豆弾レベルアップ! 鈴入りスペシャル
「まずは基本ルールからね。安全第一よ」
ユウコ先生は両手のひらを上に向け、ゆっくりと押し出すような仕草をした。まるで、目に見えない境界線を描くように。
「すべての『攻撃』は、鬼さんの心を折るためのものだけ。体に当たっても痛くない・危なくないものだけ使うの。子供達は『逃げながら・隠れながら・協力して』戦う。絶対に鬼さんに近づいて殴ったりしないよ」
彼女は指を一本立て、軽く首を振って強調した。
「鬼さんが『心折れた~!』って言ったら即終了。皆で『やったー!』ってハイタッチ!」
鬼の視線は微動だにしない。鉄柵を握る指だけが、ほんのわずかに白くなっている。
先生は深呼吸をして、園庭のほうへ体を向け、腕を広げた。
「次は強化準備。当日朝までに、皆で作るのよ」
彼女は両手を丸めて、紙を丸める仕草を繰り返した。指先が優しく円を描く。
「豆弾レベルアップ! 新聞紙ボールを大量生産して、中に少しだけ鈴や紙吹雪を入れるの。当たったらカシャカシャ鳴るスペシャル豆になるよ。これで鬼さんの心を、音でくすぐっちゃう」
次に、先生は右手を滑り台の方向へ差し出し、左手を床に押し下げるようなジェスチャー。
「トラップゾーンは園庭に『鬼さん専用ルート』を作るの。滑り台の下に『ふわふわマット鬼トラップ』――鬼さんが踏むとふわっと沈んで動きにくくなる。ただのマットだけど、鬼さん役が演技で転んでくれるのよ」
彼女は小さく笑って、遊具の陰を指で示す。
「遊具の陰に『隠れ豆壺』。子供達が隠れて豆を投げられる場所。門の近くには『鬼さんボウリングゾーン』。ペットボトルに鬼の顔を描いたピンを並べて、転がした豆で倒すの。ガシャーン!って音が心を揺らすんだから」
鬼の肩は動かない。息づかいさえ、ほとんど聞こえないほど静かだ。
ユウコ先生は両手を胸の前で交差させ、目を輝かせて続けた。
「最終兵器は『ハートブレイク・ビーム』! 空気砲――空気でポンポン飛ぶおもちゃのやつ――や、ストローで紙吹雪を吹く『吹き矢豆』。鬼さんの顔の近くで『ふわっ』と当たるだけ。心をくすぐって、ぽきっと折るのよ」
彼女は両手を広げて、まるでビームを発射するように前へ突き出した。冬の息が白く、鉄柵の隙間を抜ける。
「チームは『ヒーロー部隊』に再編成するの。一番目は『偵察・隠密部隊』。年少さん中心の十人。園庭の遊具や木の陰に隠れて、鬼さんが来たら『鬼さん来たー!』って合図。隠れながら豆をポイポイ投げて、鬼さんの注意を散らすよ」
先生は体を左右に軽く揺らし、隠れる仕草をしてみせた。
「二番目は『援護・トラップ部隊』。年中さんの十人。鬼さんルートに『豆の雨』を降らせるの。ボウリングゾーンで鬼さんが近づいたら、転がし豆でピンを倒して『ガシャーン!』連発。鬼さんが混乱したら、吹き矢で紙吹雪を『えいっ!』って吹きかけて、視界をふわふわにしちゃう」
彼女は両手を広げ、紙吹雪が舞うイメージを空中に描いた。
「最後は『決戦・心折り部隊』。年長さんの十人と先生で。鬼さんが基地――教室前――に近づいたら、全員で円陣を組むの。『鬼は外! 福は内!』の大合唱しながら、スペシャル豆+空気砲+紙吹雪を一斉射撃!」
ユウコ先生は両手を胸の前で合わせ、目を細めて微笑んだ。
「最後に皆で『鬼さん、心ポキッと折れてね~!』って叫んで、鬼さんが大げさに『うわぁ~心が折れた~!』って倒れるの。きっと、皆が笑顔で終われるよ」
ユウコ先生は本当に優秀である。
僅か数秒でこの完璧な作戦を閃いた。
彼女のトラブル処理能力は超一流であろう。
給料を上げてあげるべきだ。




