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「おお、もう人がいっぱい来ているな」
「静のせいで遅れた、よく反省してほしい」
「あはは……ごめんね?」
遅れたと言っても到着が十七時半になっただけで全く問題はない時間だった。
寧ろ花火が打ち上げられる時間まで沢山あるから人混みに疲れて休憩することにならないかが心配だ。
一人で休憩をしていると言ったところで聞いてもらえなさそうなのでそうならないことを願っている、なにも言われなくてもそれはそれで気になるから面倒くさいことになるから避けたいのもある。
「じゃあ瑠伊をよく見ておいて、そうしたら許してあげる」
「了解っ」
「よし、じゃあ僕は端から端まで全部買わなければいけないからこれで」
「私も、縫先輩と同じぐらいは無理でもコンプリートするつもりで動くからな」
「あれ、え、おーい……」
せっかく四人で来たのにあっという間に二人きりになってしまった……。
見つめ合っていても邪魔にしかならないからとりあえず歩き出した私達だけど……気にならないと言えば嘘になる。
「もしかして空気を読んでくれたのかな?」
「そうかもしれないわね」
本当でただ食べ物が買いたかっただけだとしても変わらない。
彼女が本気ならこれでやりやすくなったのではないだろうか? 私的には今日なにも起こらなくてもそれでいいと思っているけれどね。
「クレープ……ポテト……肉巻きおにぎり……どれも美味しそうでどれも人が沢山並んでいて悩ましいね」
「私はクレープを買うわ、あなたも欲しいなら買っておくわよ?」
「それならチョコクレープをお願い! 私もちゃんと戦利品を持ち買ってくるから期待していてね!」
そうか、結局こうしてどこかに並んでしまえば同じように行動とはいかないか。
目のやり場に困るとかそういうこともないから列に並びながら適当なところを見て時間をつぶしていた。
列と言っても五分ぐらい待てば買えるから遊園地の待機列なんかよりは遥かにマシだと思う、あとはそこまで大きなお祭りではないのも影響しているはずだ。
「静子は……」
あ、まだ並んでいるみたいだ。
あくまで有名なお祭りに比べて人がいないというだけで混んでいることには変わらないから適当に突っ立っておくこともできないのが困る、だから離れるしかなかった。
それでも昔と違う点は携帯を持っていること、離れてしまっても届きさえすればすぐに合流は可能なのだ。
「はぁ……はぁ……たった二つの食べ物を買っただけなのにこの疲労感は……」
「お疲れ様、はい、チョコクレープ」
「ありがとうっ、これはお返しだよ!」
「ふふ、私にはこの三つだけで十分ね」
一旦離脱して座れる場所を探した。
会場内ならどこもそれなりに明るいから暗い場所でひっそりと存在しておくなんてことにはならなかった。
「しょっぱい食べ物にはやっぱり甘い物が必要だよね~あむ、うん、クレープ美味しい!」
「そうね」
「これって人間関係というか生きているときも同じじゃない? やっぱり自分にとって甘い事もないとやっていられないからさ」
「確かに厳しいことばかりでは嫌よね、問題なのは甘すぎてしまうことだけれど」
他の人が優しくしてくれるのは本当にありがたいことなのはわかっている、が、そのまま自分に甘くしすぎてしまう自分がいるから手放しで喜べないのは確かだ。
「それで、さ、私にとってこのクレープみたいに甘いことはさ」
甘い事、甘い展開というのは自分から動いた場合にも当てはまるのだろうか。
例えば私が内にある感情を真っすぐに出して動いた場合はこちらに興味がある彼女からすれば該当する気がする。
「暑くないの?」
「暑くないよ、それどころか安心しかできない」
「ふふ、安心しかできないって面白い言い方ね」
いや、彼女から動いた場合でも私が拒まずにいれば同じか。
「ね、いいよね?」
「私は問題ないわよ」
「じゃあさ――あ、もう……盗み聞きとかなしだよ」
「たまたまだよ、ほら、持つのが大変になったからゆっくり座って食べられる場所を探していただけ」
「わ、私も同じだ」
クレープにポテトに肉巻きおにぎり、お腹的には十分だけどお祭りと言えばの焼きそばを買ってくることにした。
これで千円だ、食べ終わった後にお土産を買うことで目標は達成できる。
「もうお腹がいっぱい、これは四人でわけよう」
「えっ、ほとんど食べていないじゃん!」
「ま、まあ、今日は買うのが目標だったから達成はできたよ……うぷ」
お土産用にちゃんとお金を払ってから食べ物を貰った。
