない。ただもうちょっとでアルギアも帰って来るだろうし
その時の衝撃にだけは気をつけてくれ」
「よし、みんなー! 持って来たモン広げろー!!」
『オォーゥ!!』
「ギャッ! ギャッギャッ!」
『ギャギャーーー!!』
それぞれの合図と同時に、デーモンもゴブリンも
背中や腕にこさえていたモノをギルド入り口の横に丁寧に並べだす。
その中には、人間が領土とするところに殆ど存在しない
希少価値が凄まじい物も沢山存在する。
デーモン達は怪しく輝く宝石、通称魔石、魔力を帯びた魔草をメインとして並べて行き
ゴブリン達は森や山に生えている薬草や花に加えて
一部職業の調合材料となるこうもりの羽や、昆虫の死骸などをザルに入れて置いて行く。
「さって、それじゃあ俺達も商材を出して来なきゃならんな」
「はーい」
「私もお手伝いしましょう」
「いや、ライゴウは疲れてるだろうしあいつらと話でもしていると良い。
ついでだからこいつらも頼む」
(ぷるぷる)
「ギャ~……」
「あはは、とても残念そうですよ。良いのですか?」
「坊主、男にゃ我慢ってのも大切なんだぞ」
「……ギー!」
そしてミニアとギルドマスターは、再び一緒に歩き出し
ライゴウはちびゴブリン達と一緒に、連れて来た彼等の元へと戻っていった。
◇
いつも冒険者から素材として買い取っている毛皮や
依頼に応じて採集した際の余りで買い取っている薬草、備蓄食料などを
ミニアと二人で倉庫から出していると、そこに一人通りかかる。
「お、おやっさん。受付ほっぽって何してんだよ。
そろそろ何かこなそうと思ってんだけど、なんかないか?」
「すまんが今ちょっと立て込み中だ。
ライゴウが商隊連れて戻ってきたんでな」
「ライゴウさん、っつーと……げぇっ、あれか……」
既に2度ほどあの状況を見ているアレスは、若干の忌避感とともに後ずさる。
「……やはり、見ても慣れないか」
「そりゃ……そうだろうよ……。魔族なんざ共通で人類の敵だろ?
そんなのと仲良くしてるおやっさんがやばいって」
「価値観こそ違う部分があるが、基本的に話のわかるやつらなんだがなぁ」
「いやいやいやい、それでも無理だっつーの。
話してる間に魂持っていかれそうで怖いっての。
おやっさんが今まで無事なのって、単にアルギアさんの存在があるからじゃね?」
冒険者ギルドに宿泊している連中も、たびたびこの商談は目撃しているため
一部連中は光景だけなら耐性は付いている。
実際あの場にあるのも、こちらでは全く取れない珍しい素材ばかりなのに
食わず嫌いに近い差別や、昔からの言い伝えを信じてしまい
大抵の場合、冒険者達は商談中部屋へと引っ込んでいる。
「残念です……ゴブリンちゃんとか、かわいいのに」
「あ……あれがかよ……。すまんな、ミニアの嬢ちゃん。
俺、その美的感覚にはついてけねーわぁ」
「むー!」
昔から見慣れているミニアからすれば、ゴブリンの子供などは
ちっこくて活発という点もあり、(精神年齢的にも)仲良しなのがあるのだが
醜悪な点しか映らない、普通の環境で育った人間には想像するだけでもきつい。
「ま、そういうわけだ。わざわざ遠いところから御来訪してくれてんだからな。
すまんが今日、とり急ぐものじゃないなら明日以降にしてくれ」
「オーラーイ……あー。アルギアさん戻ってきたら借りてもいいか?
あの人、書類散策苦手だけどちゃんとそういうのも出来るんだろ?」
「まあ、好きにするといい。俺と一緒にあいつ等を構ってると思うがな。
よし、ミニア。俺はひとまずこれをあっちに持って行く。
倉庫でまだ出してもよさそうなものを餞別して、入り口付近に置いてくれ」
「りょーかいですっ!」
「なぁなぁ、それ手伝ったら小遣い貰えねえ?」
「んー、200zで良いならくれてやる」
「やっす! 冗談じゃねえや!」
そんな風に軽口を叩き、手をひらひらさせながら宿泊施設へ引っ込むアレス。
アレスの後姿を見送りながら、マスターは再び外へと出ていった。
◇
「うーん、相変わらずこっちのはうっまそーだなぁ……」
「ギャギー」
「まあ、そっちじゃ環境的に絶対育たないってのもあるからな。
お前達が納得するんであれば取引が成立するってだけの事だ」
大体のデーモン達とゴブリン達が備蓄食料や、野菜を見て関心する中
ギルドマスターとミニアも彼等が持って来た品を選別して行き
丁寧にメモを取っている。まあミニアの方は見た目だけのおままごとだが。
(ぷるぷる)
「ん、おぉ……そういえばお前は少し時間が掛かるんだったっけな……。
少し待っててくれ」
メモを取っている最中、スライムが近寄ってきたのを確認し
引っ張り出してきた商材から、特にスライムの好みとされているチーズを
彼の目の前に500グラムほど差し出し、食してもらう。
後は10分ほどすれば、今回の交渉材料となる謎の物体が生み出される。
「マスター……本当にアンタすげぇよ……。
こんな表情も顔も何もなさそうなこいつから
