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235  作者: Nora_
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02

「瑠伊ちゃんはお昼寝中です、どうぞ」

「起きているわ、ずっと本を読んでいて疲れたから目を閉じていただけよ」


 集中して読んでいるといつも瞬きを忘れてしまう、今回も悪い癖が出たことになる。

 なんとかするために目薬を入れた結果でもあった、実は同じお部屋の中にはいたから違和感はないけど急に変なことを言い出して困ってしまった。


「対象は起きていたみたいです、どうぞ」

「だから――え、本当に誰かと通話中だったの?」

「藍佳ちゃんとね、実は一階に来てもらっているんだよ」

「それなら言いなさいよ……」


 一階にいったら確かに鈴木さんがいたから飲み物なんかを出しておいた。

 一、二時間ぐらいは本はいらないからソファに座ってゆっくりとする、静子さんは何故か鈴木さんの目の前の床に座った。


「藍佳ちゃん、これは成功しているのかな?」

「私的には高橋先輩よりも佐藤が来てくれないと困るので成功ですね」

「それならよかった……って、なんで私じゃ駄目なのっ?」

「そりゃ……年上だからですかね」

「一つしか変わらないよっ、肌だって瑠伊ちゃんと同じぐらい奇麗だよ!」


 ふふ、よく自分で言える。

 それよりお家にまで来るなんてどういうつもりだろうか? 約束もあるうえに元々そんなつもりはないから逃げたりはしないけどこれをすることによるメリットを知りたい。


「鈴木さんは静子さんに呼ばれたの?」

「うん、連絡先は交換していたからさ」

「そうなのね」


 ならここに来た理由は彼女か、それを知ることができただけで落ち着けた。

 とはいえ、そうなったらここにいる意味もないからある程度したところでお部屋に戻った、課題があることを思い出したのだ。

 終わったらやったのに忘れたなどということにならないように鞄にしまう。


「ふぅ」


 お休みの日は正直に言って物足りなかった、私みたいな人間には学校の時間が必要なのだ。

 私だってずっと本を読めるわけではないからこういうことになる。


「佐藤、入っていいか?」

「ええ」


 いまここは静子さんのお部屋でもあるからこれも違和感はない。


「静子さんに興味があるのよね?」

「ん? あ、ああ、そうだな、今日はあの人に呼ばれたからな」

「それならよかったわ。とはいえ、確かにここで静子さんも寝ているけど見ても新情報は得られないわよ」


 荷物だってほとんどないから楽しめない、本人といた方がいい。

 というか、どこにでも付いてくるあの人はいまなにをしているのだろうか?