こうなってしまえば見て回る必要もなくなってしまったからゆっくりすることになった。
「藍佳、少し落ち着きがない」
「あ、私はまだ食べられるから……」
「でも、動きたくない」
「私も貰った物を食べたい」
こういうときだからこそなのか普段はやはり遠慮をしているだけだったのか。
そこが気になるところではあるけどとりあえずは後回しでいい、藍佳と一緒に見て回ろう。
「それなら私が付き合うわよ?」
「おっ、じゃあいこうぜっ」
屋台があってすぐに飛びつくかと思えばそうではなかった。
二人から少し離れたところで足を止めて「悪い」と謝られてしまう。
「縫先輩を止められなかった、言うことを聞いてくれなかったんだ」
「あなたが謝ることではないし気にしなくていいわよ」
「えっとさ、勘違いじゃなければ……あー……」
「そうね、あのままだったら静子は告白をしてきていたかもしれないわ」
私が受け入れていたら手を繋いで見て回ろうと言い始めたかなと想像してみる。
すぐにくっくようで八月に入ってからはそうでもなかったから反動でそれ以上のことをされる可能性もゼロではないはずだ。
今回も途中で誰かが来て中断となったものの、残念ではない、けれど……。
「やっちまったなあ、あ、いや、解散後に二人でやれた方がよかったのか……?」
「いまでも後でも結局は変わらないわよ、動いてくれたら私も応えるわ」
「おおっ」
自分のことでもないのに嬉しそうな顔……なのだろうか? 私は藍佳がまだまだわからなかったりもする。
「それよりいいの?」
「おう、ちょっと二人でゆっくりしようぜ」
邪魔にならないところに移動してまた座った。
「言っておくけど興味があるって言ったのは適当じゃないからな?」
「ええ」
「でも、まさかこんなにすぐに変わるなんてなあ」
「リセットしていなかったらいまも距離ができていたのかもしれないわね、こう……一緒にいるけど信用しすぎないという感じで」
そのリセットだってなにかを捨てる勇気でやったものではない、つまりこれまでの私は自身が作った下らないルールのせいで……なにをしていたのか。
ただ面白いのはその下らないルールで縛っていた私を気に入って静子がお家にやって来たということだった。
静かだから好きだとか? やる必要があるからやっているだけで真面目でもないからそれぐらいしか考えられない。
静子本人が元気だから似たようなタイプではなく真反対のタイプが気になった、と片付けておけばそこまで違和感もない。
あくまで想像、妄想で実際にそういう理由で人を求める存在がいるのかどうかはわからないけれど。
「ああ、頼まれたから受け入れるぐらいの話ってことだろ?」
「そう」
「少しアレかもしれないけど話しかけてよかったよ」
「そうね、藍佳もいい方に傾いた理由に含まれているわ、ありがとう」
「よし、満足できたから瑠伊を静子先輩に返さないとな」
戻るとひっくり返っている先輩とちょっかいを出している静子がいた。
「げふ……ちゃんと食べてきた……?」
「おう、それより復活してくれよ」
「花火の時間まではこうさせて……あと瑠伊、静が面倒くさいから連れてちょっと離れて」
「わかりました」
五人分ぐらいの距離を作った。
こちらにやってくることはなかったからただ先輩と遊びたかったのだろうと片付ける。
「ここだけの話だけどね、あれは演技なんだよ、縫ちゃんはすぐにお腹いっぱいになったりしないんだよ」
「そうなのね」
「だからお礼がしたくてお腹を撫でていたんだけど逆効果だったみたい」
「それなら頭にしなさいよ」
彼女の言っている通りならお腹を撫でてもなにも効果はないから意味がわからない。
「足を貸すのでもよかったかな?」
「そうね」
座ったり寝転んだりしている時点で汚れてしまうなんて言うのは意味ないからそうだ。
自分の手を頭の下に置いておくより遥かに痛くならない、している側も正座でなければ長時間でもない限り大変ではないだろう。
「……瑠伊ちゃんの馬鹿、駄目って言ってよ」
「別にしたければすればいいじゃない」
「馬鹿!」
「きゃ――」
後頭部がそれなりの勢いで地面に当たってかなり痛かった。
下手をすれば死ぬ可能性もゼロではなかった……なんて考えている場合ではないか。
こちらを見下ろすその顔はとにかく悲しそうで、なんなら泣いてしまっているぐらい。
自分の頭をさするよりも彼女の頬に触れることでなんとか涙を止めなければならない。
「悪かったわよ」
本当に煽るつもりなんかなかったけど前とは違う、わかれと言われているようなものだ。
