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時にはどんな些細な事でも裁判沙汰にする大人のように

 両手を荒縄で縛られたカイムが、騎士に連れられて、即興で造られた被告人の場に立つ。裁判長は、ロスタインに心からの忠誠を誓った、アインヘルムの騎士団長が代わりとなった。弁護人側にはアリスとニオ、そしてサーラルがいる。向かい合うのはクラッドだ。


「王族であるお方の関わる裁判において、僭越ながら私と、ロスタインへの忠誠心はどのような欲にも負けない部下数名により審議を行います」


 騎士団長の言葉を皮切りに、まずサーラルが名乗り出た。


「みなさんも知っていると存じ上げますが、私の本名はサーラル・クリスティーナではなく、サーラル・リ・『ロスタイン』。正式なロスタインの王族であり、第十一王女です」


 集まったやじ馬たちには波紋が広まる。その名は知っているが、なぜここにいて、なぜ国家反逆罪を犯したカイムの弁護人となるのか。


「あの豚が玩具にしていた女が王族とはな……だが調べたところによると、貴様は『愛人』との間に生まれたらしいじゃないか」

「私の母は帝都の王城において、貧しい身分からメイドになったと聞いています。父である前帝王は、爵位もなにもない私の母と子供を作るという過ちを犯しました。ですが、母は私の身を案じ、自ら命を絶ちました……事が露見すれば、帝王の座が揺らぐ文書を隠したと言い残して」

「だが、その帝王は死んだ。そして私は次期帝王候補筆頭である第一王女サスーリカの夫だ。どちらが上かは明白だろう」

「ですが、あなたには王族の血は流れていません。殺されたとされるシール・シルトベイルにも。そもそもシール・シルトベイルの死は、あなたが結婚される前のこと。ここにいる殺害の容疑が掛かったカイムは、確かに自らの刃によって傷つけたことは認めていますが、同時にあなたの斬撃も受けて死んだと述べています」

「……それを立証する物はなにもない」

「はい、ありません。ですがあなたは誓えますか? あなたが――ハイランドが崇拝する天使ホロウへ、あなたは傷つけていないと誓えるのですか?」


 クラッドの顔が一気に歪んだ。どこまでも冷酷で冷徹なクラッドでも、その根本にあるのは天使ホロウの血を引くからという過去だ。

実際クラッドの斬撃もシールの死に関わっており、誓うということは、生まれてから二十数年信じて、崇拝してきた天使ホロウを否定することになる。


「しかし、カイムは認めているのだろう? シールの死は自分のせいだとも。たとえ結婚前のこととはいえ、人殺しに加担したことを認めている。ならば、然るべき罪を償うのが筋というものではないのか」

「あなたもですよ。あなたも否定しないのでしたら、シール・シルトベイルの死に加担したことになります。その罪を、どうやって償うのですか?」


 今、確かに舌打ちが聞こえてきた。カイムからすればいい眺めだ。


「私は、天使の羽根によりシールを復活させる。生きていれば……ッ!」


 墓穴を掘った。クラッドはすぐに訂正しようとしたが、サーラルはその隙を見逃さない。


「生きていれば、罪にならないと? 死ぬということは、この世のあらゆる苦痛よりも痛苦なことでしょう。もしも生き返ることで罪が消えると申すのでしたら、カイムには一切の罪はありません。そしてあなたには、無実のカイムを陥れようとした罪が降りかかります」

「スティーリアの玩具の分際で……!」

「それは侮蔑ですか? でしたら、王族の血を引く私への不敬罪も考えますが」

「ええい……ならば殺しに加担したことは認めよう。その罪は別の形で贖罪する。これでカイムにも罰を与えねばなるまい」

「はい、そうしなければフェアではありません。殺人は重罪――しかし、罪を認め、悔い改める資格が誰にもあります。よって被告人カイムへは、未開拓地域への追放を罰として与えます」

「なっ!」

「刑期は一年とし、それまでロスタインが正式に治める街、及び土地への侵入を禁止します。いかがですか、カイム。この罪を受け入れますか? 未開拓の、まだアインヘルムのような造り途中の街と舗装されていない大地で生きることを選びますか?」


 笑いが出そうになるのを我慢しようとしたが無理だ。ならばいっそ、クラッドをとことん言葉で馬鹿にしてやろう。


「そいつは辛そうだな。温室育ちの天使のお坊ちゃんには想像もつかねぇだろうなぁ。いや、辛い。滅茶苦茶嫌だ。あー、俺も城とかの中で優雅に暮らしてぇなぁ! だが罪は償わねぇとなぁ! ってことで、めっちゃ嫌だが甘んじて罰を受けることにした」


 わざとクラッドの方を向きながら言ってやる。馬鹿にされて怒っているのが見え見えだが、言葉でやられた仕返しだ。


「では、騎士団長及び騎士の皆様、意義はありますか?」


 サーラルの言葉に、誰も答えなかった。それだけ、罪には罰をという決まりをしっかり守っているのだ。


「……カイム、一つだけ言わせてもらう」

「一つでいいのか?」

「口の減らない奴だ……だが、逃げられると思うな」

「逃げねぇから、次は正面から来い。相手してやる」

「無論、次は絡め手なしでいく」


 クラッドはそれだけ言い残し、翼を生やして飛んでいってしまった。

 一時はどうなるかとも思われたが、結果的には、カイムにとってプラスな事ばかりに終わった。

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