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第二次サイバー世界大戦  作者: 柏倉


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終章 ~児玉孝一VS量子計算情報処理省~(9)

 児玉の実力を侮っていた。

 まさかこれ程とは・・・。

 想定するハックバック攻撃を伝えると、その場で即座に設計を完了させた。二人で机上検証をして問題点を指摘すると、即座により高い性能を発揮する設計を考案してくる。その設計を精査しOKとなると、翌日にはアプリケーションが仕上がってきたのだ。

 当然、一からプログラミングしている訳ではない。OSSの組み合わせをAIに命令して開発しているとのことだった。しかし、OSSの組み合わせをAIに任せたとしても確認は大変だし、AIへの的確な指示には脱帽する。

 ハッキングセンターでファイアウォールに挑戦する今日この日までに、児玉はハックバック攻撃だけでも4通りの防御アプリケーションを完成させていた。

 その上、ファイアウォールへの攻撃プログラムは追加で20以上開発し、それらを統合管理するアプリケーションまで準備してきた。今まで開発した攻撃プログラムと合わせると100近くになった。それらを複数組み合わせて攻撃するので、実質無限に攻撃パターンがあると言って良い。

 最終的にはハッキングセンターの端末にあわせたソフトウェア構成へとアップデートしてきた。

 しかもウェアラブル端末に搭載可能なAIエンジンをインストールし、最適な攻撃を瞬間瞬間でAIに判断させ実行させる仕組みまで用意していた。

 児玉の攻撃アプリケーションの一つを学校のテスト環境で実施してみると、一瞬でファイアウォールを抜かれた。

 それもそうだろう。学校の本番環境は既に攻略されていて、児玉の自作テストツールが藤児チームのフォルダに置かれていたのだ。

 だが、一瞬とは・・・。

 100ミリ秒もかからないとは・・・。

 量子計算情報処理省のファイアウォール攻略の成功は疑いようもない。

 塚田は落ち着いた心境で開始の合図を待っていた。

 大学の階段状教室ような缶詰ルームで・・・。


 開始1時間は順調だった。しかし第一ファイアウォールを抜けた瞬間から目が回る忙しさになった。

 攻撃を受けている端末を特定し、その端末の乗っている長机の位置を叫んだ。

「児玉! ハックバック攻撃だ。2列目右と4列目左の端末っ!」

 アプリケーションの実行状況と監視画面の表示には、最高優先度を与えるようカーネルに手を入れている。それにもかかわらず、監視画面で現状把握が困難な状況に陥っていた。

 ハックバック攻撃は予想以上なのだ。

 それでもネットワークのパケット監視から、塚田は端末を特定した。

「児玉っ!」

 焦った俺は再度、児玉の名前を呼んだ。

「先生、4B。綾、2D。初期化っ!」

 前から4列目の4D~F端末に陣取り、児玉は難しい表情を浮かべていた。

「香奈ネー。分析手伝って!」

 児玉が人数合わせで呼んだ従姉“里見香奈”は優秀だった。連れてきた女子生徒全員を合わせても敵わないスキルレベル。

 女子生徒6人にプラスで、優秀な彼女が参戦していても全く手が足りない。

「孝ちゃん、防御が間に合ってないよっ! 初期化なんて時間の無駄だよね? 役目を分割して先回りさせてっ!!」

「そうか・・・そうじゃん。先生、防御任せた。切り離しの上、キルして!」

 二人の会話から何をすれば良いか、瞬時に塚田は理解した。

「任せろっ!」

「かわいいねチーム!」

 チーム5人の苗字の一文字目を並べてチーム名にしただけで、自分たちが「可愛いね」と言われているとの意図はないと・・・。

 学校での、5人からの公式発表ではそうなっていたのだが・・・。

 その5人に防御を指示する。

「指示した端末のネットワークケーブルを抜いていけ」

「「「「「はいっ」」」」」

 端末の命令権を奪われる前に、ネットワークから物理的に離す。

「3A、3D、3F」

「「「はい」」」

「次、1C、1E」

「はい」

「えっ? Eって管理端末じゃ」

「こっちで管理する」

 すでに児玉が4D~Fを管理端末に変更していた。

 俺は4D端末で他の21台を管理している。4E、4F端末は分析用として児玉と里見さんが使用している。

 現在4D~Fはファイアウォールに攻撃をしていない。それはファイアウォールからハックバック攻撃を受けないようにする為だった。

 俺用にAIエンジン搭載したウェアラブル端末を児玉に用意してもらっていた。そのAIに指示して、設置されている端末が動作するのに必要最低限なプロセスを導出させた。

「今からプリンターに出力する。そこに記載してあるプロセス以外、キルしろっ!」

「プロセスを切る?」

「Killコマンドで・・・殺すんだ、プロセスを。あぁーっと、コマンドもプリントする」