万能薬が作り出されるなんて発見したんだからなぁ」
「まあ、ただの偶然でしかないけどな」
「いや、それでも……私達ではまずその発想が生まれませんよ……?」
「ギャーギャ~」
(ぷるぷる)
謎の物体を持ち帰った後、料理をしたり、磨り潰したり乾燥させたり
色々と工夫を凝らして加工をしていたところ
乾燥させた後に粉末にした場合、恐ろしい滋養強壮が生まれる事が確認された。
とある疫病が流行った国に持っていって、死亡寸前の者に提供してみたら
全快とまで行かずとも、病から息を吹き返す程の効能があったのだ。
これを確認した疫病の国はすかさずギルドマスターに救いを乞う。
だが病原の範囲が圧倒的に広すぎたため、マスター一人で完治は無理だった。
出来る限り、という事で……冒険者の依頼リストに
スライムとの邂逅と、その際に出来た謎の物体の納品を反復依頼として登録。
その謎の物体の加工に加え、一人当たりの分量を最低限まで工夫。
広く全員に行き渡るようにしてみたところ……時間こそ掛かったが
死者が圧倒的に減った上で、国民生産力もゼロから徐々に復活し
その国は、崩壊の運命を免れる事が出来たのだった。
そして、その国は歴史上最初の竜の定期便の駅として登録される。
ついでに述べるとその事件が切っ掛けでスライムが肥大して
キングスライムへと至ったわけである。
◇
「よし、こんなところかな」
「おう、こんだけありゃぁ俺等も利益としちゃ十分だ。
ゴブリン共、お前等も問題ないだろ?」
「ギーギャッ!」
交渉は順調に進み、1時間後には終了を遂げる。
なお途中でアルギアは帰って来たのだが、冒険者連中に攫われた。
アレスの他に6組ほど依頼の更新を願い出てきて、泣く泣く戻らざるを得なかったのだ。
ミニアの脳裏では、半泣きになりながら書類を漁っている曾婆の姿が思い起こされた。
デーモン達の方へは食材と薬草をメインに
ゴブリン達の方へは毛皮や簡単な加工品、少々の食材。
そして3匹に増えたスライムには、キングスライムへのお土産に
5キロ程の消化しやすいモノを持たせ、完結と相成った。
あれだけの品物を全て買い取っても
こちら側の用意した素材がまだまだ残るこの商談。
商人が見たら卒倒した後に立候補に熱を入れること間違い無しな内容である。
価値からすれば1zから5000zが生まれているようなものである。
が、それでもギルドマスターは、自分達との付き合いが深い冒険者達に
その恩恵を与え続け、死傷率を軽減させる方向にしか使わない。
100年前と比べれば、冒険者の生存率は劇的に増していた。
「んむ、それじゃあお疲れ様だな。
今日一日はゆっくり休んでいってくれ。
テントで申し訳ないが、宿泊施設はいつも通りに貸し出しておく。
晩飯を楽しみにしててくれ」
『イィヤッホーーーーゥ!!』
(ぷるぷるぷるぷる)
先日リヴィスが大量に釣り上げ、持って来た魚を全部買い取ったのが功を奏した。
3日間程、魚漬けの夕食を繰り広げさせるつもりだったのだが
あの量なら今回の商隊の腹も一杯膨れるだろう。
余談だが、その際の買い取りでリヴィスの懐が一気に潤い
そして調子に乗ったところ、冒険者仲間全員に奢らされ
再び素寒貧になって、顔色が悪くなっていた事をここに記しておく。
「さて、では私も御婆様の手伝いをしてきましょうか。
ミニアに負けていられませんからね」
「いいのか? 疲れているなら娘と一緒に休んでいてもいいんだぞ」
「なに、仮にもドラゴンの血を引くのです。
この程度でへこたれていては先祖の名が泣きます」
「でもその最たる先祖のアルギアは完全にへこんでるぞ」
そうして二人一緒にギルドの受付窓口に目をやれば
机に即頭部を乗せ、半泣きで書類に文字を書き込んでいるアルギアが見えた。
「……私も空気を読んで休むべきですかね?」
「……いや、出来れば手伝ってやってくれ。
俺はこれからあいつらの歓待に忙しいからな……」
「アハハ、相変わらずの仲の良さのようで。
ミニア、行こうか」
「はいッ! お父様ッ!」
今回、2つの種族、スライムを入れれば3つの種族から買い取った品物を
どのように加工しておこうかと頭を悩ませながら、マスターは厨房へと入っていった。
横に目をやればアルギアが顔面ぐしゃぐしゃにして、ライゴウに抱きついていた。
エンシェントドラゴンの威厳もクソも無いシーンである。
冒険者ギルドは、今日も平和である。
自分の国の懐に貴重な素材が手に入るわけではないのに
何故に完全に認められているか。
『1.自国出身の冒険者がこれにより強化
2.使い捨てでも強ければ強いほど便利
3.一部、国を代表する英雄が生まれる』
という循環があるからです。
反復依頼 際限無く受託する事が出来る依頼。
戦争時の武器の運搬、疫病時の薬物の運搬に良く見られる。
そのまま持たせたら溶けてしまうんじゃないかという疑問は
溶けない素材でモノを包み込んでいると捉えてください。
塩酸で人体は溶けても、ガラスは溶けません。




