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RE.Ver【悪役転生 レイズの過去を知り、未来を変える】  作者: くりょ


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四話 お風呂ハプニング

屋敷へ戻ると、真っ先にリアナが駆け寄ってきた。


 「レ、れ……当主様!! なぜそのようなことに!!」


 彼女は慌てて「レイズ様」と呼びかけようとしたが、「当主様」と言い直した。


 「……は??? 当主?? え、俺……当主なの?」


 一瞬、頭が真っ白になる。


 だが次の瞬間には落ち着きを取り戻し、低い声でカッコつけて答えた。


 「まぁ……軽い運動をしていただけだ」


 その言葉にリアナは目を輝かせ、両手を胸に当てて言った。


 「さすがです……!」


 羨望と尊敬が入り混じった眼差しに、俺は内心ニヤリとした。


 (……うん。悪くない)


 そこへ、もう一人のメイドが慌てて駆け寄ってきた。


 「と、当主様! お召し物が……! お風呂を沸かしておりますので、どうかそちらへ先に……」


 俺は彼女を見て、首をかしげた。


 「……あれ? 君は?」


 その顔は、リアナとそっくりだったからだ。


 リアナが慌てて答える。


 「わ、わたしの妹の……リアノです!」


 「あぁ……リアノか。ありがとう。では、私はお風呂に入るとしよう」


 何気なくそう言っただけだった。


 だがリアノは目を丸くし、頬を赤くして慌てて答える。


 「は、はいっ! こちらです……!」


 心臓の鼓動が早くなるのを、リアノは抑えきれなかった。


 (レイズ様が……わたしに“感謝”を……?)


 ――使用人たちにとって、レイズは冷たく恐ろしい存在だった。


 理不尽で、わがままで、手のつけられない暴君。


 だが今目の前にいるレイズは違う。


 ぶっきらぼうで素直ではないにせよ、確かに“優しさ”を感じさせる。


 「……昔の、あの頃のレイズ様だ」


 リアナとリアノは、胸の奥でそう確信した。


 だが――当のレイズ本人は、そんなことを知る由もなかった。




 脱衣室に到着した俺は、さっさと服を脱ぎたかった。


 ……のだが、脱げない。


 理由は一つ。なぜかリアノが後ろに立っているからだ。


 「その……リアノさん?」

 「はいっ!」


 「なんでついてきてるの? 恥ずかしいから、あっち行ってくんない?」


 リアノは真剣な顔で首を振った。


 「そ、そんな……! 私は気にしません!」


 「いや、どう見ても俺が気にしてる場面でしょうが!!」


 声を荒げて突っ込む俺。


 「とにかく、見せたくないの! 出てって!」


 リアノはしゅんと肩を落とし、しぶしぶ脱衣室を出ていった。


 (……なんなんだよ。こいつら、非常識すぎるだろ……)


 ため息をつきながら、ようやく衣類に手をかける。


 するすると簡単に脱げていく。


 (ん……?)


 違和感があった。


 最初は窮屈に感じていたはずの服が、今は驚くほどスムーズに脱げたのだ。


 「……う、嘘だろ。もう痩せたのか……!?」


 思わず拳を握りしめ、喜びを噛み締める俺。


 だがこのとき――


 「非常識」なのはリアノでも屋敷の使用人たちでもなく。


 ……むしろ俺自身の方だということに、レイズはまだ気づいていなかった。


湯気が立ちこめる風呂場に足を踏み入れる。


 湿った空気と石造りの壁に反射する光が、どこか妖しい雰囲気を漂わせていた。


 (……なんだか、色気を感じるな……)


 視線をやると、湯船に人影がひとつ。


 肩まで浸かり、こちらに手招きしているように見えた。


 (まさか……これ、ご都合展開!?)