「い、いやっ、私の方こそごめんっ、いますごい音がしたけど大丈夫!?」
とはいえ、すぐにこうして彼女に戻ってしまったからなんか笑えてきてしまって実際に笑った。
「おかしくなっちゃった!」などと失礼なことを叫んでいる彼女を上からどかしてしっかりと座り直す。
「っとと、瑠伊、面倒くさい静をよろしく」
「はい」
「じゃ、後半戦といきますか。藍佳いくよ」
「あ、さっきの嘘でもう別に買わなくていいかな――あー!」
「いくよー」
もう一度二人きりになって二人で笑った。
ただ効果はあったみたいですぐに優しく抱きしめてきたのだった。
「ね、奇麗だね」
「ええ」
見上げるだけの価値がある。
でも、このままずっと見ていたい気もするけど首が疲れてしまうからそれなりでいい。
あとは手を繋いでいる状態だからそっちに意識を取られがちなのも大きかった。
「一枚パシャリと、よし、これで終わっちゃっても寂しくはならないよ」
大規模な花火大会というわけではないから集中していたらすぐに終わってしまった。
これが終わってしまえば残ろうとするのは片付けなければならない人達だけ、みんな会場から出てそれぞれの方向に歩いていく。
「お土産も買えたから大満足っ、それになんたって瑠伊ちゃんと二人きりだからね!」
「受け入れさせてもらうわ」
「ほんとっ? ありがとう!」
いや……ありがとうはこちらが言わなければならないことではないだろうか。
だって私はなにもしていない、つまり頑張ってもいないのにこんなにいい結果になった。
結局は私も彼女のことを求めていたわけだからかなり大きい、もし別れて一人だったらぴょんぴょんと飛び跳ねていたところだ。
流石にそんなところは見せられないから我慢をして抑えているだけ、気になるなら心臓の音ぐらいは聞かせてもいいかもしれない。
「というわけでもう参加させてもらうね」
「私も」
「と思ったらすぐにこれだ……藍佳ちゃんはいいけど縫ちゃんは邪魔をしてくるし……」
改めて時間を作ってもらって一人で説明しなくて済んだのは楽でいい。
ただ、舞い上がりかけたそこで実は見られていたと考えるとかなり恥ずかしくなった、前からこんなことばかりではないだろうか。
そして私が積極的に他者のそういうところを見たがるわけではないから一方的だ、関わっていくならこれからも回数が増えるだろうからただひたすら自分の問題なところが晒されていくだけという……。
誰かといられることは幸せでもやはりマイナスな事からも逃れることができないと教えられた気がした。
「それは静と瑠伊が悪い、関係が変わるまでは露骨に差を作るべきじゃないよ」
「それなら恋愛なんてできないでしょ……」
「僕はただ友達を独占されていて嫌だっただけ、あとは少しもどかしかったのもあるよ」
「え、じゃあ私のためだったってこと……?」
それはそうだろう、本当に興味を持っていたら進んで二人きりにしようとしたりはしない。
これについての答えも知られて本当によかった、これで引っかからずに彼女と仲良くできる。
「んー僕が瑠伊に興味を持ったことの方が強いけどね」
こ、これも彼女の中のなにかを刺激するために言っているだけだ、きっとそうだ。
「台無しだよっ、藍佳ちゃんもなにか言ってあげてよ!」
「私は瑠伊に勘違いをされていたことが悲しかったな、あとはもう少しぐらい瑠伊と二人で出かけたりしたかった」
「それならこれからもできるじゃない、誘ってくれれば付き合うわよ」
「瑠伊はそういう人間だよな、いきたくなったときに誘わせてもらうわ」
ただお友達とお出かけするぐらいなら彼女も許してくれるはずだった――というか、ちゃんとわかってもらってからいくから問題発生とはならない。
わざと煽るようなこともしない、しっかりと話し合いをして上手にやっていくのだ。
「うぅ、いいけどちゃんと言ってね?」
「当たり前よ」
「ならよしっ、これからもみんなで仲良くしよう!」
関係が少し変わっても四人で仲良くやっていきたい。
私達はまだ一年生と二年生だからそう難しいことではないはずだ。
「と、恋愛感情を持ち込んで壊しかけた人が言っています」
「そこうるさい!」
「うるさいのは静だよ、藍佳逃げよう」
「え、あ、おー……」
連れていかれてしまったから彼女とゆっくり会話をしながら帰った。
「あっ、たこ焼きを食べ忘れた!」
「ふふ、大事なのは食欲よね」
「って、それだけじゃないけどね」
抱きしめてきたから抱きしめ返す。
自分からしてきておきながら緊張していることがわかってそれについても笑えたのだった。