「その後は、先生?」

「朝の設定後と同じにする。・・・2E、2Fケーブル抜け。後はキル、再設定な」

 時々鋭い声が響くが、修羅場というには室内は比較的静かだった。

 比較的なのは、戦っている9名以外の真田と生徒の母親たちが声を潜め、大学受験だったり、量子計算情報処理省の仕事内容だったりを、愉しそうに喋っているからだった。


 再挑戦3日目の17時。

「終了時刻だぜ。残念だったな、孝一君。キミの再挑戦は終わった。これからは―――」

 児玉は涙を堪えていた。そして、拳を固く握りしめ悔し気に佇んでいる。

 再挑戦1回目で1日目の14時にハックバック攻撃で端末が全滅した。その時、児玉は己自身に当たり散らしていた。

 ハックバック攻撃のない2回目の再挑戦を開始する前は、入れ込み過ぎというぐらい気合の入った顔つきだった。

 それでも1時間2時間と経つうち、集中してゆき、攻撃が乗りに乗り、通常の集中から完全にゾーンに入ったようだった。

参加者の誰よりも手と頭を動かし、少しの仮眠しかとらなくても、集中力が途切れなかった。2回目の再挑戦が終わった時、その無理が心に来たようだった。

 今、彼の右頬に一筋の涙が流れた。

「ちょっといいか」

 後ろの丸テーブルへと真田は児玉を誘った。

 児玉は涙を袖で拭いながら歩く。

 香奈は2人の後を着いて行った・・・というより、後ろを着けて行った。絶対。絶対。絶対に孝ちゃんを悪の組織・・・弊省だけど・・・から護るよとの決意を胸に・・・。

「孝一君」

「なに?」

「中央統合情報処理研究所の所員になれ」

「・・・当然じゃん。自分がならないで、誰がなるって・・・。所員になったら自分がファイアウォールを攻略して、より強固なファイアウォールを構築してやる。・・・どんな相手でも、どんなAIでも、自分が作ったファイアウォールを絶対に攻略を許さない。逆に、こっちのハックバック攻撃で相手を攻略して、屈服させてやる。絶対にやってやろうじゃん。・・・そのスキルで第二次サイバー世界大戦は絶対防ぐ。自分の目の黒い内はサイバー戦争を起こさせない」

「バンドルワン」

 児玉の肩がビクッと撥ねた。

 真田はその瞬間の、児玉の心の隙に入り込むように**********伝える。

「世の中の法には適法と違法の間にグレーゾーンがある。そここそ、バンドルワンの活躍の場だぜ。孝一君が入省するまでスキル向上と・・・何より世界のため、弊省からの依頼を受け、グレーゾーンをオレと一緒に渡り歩こうぜ」

「孝ちゃん。断っても良いんだよ~」

 断って~~~。

 真田さんの手前、断れとは言えないんだよ~。

 アタシの表情を見れば分かるよね?

「そうしたら、バンドルワンは監視対象になる。窮屈なネットワークライフになるぜ。それに脱法は捕まらない」

「えぇ~。法律は変わっていくし、すっごく危ないですよね~」

 さあ、孝ちゃん。あなたの従姉を信じようよっ。

 アタシは孝ちゃんを信じてるからねぇ~。

「量子計算情報処理省は他の省庁と異なり法務部門がある。弊省が味方になるんだ。こんな機会はまたとないぜ」

「そ~ですか~・・・量子計算情報処理省に入省するためには、大学進学を目指した方が良いよ~。会社もあるでしょ? しかも《公的な》ではなく、《私的な》バックアップしかできないんですよね~」

「非公式にだが、弊省の法務部門に協力を求める。こういう非公式なのは量子計算情報処理省の得意とするところだぜ」

「仕事は減らす。脱法は望むとこじゃん。量子計算情報処理省のバックアップがあるなら、グレーゾーンを渡り歩いてやるよ・・・今までと、あんま変わんないじゃん」

 最後の方は、ボソッと小声で呟いていた。

「バックアップはオレに任せろ」

「香奈ネーも、バックアップよろしく」

「はぁ~~~。不本意ながらもね~」

 真田の声は自身に満ち溢れ、児玉の声は挫折感を乗り越え、香奈の声は諦めに満ち溢れていた。

「「不本意!?」」

 なぜ、そこに疑問を挟むの?

「なんで? 面白そうじゃん」

「こういうのは量子計算情報処理省らしいんだってさ。門倉さんが言ってたぜ」

 はぁ~~~。

 ・・・前途多難。


 児玉達3人以外は気を使ってか、壁面ディスプレイの前に集合していた。

 塚田先生だけが肩を落としていて、保護者3名は子供が3日間のハッキングに参加できたことに満足気だった。そして綾は孝一を気遣うような視線を向け、“かわいいね“チーム5名は楽しそうに喋っている。

「お待たせしました」

 児玉が近くに行き全員に声をかけると、すぐに“かわいいね“チーム5名が返事をする。

「「「「「ご馳走になりまーす」」」」」

 5人全員から強い圧力の混じった満面の笑顔を向けられた。

 これだけ協力したんだから、美味しくて普段は行けないような高いお店に連れて行けと、目が語っていたのだった。

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