07
土曜日の後半と日曜日を全て犠牲にすることでなんとか月曜日には登校することができた。
テストだって終わった後だったから休むことになってもそこまで問題ではなかった、けど、微熱の状態でいるのは辛いからこれでよかったと思う。
一緒に寝ていた静子さんに移してしまうこともなかった。
「おい佐藤、聞いているのか?」
「え? ごめんなさい、もう一度言ってくれる?」
「はぁ、そろそろ夏休みだろ? だからどっちの家でもいいけど泊まったりしたいなと思ってさ」
「いいわね」
その場合なら泊まらせてもらう方がいい。
流石にあのお部屋で三人や四人が過ごすのは狭い、余裕がない。
「もちろん、二人きりとか言わないから高橋先輩とか縫先輩とか誘って楽しくやろうぜ」
「あら、津崎先輩のことを名前で呼んでいるの?」
「あ、ああ、実は土曜日に一緒に過ごしてさ、なんか最初から最後まで楽しかったんだよなあ」
土曜日、か。
でも、結局のところは自分の想像通りだったということで風邪が治ったことと同じぐらいには落ち着けた。
自分が興味を持つのはなにもおかしくはないけど興味を持たれるのはおかしいから。
だから静子さんだって彼女や先輩と仲良くしてくれればいい。
「藍佳、ちょっと付き合って」
「お、おう」
「佐藤には静をあげる」
「いえ、気にしないでください」
言うことを聞いてもらえずにと言うよりも静子さんが自分の意思で付いていこうとはしなかったから駄目になった。
「なんかね、知らない間にあの二人が仲良くなっているんだよ、こそこそやっていてやらしいよね」
「邪魔はしないであげなさい、きっと相性がよかったのよ」
「でもね、それと同じぐらいもっと早く連れていってあげるべきだったって後悔している自分もいるんだよ」
「大丈夫よ」
「うわーんっ、縫ちゃんを取られたー!」
どっちが本当なのかと考えてどっちも本当のことだと片付ける。
優しくしたいそれと取られたくないそれが混じってどうしようもなくなる。
仲良くしてくれればいいと考えている私にもそういうときがあるのだ、経験があるからこそ出てくる答えだ。
「もういいもん、瑠伊ちゃんを抱きしめて過ごすもん」
「教室では困るわ、違う場所にいきましょう」
「わ、わかった」
残念ながら空き教室なんかはSHR前に開放されていないから人気がないところを探して歩くしかない。
あ、だからって自分から抱きしめたりなんかしない、矛盾した行為はなるべく少ないようにしたい。
あくまで彼女がしてくれたときだけ受け入れておけばいいのだ、求めるようになってしまったら怖いから気を付けないと。
「私でも縫ちゃんに話しかけるのは時間がかかっちゃった、半年ぐらいは時間を無駄にしちゃったんだよ」
「五月ぐらいから一緒にいるのよね?」
「そうだよ、最初のときはそれはもう勇気を振り絞ったよ」
「私と、いえ、なんでもないわ」
お家に住むから話しかけたのと興味を持って話しかけるのは全く違う、四月と五月で字面だけで見ればこちらの方が長いけどそれは全く関係ないのだ。
「なんでここまで緊張していたんだろうって呆れたけどね」
「一目惚れだったから……とか? ほら、お友達になりたい理由にも色々とあるじゃない」
作られた世界の話の中でしか見たことがないけれど。
「え、それはないよ、好きになっていたらここまで平気な感じではいられないよ、もう経験があるからわかるんだよ」
「例えばどんな風になるの?」
「なんてことはないことを話すときだっていちいち慌てちゃうぐらいだよ、酷いよ、そのときの私は」
「でも、誰かを好きになれるのはいいことじゃない、だからその状態のあなたを見たいわね」
こそこそとしなくていいから堂々と目の前で仲良くしてもらいたい。
Mというわけではないけどこのことに関してはそうとしか言えない、求められないようにしてもらいたい。
「だけど本当に酷いから……あ」
「うん?」
「な、なんでもないっ。そ、そんなことよりも気を付けてね、まだ治ったばかりなんだからさ」
「ええ」
風邪のことなんかどうでもいい、治れば一カ月は元気なままでいられる。
そういうのもあっていまのは必死に話を逸らしたかっただけという風に考えておいた。