 心臓が跳ね上がる。顔を赤くしながら、俺はそろそろと湯船へ近づいていった。


 だが――


 「……おじいさんじゃねぇか」


 そこにいたのは、ヴィルだった。


 がっかりなんてしていない。していないはずだ。


 俺は素知らぬ顔で影の招きを無視し、桶でお湯を汲んで頭と体を丁寧に洗い始めた。


 (……あぁ、なんだか元の世界の銭湯を思い出すなぁ)


 感傷に浸る間もなく、ヴィルが不機嫌そうに眉をひそめる。


 「さっさと来いと言っているだろう!」


 腕を伸ばされ、俺はそのまま湯船にずるりと引きずり込まれた。


 隣に腰を下ろすヴィル。


 (なんなんだよ……これ……)


 俺は思わず残念そうな顔を浮かべる。


 当主に対して失礼すぎるだろ。だが同時に――心の奥底で理解していた。


 (……こいつだけは絶対に怒らせちゃダメだ)


 ため息をひとつ。俺は観念して声をかけた。


 「……はい。ヴィルさん、なんですか?」


 ヴィルはどこか満足げに目を細める。


 「当主である自覚を持て。それと――服は脱がせてもらうものだぞ」


 (……なんだこのじいさん。ただのエロじじいじゃねぇか……!)


 心の中で毒づく。もちろん絶対に口には出さない。


 しかし次の瞬間、ヴィルの声色は柔らかく変わった。


 「……だが、夕方まで鍛錬を欠かさなかったおまえを、私は誇りに思う」


 静かな湯気の中、その言葉は不思議な温かさを持って胸に沁みた。


 思わず涙がにじむ。


 (……ごめん。エロじじいなんて思っちゃって……)


 湯船に肩まで沈めながら、俺は熱い湯と温かい気持ちに包まれていた。


先に湯から上がったヴィルは、何事もなかったかのように姿を消していた。


 湯船には俺ひとり。


 「……あぁ、極楽だ」


 熱い湯に肩まで沈み、全身を伸ばす。幸せに包まれる瞬間だった。


 ふと手を握ろうとして、違和感に気づく。


 「はぁ……力が入らねぇな……」


 それは過酷な鍛錬の代償。


 一日中木刀を振り続けた腕は、すでに痺れるように力が抜けていた。


 仕方なくゆっくりと湯から上がる。


 だが――その瞬間。


 脱衣所の入り口に立っていたのは、リアナとリアノ。


 すっぽんぽんの俺と、目が合った。


 「…………」


 静止した時の中で、三人の視線がぶつかる。


 そして次の瞬間。


 それはそれは美しいほどに澄み切った悲鳴が、脱衣所に響き渡った。


 「キャーーーーーーーーーーー!!!」


 リアナでもなく、リアノでもない。


 ――俺の叫びだった。




 「キャーーーーー!!!」


 俺の悲鳴は屋敷中に響き渡り、ほどなくして使用人たちが駆けつけてきた。


 「な、何事ですか!?」

 「お、お当主様が……!」


 視線が一斉に俺へ注がれる。


 全裸のまま立ち尽くす俺は、羞恥心で頭が真っ白になった。


 「……だ、だれか……タオルを持ってまいれ……」


 かろうじて絞り出した言葉。


 すると、リアナとリアノが駆け寄り、両側からそっと体を拭いてくれる。


 「レイズ様、失礼いたします……」

 「すぐにお召し物をご用意しますから……」


 優しい手つきが、むしろ惨めさを倍増させる。


 周囲にはずらりと並ぶ使用人たち。


 その全員が固唾をのんで見守る中、俺は涙目でうなだれた。


リアナが俺の体を拭いている最中、不意に声をあげた。


 「――当主様ぁぁ!!」


 その真剣な声に、俺は一瞬ギョッとしたが……力の抜けたように返してしまった。


 「ん……なぁに……もう、なんでもいいんだよ……」


 疲労でぼやけた頭から漏れた、諦めの言葉。


 リアナの目に涙が浮かぶ。


 「当主様……お身体が、こんなにも縮んでしまって……」


 俺は、はっと顔を上げた。


 (――そうか! ついに……痩せたんだ!)


