治癒開始
3日かかってリーデルとの国境沿いにある森の近くまで来た。
急いだ車内だったけれど乗り心地は悪くなかった。
いつかの樽の中に比べたら、なんだっていい。
少し先輩の視線に困ったけれど「芸術作品みたいに綺麗なんだもの。よーく見ておきたいの」と言われて頑張って気にしないことにした。
ちょっと変わった先輩だ。
着いて早々だが、早速治癒を施してほしい、と言われ案内された。
案内してくれたのは騎士だったのだが、ちらちらと振り返って僕を見る。
別に変な恰好はしていない。
魔法士養成学校の制服を着ているし、先輩だってそうだ。
魔法士養成学校の制服は魔法耐性がある。
子供だし制服着てないと迷い込んだようだし、これで正しいんだよ。
だから、これはアレか。
また、性別不明とか思われてるんだろうな。
悩め悩め。
目が合ったときに、にこっとしておいた。
僕と先輩はルディさんたち回復系の魔法士さん数人と1つのテントに入った。
ちょっと匂う。
入ってすぐのところで魔法士さんが、ぐったり座っていた。
「あぁ、やっと後発隊が来たな。後は頼む。オレは魔力回復薬で腹いっぱいだ」
その魔法士さんは、ふらふらと立ち上がり僕たちとすれ違った。
後ろにいた僕を見て目を見開いて歩いていく。
「あ、前...」
ガツッ。
ああ、間に合わなかった。
ふらふらの魔法士さんはテントの入口にぶつかって、よろめくと他の魔法士さんに支えられて出て行った。
「アルフレート様のお顔は危険とも言えるわね」
隣にいた先輩に言われたが何だか腑に落ちない。
そこからは治癒して治癒して治癒した。
初めて魔力回復薬というものも飲んだ。
1Fの薬屋で、あんなに見ていたのに。
魔力回復薬は少し苦かったけど飲めないほどじゃない。
テントを移り他の人たちも治していく。
小さな傷は治さなくていい、というよりも治さないように注意された。
そんなところに魔力を使わずに大きな傷を治してほしいそうだ。
先輩も魔法士さんたちも魔力回復薬をどんどん空けていく。
先輩も魔法士さんたちも消費激しいな...。
僕は先輩の傍にいくと僕は血液成分を意識して魔法を使っていることを伝える。
「あぁ、そういえば何かあったわね」
「出血を止めるなら血小板です。熱があるなら白血球だと思います」
「...そんなこと教えちゃっていいの?」
「前世持ちの先輩だからです。こちらの人に血小板とか言ったって、ちゃんと説明しないとわかんないですよ。説明してもできるとは限らないですし。でも先輩なら、すぐ理解してくれると思ったから」
「ありがとう。やってみるわ」
テントを転々としていくが、どんどん治癒する魔法士の人数が減っていく。
こんなにケガ人がいるのか。
僕は2本目の魔力回復薬を空けた。
コレ凄いな。
魔力が全快、とまではいかないけど、かなり戻る。
さて、とテントを出て他へ行こうとしたときに、騒がしく新しいケガ人が運ばれてきた。
「頼む!足はあるんだ!誰か1人くらいできるだろう!あんたたち宮廷魔法士だろ、助けてくれよ!まだ冒険者辞めるわけにはいかねぇんだ!」
誰かが何か答えているようだけど、よく聞こえない。
人垣で見にくかったが担架で誰かが運ばれたようだ。
出てきた何人かとすれ違いにテントに入ると簡易ベッドの1つに寝かされた人の傍で1人の冒険者らしき男性が魔法士さんに縋りつこうとして止められていた。
傍らに足(!?)がある。
「なぁ!一番力のある魔法士を呼んでくれよ。なぁ、あんた!回復系の隊長ならできるだろ、呼んできてくれよ」
「欠損の治癒はできないと言っているだろう。気の毒だが諦めてくれ。命だけは助かるように頑張っているんだから。あまり騒ぐと命も助けられないぞ!」
「で、でも足...拾ってきたんだ.....くっつけるなら、くっつけるくらいならできるだろ。頼むからやってくれよ...。頼むから...」
「...我々も、魔力の限界がきてるんだ。最善は尽くしてる」
「あの...、僕、やってみてもいいですか?さっき魔力回復薬飲んだところだし、やってみたことないけど、やれそうな気が...、いえ、わかんないですけど」
「.....」
足を拾ってきた、という男性は呆然としている。
僕が子供だから何言ってんだ、て感じなんだろうな。
リターンの隊長呼べ、て言ってるのに、まだ学生の、しかも子供が、て思うよねぇ。わかる。
僕だって逆の立場なら思うよ。
でも、くっつけるだけならできそうだと思うんだよね。
生やすのは自信ないけど。
「あのー、まだ学生ですけど前世持ちです。やってみてもいいですか?」
少しでも信用してもらいたくて前世持ちを申告してみる。効くか?