まあ、自分から恥ずかしい状態のことを嬉々として言いたがるわけがないわよね。
「震えているの?」
「……一緒にいることしかできなかった」
「嬉しかったわよ、ひやひやした自分もいたけれど」
「それでもこうしてまた元気な瑠伊ちゃんが見られて嬉しい、私も風邪を引かなくて済んだし」
「そうね」
あれで一旦落ち着けたのもある。
強制的に線が引かれたことで止められたのだ、感謝しかない。
求め続けても手が届かなくて一人で泣くことになるぐらいならやはり誰かに取られてしまった方がよかった。
なので、鈴木さんには悪いけど一番可能性があった先輩を取られてしまったのが残念だった。
「佐藤、来たよ」
「……約束の時間まで――」
「あと三時間ぐらいあるね、いまは六時だよ」
今日はまた四人でお出かけすることになっているけど先輩は張り切りすぎだった、仮に待ちきれないのだとしても鈴木さんのお家にいけばいいのにと言いたくなる件だ。
「ふぁ……おはようございます」
「おはよ」
「でも、どうして鈴木さんの――」
「藍佳とはこの前過ごせたから、今日は佐藤の番」
「なら静子さんを起こして、あれ……」
「静なら藍佳の家に泊まっているよ、夜中に回収したからね」
ということは私の番とか言っておきながら真夜中には少し楽しんだということか。
自分が望んでいることであってもこれには笑ってしまう、自分に正直に生きられるのは羨ましいけれど。
「瑠伊って呼んでいい?」
「鈴木さんには聞かなかったんじゃないですか?」
「そうだけどほら、佐藤はプライドが高そうだから」
うっ、朝から言葉で苛められているのは何故……。
と、とにかく嫌ではないから名前呼びの件はしたければしてくれればいいと言っておいた。
「僕のことも縫でいい、これで仲良し」
「そ、そうですか」
「じゃ、九時までは独占するね、瑠伊は静とばかり仲良くしすぎだから」
四人で集まれば三人と一人になることは確定しているから苦い笑いしか出てこない。
前回ちゃんと付き合ってもらったのに何故そういう考えでいるのかは今回は私がそうするからだ、学習をして積極的に邪魔をしないようにする、余計なことを言って休憩時間を増やしたりしないようにする。
そうしてやっと満足して帰ることができる、だからそうならなかった場合はすぐに帰ることができなくなる……。
「ぎゅー」
「だ、駄目ですよ、鈴木さんに怒られてしまいます」
「瑠伊は勘違いをしているよ、別に藍佳が僕のことをそういうつもりで見ているわけじゃないんだから」
「ぬ、縫先輩は? あっ、聞かなかったことにしてください」
鈴木さんの知らないところでこちらが答えを知るなんてずるいから駄目だ、また、はっきりと答えられた際にあの子といづらくなるから駄目だった。
合わせようとしてくれる子ではあるものの、結構わかりやすく出していくタイプなら尚更こうしなければならない。
「ん、瑠伊がそう言うならそうしておくね」
「ありがとうございます。一階にいって顔を洗ってきますね」
「僕も付いていく、いまは独占」
顔を洗ったらもっとすっきりした、が、一人で先輩の相手は大変だ。
静子さんへのそれを抑えたのにあっさり出てきてしまっても困るから距離感に気を付けなければならない……のに何故か先程からこちらにくっついてきてばかりで困ってしまう。
なにが目的なのか、別に邪魔なんてしないのに。
「いまから僕の家にいこ、お腹空いたからご飯を作って食べたい」
「それなら着替えてきます、そのままいくでしょうから必要な物も持ってこなければならないので」
「ん」
お洒落な格好なんかは手持ちの手札的にできないから外出用のための格好になった。
問題だったのは着替えている最中、先輩に見られてしまっていたことだ……。
精神ダメージをなんとかするためにささっとお家をあとにして先輩のお家へ、見られていたことなんかに比べたらどうってことはなかった。
「部屋で待ってて、下だとお母さんが下りてくるからね」
「わかりました」
大きい物はベッドと勉強机ぐらい、それ以外にはこれといった物がない、軽くお勉強なりなにか書いたりできれば他には寝られるだけでいいみたいな空間だ。