 胸を張り、尊厳を取り戻すように言い放つ。


 「どうだ! 痩せたんだぞ! すごいだろ!」


 だが――返ってきたのは歓声ではなかった。


 「……こんなにも、大変な鍛錬をなさったんですね……」


 リアナの瞳にあったのは、喜びではなく、純粋な“心配”の涙。


 周囲の使用人たちも次々と声をあげる。


 「そ、そんな……当主様が……」

 「お身体が……」


 全員に見つめられ、俺は顔を真っ赤にして叫んだ。


 「……ねぇ! 早く服を着せてぇぇぇ!!!」


 ようやく服を着せてもらい、俺は胸を撫で下ろす。


 だが、着心地に妙な違和感があった。


 「……ん? なんか緩いな」


 (おぉ……やっぱり痩せた証拠だ!)


 そう思った瞬間――


 ずるっ。


 ズボンがずり落ち、尻がちらりと覗いた。


 「……っっ!!」


 背後からはざわめき。


 リアナとリアノの頬も赤く染まる。


 「だ、だれかぁぁぁ!! 助けてくれぇぇぇぇぇ!!!」


 屋敷に、再び絶叫が響き渡った。


食堂へと案内された時には、俺の心も体もすでにズタボロだった。


 鍛錬に風呂騒動に、服の大失態……もはやこれ以上はないだろうと思っていた。


 だが、その期待は無残にも裏切られる。


 「…………は?」


 目の前に並んでいたのは、マンガでしか見たことのないほど豪華な骨付き肉の山。


 机いっぱいに並ぶ、肉、肉、肉。


 席に腰を下ろし、俺は震える声で尋ねる。


 「ねぇ……まさかとは思うけど……これ、俺が全部食べるの……?」


 リアナはにっこりと優しく微笑んだ。


 その表情は慈愛に満ちていて、そして――どこか涙がにじんでいた。


 「もちろんです。当主様のためにご用意したものです。


 どうぞ、私たちのことはお気になさらず……ゆっくり召し上がってください」


 そう言い残し、リアナはくるりと背を向けて去っていく。


 残された俺は、巨大な肉の山と向き合う。


 「……あのさぁ……頼むから最後まで話を聞いてくれよ……」


 小さくぼやきながら、仕方なくナイフとフォークを手に取り、ゆっくりと食事を始めたのだった。




 ナイフを手に取り、恐る恐る肉へと刃を入れる。


 分厚い骨付き肉の表面から、じゅわっと肉汁が溢れ出した。


 「……う、うまっ」


 一口かじった瞬間、口いっぱいに広がる芳醇な旨み。


 その美味しさに、言葉を失う。


 だが――頬を伝うのは喜びの涙ではなかった。


 「……なんでだよ……」


 視界が滲む。


 報われない努力。


 伝わらない気持ち。


 笑われ、勘違いされ、結局誰にもわかってもらえない。


 そんな悲しさが込み上げ、気づけばぐすん、ぐすんと鼻をすする音が食堂に響いていた。


 それでも――手は止めなかった。


 涙で味もわからなくなりながら、それでも必死に食べ進める。


 そして最後の一切れを口に放り込んだとき。


 空になった皿がずらりと並ぶ。


 泣き腫らした顔で、俺は静かにテーブルへ突っ伏した。


 こうして、涙と汗と肉汁にまみれながら、俺は料理をすべて平らげたのだった。


レイズは、ぐすんぐすんと鼻をすすりながら肉をかき込んでいた。


 涙をぽろぽろとこぼし、皿にぽたぽたと落としながら。


 それでも、手を止めない。


 ――その姿を、扉の影からリアナがそっと見守っていた。


 「レイズ様……」


 胸の奥が、じんわりと熱くなる。


 (あれほどの鍛錬をなさって……それでも“軽い運動”だと虚勢を張られて……)


 (当主である自覚を……確かに示されていました……)