「...あ、あんた、いや、あの、で、できるのか?」
「やったことないので自信はないですけど」
魔法士さんたちも顔を見合わせている。
僕は男性の傍に行くと足をくっつけようとした。
「お、重い...。ねぇ手伝って」
人の足って重いんだな。
それに血の匂いが凄い。
とっくに鼻かバカになったと思っていたけれど、これだけ濃いとさすがに匂いを感じるんだな。
魔法士さんたちと男性に手伝ってもらって足を固定させて組織の結合と細胞の活性化をイメージする。
目を閉じて血管、神経、筋肉なども、できるだけイメージする。
「すごい...」
男性の声が聞こえて目を開ける。
まだ、かなりグロい状態だが一応くっつけることには成功したようだ。
動かせるようになるには時間がかかるだろうけど、足はひとまずいいだろう。良かった。
これで出来なかったら、どうなってたか。
でも、この人の顔色は死んだように悪い。
出血が多すぎるんだ。
けれど男性が目を開けた。
ちょっと、ぎょっとしたのは内緒だ。
魔法士さんたちの治癒のお陰だろうな。
焦点の定まらないふうだったが僕はテント内に置かれていた水を飲ませるために準備する。
「無理してでも水を飲んでください。出血が多かったから少し造血を手伝いたいと思います」
「ゾウケツ?」
魔法士さんに聞かれて答える。
「人の血液を作ることです。人は骨髄で血液を作ります。造血器官があるんですけど背中に手を入れたいので水を飲ませたら少し背を浮かせるの、手伝ってもらっていいですか?」
造血の補佐をしているうちに、男性は眠りについていたが、しばらく僕が様子見をしていた方がいいだろうな。
「とりあえず、これで様子を見ましょう。後で、また来ますね」
「あ、あぁ。ありがとう。ありがとう。本当にありがとう。この礼は必ずするから」
「いいですよ。僕も仕事ですから。じゃ、まだ仕事の途中ですから」
「お、おい。大丈夫か。そんな...」
「え?」
慌てたような魔法士さんの言葉に振り返る。
なんだろう?
「いや...え?倒れるぞ?魔力回復薬を飲んでいけ。ほら、オレ1本持ってるから」
「あぁ、さっき飲んだばっかりだから大丈夫ですよ。僕も、もう1本ありますし。でも、ありがとうございます」
僕は、ぺこっと会釈するとテントを出た。
うわー、わかってたけど血が凄いわ。
制服も手も血がべっとりだ。
殺人でもしたみたいだな。
少し乾いているのが、また気持ち悪い。
血、平気で良かった。足もグロかったけど平気だったし血の匂いが一番キツかったな。
実は、治癒を始めてすぐに血がついてしまっていて気になっていたから、一気に血液を吸い取って地面に捨てる。
治癒以外に魔力は使うな、て言われてたけど、こんな状態じゃ集中できないもんね。
綺麗にはなったけど匂いとか残っていそうで、すぐにも洗濯したい。ていうか脱ぎたい、着替えたい。




