【日常の36】悪魔についての一考察
ダンタリオンさあ。
「何?」
悪魔っていると思う?
「私に対してそういうこと訊くんだ。いい度胸ね。」
Ψ
「結論から言うとさ。」
言うと?
「私はいない方に千円。」
そうなんだ。
「そうよ。私、悪魔じゃないからね。」
知ってるけどさ。
「悪魔って、要は神様のカウンターパートで、悪いことしかしない存在よね。」
そうだね。
「悪いこと沢山しながら生きていくのは簡単だけど、悪いことだけしかしないで生きていくのは、多分無理なんじゃないかしら?」
なるほど、そういう視点か。
「情けは人のためならず、って言うでしょ?人間に限らず、生き物って、自分が生きていくために、時には他の個体を助ける行為をせざるを得ないんじゃないかしら。」
ほう。
「人間みたいな社会性の動物は特にそうよね。」
植物もそうだね。樹木があるから下草は生きていけるし、種類によっては菌類を介して栄養のやりとりをしたりもしてる。
「経済とかもそうだと思うのよ。」
経済も?
「経済って、単純にものを売り買いするだけじゃ、規模が大きくならないでしょ?」
というと?
「大きな商いをするためには、手持ちのお金だけじゃ足りないから、ひとは誰かからお金を借りる。」
なるほど。
「で、お金を貸す人は、その人の手持ちのお金とか今の仕事の状況とか、これからやろうとする商売のアイデアとかを聞いて判断するんだけど、最終的にはその人を信用してお金を貸すわけよね?」
そうだね。疑ってばかりではお金は貸せないよね。
「そうやってお金を借りた人が商売を成功させれば、お金は、そのうち利子がついて貸した人の所に戻ってくる。」
最初よりもお金が増えたね。
「その増えた分は、信用が作ったお金よね。」
だね。
「だから、経済行為の根っこには『信用』がある。人は徹底的に疑うよりも、ある程度信じたほうがお金が儲かるの。」
一見ぎすぎすした経済活動も、じつは根本のところには「性善説」があるってことか。
「うまいこと言うわね。」
◇
「ということはさ。」
ということは?
「悪いことしかしない悪魔は、人を信じられないから、儲からないの。」
そうか。
「儲からないどころか、普通に生きていくのも難しいと思うわ。」
だから、悪いことばっかしている悪魔も、生きていくためには、たまにいいことをする必要があると。
「そうなんじゃないかなあ。私はそう思うけどね。」
ま、うまくいかない時もあるけどね。
「ある程度はしょうがないのよ。信じるってそういうことでしょ?」
◇
じゃあ逆に、ひとは良いことだけして生きて行けるのか?
「それは『神っていると思う?』っていう問いに似てるかも。」
悪魔のカウンターパートを神だと仮定すればね。
「私の勝手な考えだけど、こっちの方は、可能性としてならあり得るんじゃないかしら?」
とても難しいけどね。
「実際に出来てる人はいないだろうけど、原理的に不可能というわけではないような気がする。」
なるほど。悪魔は存在し得ないけれど、神は存在し得ると。
「それはまた別の問いのような気がするけどね。」
◇
「ショウキは、今日はなんで突然こんな話を振って来たの?」
実は今朝、トイレに入ったらね。
「……トイレ?」
神が切れてたんですよ。
「おい一行前に誤字があるわよ。」
ほんとだ。
「で、どうしたのよ。」
その時、昔大学のトイレで見つけた落書きを思い出したんですよ。
「…………どんな落書き?」
神に見放された者は、自らの手で運をつかめ。
「汚いわね。で、神切れの件はどうなったのよ。」
一行前に誤字があるよ。
「ほんとだ。」
トイレのすぐ脇の洗濯機の上に、予備のロールがまだあったから、事なきを得ました。
「………良かったわね。」
◇
「親愛なる読者の皆様、今回は汚い話で締めてしまって申し訳ありません。」
食事中だった方、いたらごめん。
「ショウキ、次はきれいな話をお願い。」