「でも、佐藤と同じ部屋で寝ているという情報は得られた」

「一緒に寝たいなら頼めば聞いてくれるわよ」

「佐藤もいてくれないか?」

「え? あ、わかったわ」


 実際に彼女は静子さんに頼んで一緒に寝ることになった。

 呼ばれた以上、同じ場所にいなければならないから毛布を持っていって掛けておく、本への欲求はまだなかったけどこうなったら頼るしかない。

 二人はすぐに静かになって見ていても仕方がないからと集中、でも、仕方がなくでしかなかったから駄目だった。

 ただ適当に文字を追ってページを捲るだけの繰り返し、意味もないから閉じて床に置く。


「佐藤」

「起きていたの?」

「悪い、佐藤が自分が言ったことを守るために断れないことを知っていて誘ったんだ」

「なるほど、ふふ、最強のカードね」


 守るためにここにいる、だからそのまま彼女の言う通りだった。

 どうすればいいのかを悩んでいただけで戻ろうとは思っていなかった、多分、あのまま五分ぐらいが経過していれば同じように寝ることで時間をつぶしていたと思う。


「佐藤は約束を守ってくれた、だからいいんだぞ」

「ここにいるわ、あなたの寝顔でも見ておこうかしら」

「え、そうなると寝られそうにないんだけど」

「余裕よ、だってあなたは私に話しかけられたじゃない、静子さんのためとはいえ、このお家に来られたじゃない」

「それとこれとは違うだろ……」


 余裕だ、だってなにもしなくていい、ただ目を閉じているだけでいいのだから。

 少し近づいて静子さんの髪を撫でる、拘っているからさらさらしていて奇麗な髪だった。

 何故かじっと見られていたから彼女にもしてみると「ぶふっ」とむせてしまったから大丈夫? と聞く。


「私は子どもじゃないから……」

「ごめんなさい」

「高橋先輩にはいつもしているのか?」

「たまに物凄く甘えん坊になるときがあるの、そういうときはするわね」


 私よりも上手にできる人が甘えてきてくれるあの時間が実は好きだった、やめようとすると凄く悲しそうな顔になったりするのもそうだ。


「それ以外は?」

「頭を抱きしめる、ぐらいかしら」


 満足してくれないときだけだからまだ一回しかしていない、言うべきではなかったのかもしれない。

 あと、好きになってしまっているだけであんなことはない方がよかった、動くとしたらいつだって私から動く方がいい。

 だって自分が動く分にはなにも変わらないからだ、その点、相手が動いてくれることを期待してしまうとそうならなかったときに酷く残念な気持ちになるから。


「それはおかしいだろ、なんで出会ってまだ約二カ月の人にそんなことをするんだよ」

「す、鈴木さん?」


 柔らかい表情ではなくなってそこには怖い顔しかなかった。


「普通はしないことだ」

「あのー……寝たいんじゃなかったの?」

「すみません、でも、友達が変なことをしていたら止めなければいけないですよね?」

「だけど私達は同性同士なんだし……」

「駄目です、頭を撫でる程度で留めておくべきです、いや、それすらも早すぎかもしれません」


 仲良くもないのにべたべた触れるべきではないというのはわかる、だったら尚更、という話か。

 元々好きだけどあってほしくないと考えていたぐらいなのだからこれでいいのだ、これはありがたい指摘だった。




「休みのときの私はどうかしていた、悪かった」

「なんであなたが謝るのよ、寧ろありがたかったわ」

「佐藤……」


 土曜日の夜と日曜日の夜を乗り切っていまの私がいる。

「なんでしてくれないの」と悲しそうな声で言ってきた静子さんには負けそうになったけど私は貫いた。

 そのせいで今朝は反応をしてもらえなかったものの、それよりも自分の決めたことを守れる方が大きい。


「今日も頑張りましょう、外は雨で暗いけれど」

「ああ、そうだな」


 自然とはぁとため息が出た。

 新たに決めたルールを守れたのはいいけど前に決めていたルールは破っているのと同じだからだ。

 だからいいことをしたはずなのに鈴木さんだって微妙な顔をしていたのだ。

 私となんらかの約束をしても新たなそれで守られなくなるという例を見せてしまった以上、きっかけすらなくなるかもしれない。

 一つだけわかっているいいことは自分が人を求めているということだ、でも、ただそれだけしかない。


「佐藤さん、少しいいかな?」

「はい、なにをすればいいですか? 伊藤先生」

「少し付いてきてほしいの」


 担任の先生だからこれも違和感はなかった、前にも同じように頼まれたことがある。

 少し歩いたところで何故か静子さんが立っていた、先生もそこで足を止める。

 問題なのは涙と鼻水で顔を濡らしていたことだ、先生のことを巻き込んだのなら呆れる。


「この子のこと知っているよね?」

「はい、同じ場所から通っているので」

「でもね? 佐藤さんが相手をしてくれなくて傷ついているみたいなんだ」

「すみません、少しいいですか?」


 腕を掴んで少し離れる、それから壁に押し付け胸に指を突き付けてからどういうつもりなのかと聞いた。

 答えることをしないならずっとこのままだ、違う人を巻き込むのは違うだろうと言葉を重ねていく。


「ま、まあまあ、落ち着いて佐藤さん」

「これは私とこの人の問題です、なのに伊藤先生を巻き込んで……なにをしているのよあなたは」

「いきなりなんだって言われるかもしれないけど高橋さん、静子ちゃんの相談によく乗っていてね? 佐藤さんのことを楽しそうに話していて聞いているだけのにこっちも楽しくなっていたぐらいなんだ」


 本当に唐突すぎる、だけどここでも自分とは違うというところを見せてくれた。

 私は一年生のときの彼女を知らない、また、仮に知っていてもどうこう言える立場ではなかったのに全く冷静ではなかった。


「どういうきっかけでこの人と話すことになったんですか?」

「実はね? この学校に来たばかりのときにも静子ちゃん、同じように泣いていたんだ」

「この人が……ですか?」


 悲しかったら側に誰がいても簡単に泣き顔を見せるから意外とは思わない。


「うん、どうしたのって話しかけたら色々と教えてくれてね、それから仲良くなって少し踏み込んだ話もできるようになった……というのは私の勘違いかもしれないけど、うん。は、話が逸れたね、だから――」