ただ、そのベッドだけはぬいぐるみなんかが乗っていて可愛らしい、抱きしめていたらそのまま抱きしめたくなるぐらい。
だけど相手は先輩、年上よと自分に言い聞かせてどれぐらい経っただろうか、先輩が「お待たせ」と入ってきた。
「はい、目玉焼きパンだよ」
「ありがとうございます、いただきます」
「食べ終えたら歯を磨きにいこうね、新しいのをあげるからね」
それだったら別行動をして歯を磨きにいくのが一番だけど……許してくれないだろうから甘えようと思う。
目玉焼きパンの方は半熟でもよく熱されていてもどっちも美味しく食べられる派だからよかった。
「んー……美味しいご飯を食べると動きたくなくなるよね」
「九時まではまだ時間があるのでゆっくりしましょう」
「そうだね、必要なことを済ませてからそうしよう」
それでも先輩が言ったようにじっとしているとまた、うん。
学校以外のときは結構ゆっくり寝るタイプでもあるから負けそうになっていた。
まあ、お家から出なければいけないから寝てしまっても起こしてくれるだろうと自分に甘えた結果が、
「ぎゅー」
これだ。
これではまるでしてほしくて黙っていたようにしか見られない。
他の人ならそうでもないかもしれないものの、先輩に興味を持っている人からすればちくりと言葉で刺されても全くおかしな状況ではなかった。
「きょ、今日はどうしたんですか? それとも、縫先輩が元々そういう人なんですか?」
「うん、くっつくのは元々好きだよ、静みたいな子にするのが一番いいけど」
「だったら――なにか拘りがあるんですね?」
「瑠伊みたいな子が照れても可愛い」
つまり先輩は自分の武器をしっかり理解しているということか。
私がやってもただ甘えたかっただけにしか見えないからその差がすごい。
「あとは勘違いをされているみたいだからそうじゃないよと伝える手段としてこれは最適」
「更に勘違いされたらどうするんですか?」
「それならそれでいいんじゃない? だって瑠伊に興味を持たれるってことだよね?」
「や、やめてくださいよ、私で遊んでもなにも楽しくないですよ」
「あ、ふふ、これは楽しくなりそう」
ならその前に前提が壊れてしまうようなことを言ってしまえばいい。
これは無駄な時間を使わせないため、あとは心臓を守るために必要なのだ。
少し早口になったものの、ちゃんと言えた後のすっきり感はすごかった。
なのに……何故か残念そうな顔ではなくてにやにやと笑みを浮かべていたことで冷や汗をかくことになった形となる。
「よく考えてみなくても僕と静じゃあんまり変わらないからね、だったら奪えるかも」
「奪えるかも……って、そもそもこのことを静子さんは知りませんからね」
「なら尚更だよ」
本当は興味もないくせに変なことを言う人だ。
冷静になってきて内も冷たくなってきた、やはりこんなところで時間をつぶしていないで鈴木さんと、いや、他の誰とでもいいから仲良くしておけばいいのにと言いたくなってしまう。
「瑠伊――え?」
「駄目よ、これ以上ふざけては駄目」
あのときの鈴木さんの真似をして敬語をやめてみた、が、早くも凄く不安になってきた。
でも、ここは先輩のお家だからこんなことになる、だから土台を壊してしまえばなんとかなるはずだった。
「もういくわ、かなり早いけど遅れるよりもマシだもの」
「なら僕もいく」
「ええ、今日はみんなで遊ぶんだもの、別行動をする意味もないわよね」
外で二人で過ごすことになってもそこは気にならない。
お休みだけど今日は平日、学校から帰っているだけ、そんな風に考えておけばいい。
ご飯を食べる前と違って三時間とか待たなければならないわけではないのだ、色々なところを見ていればあっという間にその時間はやってくる。
「いい?」
「ええ、あなたが暑くなければ」
「暑くないよ、それどころか瑠伊が冷たいから落ち着くんだ」
この状態を見られることで静子さんに勘違いをされてしまう方がいいと考えた。
そういうのもあって尚更早くあの二人には来てもらいたいところだった。
鈴木さんが先輩のことを意識していたのなら申し訳ないけれど。




