風船パンッ!鈴カシャカシャ!
「園内を『防衛要塞』に変えるの。トラップを多めにね」
先生は両手を腰に当て、門から園庭中央へ向かう一本の道を指で描いた。指先が空気を切り裂くように、しかし優しく。
「鬼さん専用ルートを作るよ。門から園庭中央を通って教室へ向かう道だけ通れるように、遊具やマットで『壁』を築くの。横道は全部ブロック! 鬼さんが迷わないように、でも逃げられないように」
彼女は右手を滑り台の下へ差し出し、左手を押し下げるジェスチャーをした。
「トラップゾーンは鬼さんが通る道に並べるの。一番目は『ふわふわ沈みマット』。踏むと沈む厚いマットよ。鬼さんが『うわっ、動けない!』って演技で止まってくれるの」
先生は小さく笑って、次に両手を頭上に持ち上げ、吊るす仕草をした。
「二番目は『風船鬼トラップ』。天井や木から吊るした鬼の顔風船――画用紙の角と毛糸で作ったの。新聞紙ボールを投げて割ると『パンッ!』って音がして、心が揺らぐ。子供達は隠れて投げるだけよ」
彼女は体を軽く左右に揺らし、滑り台の上を指で示した。
「三番目は『鈴入り豆の雨ゾーン』。滑り台の上やフェンス沿いに子供達が隠れて、鈴入り紙ボールを大量に降らせるの。音と量で鬼さんの集中力を削ぐんだから」
次に、先生は両手を床に並べて、転がす仕草を繰り返した。
「四番目は『起き上がりこぼし鬼ピン』。ペットボトルに鬼の顔を描いて並べるの。転がした豆で倒してもすぐ立つやつ。鬼さんが『また立つのかよ~』ってイライラして、心が折れやすくなるよ」
最後に、彼女は両手を胸の前で交差させ、狭い道を囲むように腕を回した。
「五番目は最終トラップ『ハートブレイク迷路』。教室前でマットと遊具で狭い道を作って、子供達が両側から空気砲やストロー吹き矢――紙吹雪を吹くの。それで攻撃。逃げ場なしよ!」
鬼の視線は微動だにしない。鉄柵を握る指だけが、ほんのわずかに白くなっている。
ユウコ先生は深呼吸をして、指で順番に示していく。
「チームは賢く配置するの。一番目は『隠密偵察隊』。年少さんの八人。遊具の陰で鬼さんの動きを監視して、『鬼さん来たー!』って合図で全員に伝えるよ」
彼女は体を低くして、隠れる仕草をしてみせた。
「二番目は『トラップ発動隊』。年中さんの十人。トラップゾーン担当。鬼さんが来たら一斉に風船割ったり、豆の雨を降らせるの」
先生は右手を胸に当て、左手を遠くへ伸ばした。
「三番目は『援護射撃隊』。年長さんの八人。中距離から空気砲や鈴入り豆で正確に狙う。鬼さんの仲間を分断しちゃうよ」
最後に、彼女は両手を胸の前で合わせ、目を細めて微笑んだ。
「最後は『最終決戦隊』。四人と先生で。鬼さんが基地に近づいたら、全員で円陣を組むの。『鬼は外! 福は内!』の大合唱しながら、最後のスペシャル空気砲+紙吹雪を一斉射撃!」
先生は一息ついて、戦いの流れを指で順に描いた。
「戦いの流れはこうよ。鬼さん三人が登場したら、偵察隊が『来たー!』って。鬼さんがルートに入ったらトラップ発動! 沈みマットで足止め、風船のパンッて音が連発!鈴の雨で耳キーン!」
彼女は両手を広げ、左右に振って挟み撃ちを再現した。
「鬼さんが進んだら、起き上がりピンで『またかよ~』って心を削って。基地近くになったら援護射撃で仲間を孤立させ、最終迷路で囲んで空気砲フルバースト!」
ユウコ先生は両手を高く上げ、勝利のポーズを取った。
「鬼さんが『もう……心折れた~!』って言ったら終了。みんなで『勝ったー! 福は内!』ってハイタッチ!」
彼女は一息ついて、門の向こうの鬼をまっすぐに見つめた。頰に冬の風が冷たく当たり、髪を揺らす。
鬼は、長い沈黙のあと、鉄柵を握る手をゆっくりと緩めた。冬の夜は、さらに深みを増していた。
そもそも、もう幼稚園の業務時間は終わっている。
だからユウコ先生が、今笑顔で話しているこれは『残業』である。
決してこの幼稚園はブラックではない。
残業とはこういった事から発生する事も多々あるのだ。




