雨降る夜に白き翼は迷う
クラッドは騎士と冒険者たちを割って入り、泥まみれのカイムを見下ろす。瞳は閉じられ、契約者特有の魔力も感じれない。
しかし、リャナンシーが消えた。宿の中に向かわせた騎士たちの知らせでは、仲間にハイエルフがいたそうだが、そちらも姿をくらましているという。
まぁ、いい。そんな些細なことは考えるに値しない。このままカイムの首を切断すれば、蓄えてある意思の宿る血はすべて放出されるだろう。瓶の中へ吸収し、ハイランドで氷の魔術により保存されているシールに戻せば、愛しの妹は蘇る。
本当に、それでいいのだろうか。
クラッドの頭に、隠している迷いが浮かび上がった。
こんなやり方でカイムを倒して、恥ではないのか。
「……我ながら、なにを考えているのだ」
翼の羽根を一本取ると、それは白い剣の形へと変化する。
このまま、殺す。国家反逆罪ならば、どちらにせよ死刑は免れないだろう。
ようやく終わる。あのスティーリアという下賤な輩に付き合う必要もなくなった。なんなら支配してやろう。天使の力をもって、ロスタインさえも、この手で……
「待ってください」
宿の方から聞き覚えのある女の声がした。視線を向ければ、ロスタイン帝都の王城で何度か見た顔だ。
「たしか、スティーリアの玩具だった女か」
あの権力に酔った豚のような男に好き放題されている汚れた女。なぜ帝都の王城にいたのかは知らないが、なんの用だというのだ。
「私は忙しい。あとにしろ」
「そうも、いかないんです」
「……名は、サーラルだったか。見たところ風邪でもひいているのか? 雨で濡れたら悪化するぞ」
「それでも、やらなければならないことがあるんです」
こんな小娘になにができるというのだ。この不始末はスティーリアに報告し、時間を浪費させた報いは受けさせてやる。
「罪人の死刑が済んでからいくらでもやれ」
「……その死刑判決を、私は私の名をもって保留とします」
「なに……?」
「あなたが王族であることは承知の上で、私は本名を名乗りましょう。私の名は――」




