終章 ~児玉孝一VS量子計算情報処理省~(8)
舞台上でなら、どこでも対人誘導ガンマイクで声を拾え、クリアにスピーカーから音声が出る。それでも 司会者は拘りからかマイクを持っていた。
「さあ、始まりました。児玉孝一率いる高校生プラス教師チームによる攻撃です。解説の星野所長如何でしょうか?」
「いやいや、始まったばかりで如何でしょうかもないね。ただ今日はハックバック攻撃を解禁してるから、遅くとも24時までには片がつくだろうな」
「そうですね。ハックバック攻撃があるので早めに終了となるでしょう。ただ、個人的には頑張ってもらいたいですね。実は児玉君と同じ高校を卒業しているんで、ぜひ後輩の活躍を期待したい。・・・それでは監視解析ルームの佐伯さーん。缶詰ルームの様子はどうですか?」
「はい。こちらでは、缶詰ルームの様子が一目瞭然です」
「どういうことでしょう? 皆さんにも分かるように説明してもらえますか?」
「監視解析ルームは全国20ヶ所のハッキングセンターの全てのネットワークと端末、それと利用者を監視しています。もちろんハッキングセンターと、量子計算情報処理省並び中央統合情報処理研究所とは物理ネットワークを分けています。ハッキングセンターの端末等の調査は、監視解析ルームのみで可能となっています」
「こちらと連絡が取れていますが?」
「監視解析ルームにも中央統合情報処理研究所のネットワークは来ておりますし、端末もあります。ただし、ハッキングセンターと繋がっているネットワークへの接続は許可された端末のみで、一度でもハッキングセンターと接続したことのある端末は、他への流用は禁止されています。その端末を中央統合情報処理研究所のネットワークに接続した瞬間、端末は初期化される仕様になっています。逆もしかりで、中央統合情報処理研究所のネットワークに一度でも接続したことのある端末を他のネットワークに接続すると、その端末も初期化されます」
「監視解析ルームとハッキングセンターがネットワークで繋がっているのは分かりました。えーっと・・・それならハッキングセンターの缶詰ルームの映像をこちらに映せますよね」
「残念ながら禁止されています」
「良いではないか。なあ星野所長」
「いやいや、オレの役割はルールを守らせることですよ、三枚堂閣下」
「ホッシー。ボクは缶詰ルームの映像なら良いと思うけどね。元々はネットワークや端末のデータやプログラムを中央統合情報処理研究所の量子コンピューターに読み込ませると、何か悪さするかもしれないから禁止したんだろ。AIなら、映像解析なんてお手の物だからね。缶詰ルームの映像なら大丈夫さ」
「まさかカドくんからフレンドリーファイアを貰うとは思わなかった」
「三枚堂さんと張り合うんじゃなく、協力していく方向がお互いのためじゃないかな」
「いやいや、カドくんへの勧誘が酷すぎる」
「今のボクは、量子計算情報処理省から出ていく気はないね」
「そうかそうか、缶詰ルームの映像配信を特例で許可する」
「はい、星野所長。ありがとうございます。佐伯さーん。缶詰ルームの映像を配信してください」
缶詰ルームの映像が配信された。そこには、児玉と塚田先生の打ち合わせしている光景が映っていた。
「あーっと、佐伯さん。バンドルワンと話している人を大きく映せませんか?」
「はーい。ちょっと待ってください。これでどうでしょう?」
「はい、ありがとうございます。えーっと、塚田センター長に似ているように見えますが・・・塚田センター長?」
「アイツめ・・・。ありゃ、わいの弟や」
「人の繋がりは面白いですねー。どんな方な・・・あーっと、可動防護壁への攻撃が開始されました。アンケートでは17時までに終了するとの予測が一番多かったのですが、どうなるでしょう。まずは、塚田センター長の予測をお聞かせください」
「わいの予測は12時や。泰明に・・・弟な、アイツには良いとこなく叩き潰したい。何せ―――」
そして攻撃開始から1時間が経過した。
「―――三枚堂閣下、ありがとうございました。監視解析ルームはどうですか?」
「現在、缶詰ルームからの攻撃と端末を解析しています」
「どういうことでしょう? ハッキングセンターのネットワークと端末の詳細を教えてもらえますか?」
「はい、ご存知の方も多いでしょうが、簡単に説明いたします。可動防護壁の攻略に繋がるネットワークのコアスイッチにはパケットコピー機能があります。つまり可動防護壁への攻撃と全く同じ攻撃を捕捉し記録できます。その記録を解析用量子コンピューターでぶん回しているんです。それと、端末のストレージは二重化されています。これはRAID1とは違います。ストレージへの書き込みは同時、読み込みは端末と解析用量子コンピューターへ。端末に接続されているネットワークケーブルは2本で1本はファイアウォール。もう1本は解析用量子コンピューターへ。つまり端末性能はそのまま発揮でき、端末情報はすべて抜ける。ハッキングセンターとは、まさにハッキングするセンター。ただし、利用者がハッキングされる側なのです。しかも、で―――」
「はい、もう結構です。ネットワークと端末の説明が詳細過ぎでーす。それでは缶詰ルームの様子を伝えてください」
「えぇー、もっと語りたかった。残念ですが、缶詰ルームの様子をお伝えします。運用監視ルームには―――」
舞台上の解説者がまともに役割を熟しているため、司会者は上手に実況中継を回している。ところどころ途中休憩を挟みながら、予定通り17時に講堂での《可動防護壁VS高校生チーム》の実況は終了した。
実況の最大の盛り上がりは、ハックバック攻撃による端末全滅の14時前後で、舞台上の最大の盛り上がりは、17時の三枚堂閣下の最後の挨拶だった。
最後の挨拶で盛り上がったのは、三枚堂が所員を再勧誘したのを星野が邪魔したためだった。




