09
「おはよう、静子もパンを食べる?」
「ん……食べる」
「それなら焼くわね」
もう夏休みになって既に七月も終わってしまっている。
もっと言ってしまえば八月になってからも時間が経過していてもう十一日だった、だけど今日はただの平日というわけではない。
「今日はお祭りよね、夕方になったらいきましょう」
「ふぁ……うん、だけど楽しめることばかりじゃないからね」
「縫先輩と藍佳のこと?」
彼女はそうとも違うとも言わずにぼうっとしているだけだった。
そうこうしている内にパンも焼けたからバターを塗って渡すと「ありがとう」と、ずっと固まっているわけではなくて安心する。
「なんか言いたくなったから言っておくけど、私がこの家から通わせてもらうようになったきっかけは瑠伊ちゃんだからね? 瑠伊ちゃんがいたから頼み込んだんだよ」
「お母さん同士がお友達だったからできたことよね」
一年生のときは遠くても通えていたわけで、なにかがなければこんなことにはならないと考えていたけどそういう理由だったらしい。
「そうっ、だから恵まれているんだよ私はっ。でもね……? だからずるいんじゃないかって考えるときがあるんだ。だってあの二人は家に帰ってしまえば瑠伊ちゃんとはいられないのに私は意識をしなくても一緒にいられるんだからさ」
「実際、縫先輩も同じようなことを言っていたわよね」
「うん、だけど……瑠伊ちゃんを取られるのは嫌だな」
あれから何回も集まったり何回もお家に来る度に所謂アピールをしてきていたから適当とも思えなくなってしまった。
ただ誰かの邪魔をしたいだけなら私だってなんにも感じずにいられた、でも、真剣だからそういうわけにもいかない。
つまり私は揺らがない、適当に言ったわけではないとか口にしつつ影響を受けてしまっているのだ。
救いな点は私から彼女にアピールをしたことは一回もないことだ。
いまは周りが動いているだけ、そういうのもあってまだなんとかやっていけている。
「自分からは動けないから動いてくれた人のそれを受け入れるだけよ」
「つまり……」
「そうね」
何度も言うけど私が選ばれないのが一番であることには変わらない。
それでも、うん、それでもと頑張ってくれる人がいるなら私は受け入れる。
矛盾してしまっているものの、彼女からであっても先輩からであってもだ。
「お祭りの日ぐらいはただ楽しみたいけれどね」
「うん、私もお祭りは楽しみたい」
始まりよりは減ってしまったけどまだまだ夏休みは残っている。
私達は出会ったばかりではなくなった、だからこそ一緒に過ごせる時間の価値が上がっていく。
頼まれたから合わせているのではなくて気が付けば自分がそうしたくて動いている。
「瑠伊ちゃ――ちょっと出てくるね」
「ええ、お願い」
彼女は言いかけてやめるか、途中で誰かが来て中断することが多かった。
これも気にならないわけがない、曖昧な状態ではいてほしくないからどちらにしてもはっきりしてもらいたい。
すぐに彼女は先輩を連れてきて横に座った。
「今日のお祭りは全屋台を攻略するつもりでいるから覚悟していてね」
こっちはこっちで全力でお祭りを楽しもうとしているみたいだった。
それが現実的かどうかはどうでもいい、私からしたら朝から悪い雰囲気になったりしなくてよかったとしか言えない。
「あ、買った食べ物は全部瑠伊に貢ぐからよろしくね」
「それは無理ですよ、あと、ちゃんと食べてください」
仮に貰うことになってもその場合はちゃんとお金を払う。
奢ってもらえるようなことはしていないうえに相手にとっていいことをしてあげた後でも動いてもらいたくはない。
「静、瑠伊ってちょっとノリが悪いところがあるよね?」
だけだったけど言葉で刺されてしまった……。
言い訳をしたところで実際に本当のところであるから変わらなくてもなにも影響を――流石にくどいか。
「んー縫ちゃんはたまに冗談じゃないときがあるから難しいのもあるよ?」
「使った金額イコールお祭りを楽しめたというわけじゃないけどなにかを買って食べた回数が多いほど楽しめていると僕は考えているだけだよ」
「だったら私は二千円ぐらいは使おうかな」
空気が読めないと言われてしまっても私は千円ぐらいで留めておこうと思う。
貯めてあるから厳しいわけではないけどお腹の方に余裕がない、あとは両親のためにお土産として買いたいのもある。
そのためなら自分には一つあればいいぐらいだった。
「二千円なら頑張っても四つぐらいしか買えないよ」
「はは、お腹に余裕があるわけじゃないからね」
「大食い選手みたいに食べていそうなのに意外だ」
「そもそもここは瑠伊ちゃんの家だからね、仮にいっぱい食べられる人間でも遠慮はするよ」
大好きなエビフライが出てきたときはご飯をおかわりしているぐらいだけどそれだけ、無駄に遠慮ばかりしているわけではないのなら安心だった。