 ぽろり、と目尻から涙がこぼれた。


 「……嬉しいです。私、とても嬉しいです」


 震える声で、誰にも聞こえぬように呟く。


 (ですから……どうか、心ゆくまでお食事をお楽しみくださいませ……)


 ――完全なる勘違いだった。


 レイズが流している涙の理由を、リアナは一切理解していない。


 だがその誤解は、リアナの胸に温かな確信を育てていった。


 ――当主様は、変わられたのだと。


 かつてのレイズは、彼女にとって恐怖の象徴だった。


 怒鳴り、命じ、食べ、笑い。


 屋敷の誰もが目を逸らす存在。


 そしてリアナは、理解している。


 もう“あのレイズ”はいないのだと。


 目の前にいるのは、


 必死に汗を流し、


 必死に学び、


 必死に何かを掴もうとしている少年。


 それが――


 リアナにとって、何よりも嬉しかった。


 だから彼女は、静かに涙を拭い、そっと扉から離れる。


 レイズは知らない。


 自分の涙が、


 誰かの希望になっていることを。


食後、リアノが部屋まで案内してくれた。


 俺は尊厳を取り戻したかのように顎を引き、低い声で言い放つ。


 「……ご苦労」


 それらしく振る舞い、堂々と扉を開ける。


 だが――


 次の瞬間、視界に飛び込んできた光景に、俺は凍りついた。


 壁に掛けられていたはずの絵はビリビリに裂かれ、


 カーテンは半分外れて無残に垂れ下がり、


 床には赤黒い染みが広がっている。


 「……いや、ホラーかよ!!」


 思わず叫び、反射的に廊下へ飛び出す。


 「リアノ!! きてくれ! 部屋を……部屋を! 悪魔の仕業だぁぁぁ!!」


 情けない悲鳴に、リアノが慌てて駆けつけた。


 「当主様、どうなさいましたか!?」


 「ひ、一人じゃ入れない! 見てくれ……! お前も一緒に……!」


 リアノは目を丸くする。


 「……い、いいのですか? いつもは絶対に入れてくださらなかったのに……」


 (……え? そんな設定知らねぇよ!)


 事情を知らぬ俺は必死にうなずく。


 リアノは勇気を振り絞り、部屋へ足を踏み入れた。


 そして。


 無残に裂かれた絵を見つめ、そっと口元を押さえる。


 「当主様……ここまで……心を痛めておられたのですね……」


 その瞳には涙が浮かんでいた。


 俺は、そこでようやく悟る。


 (……あぁ、この体の本来のレイズは……めちゃくちゃ荒んでたんだな……)


 深刻そうな顔を作り、低く呟く。


 「……あぁ、色々あったさ。だが、それはもう思い出してはいけない」


 もちろん、内心は――


 (何も知らないけどな!!)


 リアノはその言葉に強くうなずき、覚悟を決めたように言った。


 「わかりました。当主様! では今夜は、私の部屋でお休みください!」


 「……え? 女の子の部屋に!?」


 間髪入れず、さらに言葉が重なる。


 「それなら、私はこちらで寝泊まりいたします」


 「いやいやいやいや! 女の子をこんなホラー部屋に泊められるわけないでしょうが!!」


 必死に否定する俺。


 だがリアノは、なおも真剣な顔で言い切る。


 「では――当主様。私の部屋で、一緒にお休みしましょう!」


 「…………」


 完全に噛み合っていない。


 俺は深く、深くため息をついた。


 (そうじゃないって……)


 (ここのやつら、なんで分かんないんだよ……?)


 レイズが戸惑う理由。


 それは、いくら当主とはいえ――


 異性が当然のように自室へ招くという感覚。


 あまりにも、慣れていない。


 前世の常識が、強く拒絶していた。


 だがリアノの瞳には、打算も色気もない。


 ただ、“当主を守る”という一心だけが宿っている。


 その純粋さが、余計に俺を混乱させるのだった。

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