「だからなんとかしてあげたかったんですね」

「贔屓はよくないんだけど静子ちゃんが困っていたら尚更ね」


 終わらせるべきだ、これ以上続けても誰のためにもならない。

 私にできることはなにもない、応えられなかったからこそこうなっているのだから先生だって待ってと止めてきたりはしないはずだ。


「ご迷惑をおかけしてすみませんでした、でも、なにができるというわけでもないので伊藤先生にお任せてしてもいいですか?」

「わかったよ」

「ありがとうございます、失礼します」


 結局最初から最後まで静子さんはなにも言わないままだった。

 このままならお家でもそうだ、両親が心配するからお家に帰る時間を遅くした方がいいかもしれない。

 他のことで外出している分には特に厳しく言ってくる両親ではないからこそできることだった。




「瑠伊ちゃん……」

「いますよ」


 先生に任せて放課後から逃げるつもりだったのにすぐに彼女が来て駄目になった。

 こちらの腕を掴んでいるから走って逃げるのも無理だ、そのうえで鈴木さんもいるから諦めた形になる。


「高橋先輩ってすごいですね、それでもいけるんですね」

「うん……だって伊藤先生に迷惑をかけちゃったのはその通りだったから……」

「だけどまさか佐藤があんな顔をするなんてなあ」


 見ていたのか、全く気が付かなかった。

 私を連れていったのが先生ではなかったらと考えるときはある、ただ、誰かを巻き込んでしまった時点で同じ結果になっていた可能性の方が高い。

 それでもあんな格好悪いところを見られずに……。


「ごめんなさい、冷静ではなかったわ」

「離れたところから見ていても怖かったよ、私に実際に向けられたらおしっこを漏らすかもしれない」

「なにも悪いことをしていなければ大丈夫よ」


 同じようにしないために離れるつもりだったのに上手くいかない。

 合わせて笑みを浮かべるのにももう疲れた、それこそたった二カ月程度でこれなら話にならない。

 私からしたら他の子のように上手く仲良くやるということができないのだ。

 このことがわかってしまったのは残念だ。


「痛っ、ど、どうしたんですか?」

「ごめん、だけど瑠伊ちゃんの悪い癖が出てきそうな感じがしたから……」

「なんでもお見通しなんですね、あのときだってあなたはすぐに気が付いた」

「なにかあったのか?」


 あのときの私も冷静ではなかった、本当は嫌だったけど母がお友達に頼まれた結果なら仕方がないと片付けていた。

 一緒の場所に住んでいても挨拶をする程度で終わらせるつもりだったのにずかずか踏み込んでくるからつい言ってしまったのだ。


「静子さんが私のお家に住むようになったその日に今回みたいに言い合いをすることになってね、私が――」

「だっていきなり仲良くできないとか言ってきたんだよ? なんでってなるのは普通でしょ?」


 最初から失敗しすぎだ。


「佐藤らしくないな」

「この数日でわかったでしょう、私はそういう人間よ」

「だけど佐藤は付き合ってくれているだろ」

「それは……」

「だったら高橋先輩にもできるだろ」


 い、いや、私が何回も失敗をしているのは確かなことだけど今回のこれは全部私が悪いわけではない。

 だってこれまでは普通に受け入れていたからだ、静子さんだって私に求めていた。

 でも、よくないと言うからやめた結果がこれなのだ。


「そもそもあなたがやるべきではないと言ったからなのよ?」


 我慢はできない、毎回というわけではなくてもはっきり言うときは言う人間だ。

 先程静子さんに怒ったのもそういうこと、抑えきれずに格好悪いところを見せているから結局褒められる行為ではないけれど。


「あ……そうか、だから高橋先輩は困っていたのか、すみません」

「ううん、謝らなくていいから瑠伊ちゃんを一緒に説得して!」

「佐藤」

「少し静子さんを借りるわ」


 これもまた先程のことに繋がっている、三人だからややこしくなる。

 違う場所に連れていって椅子に座らせた。


「驚いたわ、まさか伊藤先生と仲良かったなんてね」

「うん、入学したときから優しくしてくれているんだ」

「私が気になったのはね、伊藤先生が名前で呼んでいるのにあなたが先生のことを名前で呼んでいないことね」

「あー二人きりのときは名前で……」


 先生もそれを許可しているのか。

 始まったばかりとはいえ、そういう人が誰もいないのにこの人ときたら。

 マイナス思考でいる人間だから羨む資格がないのはわかっているけど、そんな人が余裕も一切ない後輩に求めてくるのはどうなのか、応えなかったら泣くのはどうなのか。


「仲がいいのね、もしかしてあなた……」

「へっ? あっ、ないないっ、伊藤先生が好きとかないから!」

「でも、あるなら教えてほしいわ、応援するわよ?」

「な、なんでさっきとは凄く変わっているの?」

「反省したの、実はいまでも恥ずかしくてどうにかなりそうよ」


 一旦は無理やりなかったことにしているだけだった。

 翌日になってすぐに戻るのかどうかはわからないけど根本的なところが変わっていないから面倒くさい私ばかりを見ることになる。


「戻りましょうか」

「もういいの?」

「ええ、聞けてよかったわ、期待しておくわね」

「だ、だからなにもないって!」


 戻った際にもう一度謝罪をしてから教室に移動した。

 先生ともまたお話しがしたいから一転してすっきりしている自分がいた。

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