終章 ~児玉孝一VS量子計算情報処理省~(7)
後4話
9/28(月)で完結です。
真田と香奈は西東京専用のリニアモーターで、ハッキングセンターの最寄り駅にあるダミー事務所に行った。そこから二人は、周囲に聞かれないよう小声で話しながら、ハッキングセンターへと歩いていた。
「なあ、香奈ちゃん。門倉さんが、中央統合情報処理研究所のAIの件に絡んでいるって、いつから知ってたんだ?」
「やっぱり分かっちゃいますよねぇ~」
「世界の危機だっていうのに、消極的すぎだっただろ。オレが怪しいと感じたのは、ハッキングセンターに門倉さんが現れたからだ。香奈ちゃんは?」
世界の危機だからって、積極的にはなれませんけどね~。
「真田先輩が積極的というか、好戦的というか、ヤル気に満ち溢れすぎてたんですよ~。それにですね。第二次サイバー世界大戦とかは、個人で対応すべき事態じゃないですよぉ~」
「オレは、正しい判断が出来たと考えている。誰かが動きださなかったら、永遠に動かなかったかも知れないんだぜ。だからオ―――」
そんな判断はして欲しくなかったですね~。
真田先輩の心情は置いておいて、話を進めますかね。
「アタシは火曜日の朝ですよ」
「はあ?」
「火曜日の朝ですよ」
「いや、言葉は聞き取れてるぜ」
「月曜日の夜に、わざわざビデオ通話で孝ちゃんから連絡があったんですよ。日本の量子計算情報処理省発の第二次サイバー世界大戦が近々勃発するって・・・。真剣な表情で語るから、火曜日の夜に孝ちゃんと会うことにしたんです。それにしても、第二次サイバー世界大戦なんて話されたって、困りますよねぇ~。だから、すぐ門倉さんに連絡して火曜日の朝に相談したんです。そうしたら、真田先輩を巻き込めば良いってアドバイスされたんですよ」
「ちょーっと、待った! オレに香奈ちゃんから声が掛かったのは火曜日の帰りだぜ。その時には門倉さんが、第二次サイバー世界大戦の対応しているって知ってたのか?」
「間違っていますよ、真田先輩。門倉さん達は、有森センター長の世界征服の野望を打ち砕いたんです。闇落ちAIを特定し、高枝切り鋏でネットワークから物理的に切り離した。そして有森センター長達を一網打尽に捕らえたんですよ、ねっ」
「オレが尋ねているのは、香奈ちゃんが、いつから気づいていたのか、だっ」
「アタシは門倉さんが、厄介な案件を任されているって教えられただけですね。今年の始めに怪しい動きを察知した星野さんが、門倉さんを巻き込んだようなんですよねぇ~」
「その他には何を教えてもらったんだ?」
「う~ん」
人差し指を頤にあて、首を傾げる。
「真田先輩と同じですよ」
「具体的には何だい?」
「おおーっと、食いついてきますね~」
「有森センター長の件で反省の件でしたからな。尋ねた質問にキッチリ答えさせるのは、コミュニケーションで重要なんだぜ」
「女性との会話には、余裕とテンポが重要なんですよ」
真田は「世間一般の女性と香奈ちゃんを一緒にするのは大間違いだぜ」と心の中で呟いた。しかし、その考えは口に出さず、真田は話を促す。
「仕事でなければな。それで?」
「第二次サイバー世界大戦が起きるというなら、防がないとね。ただ、予兆なり証拠がないと、今の案件を放り出せないって」
「それだけ?」
「え~っと・・・。第二次サイバー世界大戦の芽って、あちこちにあるからって最初に言われましたね~」
「なるほどなー」
真田が物思いに沈み込む。
二人は暫く沈黙したまま歩を進めていた。
「・・・門倉さんてさー。トラブル上等の人だよな。達磨みたいな、どっしりとした安心感ある見た目の割りに」
「外見で人をディスるのは、どうかと思いますね。・・・まあ、でも、困った人ですよね~。アタシたちって安心安定安全の公務員ですなんですよ。真田さんもそう思ってください。アタシの騎士なら主の安全を第一に考えてくれますよね~?」
リズミカルに人差し指を左右に振ってから、香奈は真田に可愛く微笑んだ。
「ディスってない。安心感あるって良い風に言ったんだぜ。体型のことは指摘してない。それより、一民間人の安全が第一だからな。・・・あーっと、でも、孝一君はバンドルワンだから別に守らなくも良いか」
「アタシは?」
「自分で頑張れ!」
「アタシは?」
「大人なんだから自分で頑張れるよな?」
「アタシは?」
「オレといるときは肉壁になってやるぜ。少しは・・・多分・・・できる限りは・・・」
香奈が左右に首を振ると、栗色セミロングの髪がふわりと舞う。
真田は一瞬だけ香奈ちゃん見惚れたが、次の台詞で台無しになる。
「やれやれ、ですね」
呆れたような口調で、香奈ちゃんは両掌を上に向けた。
サイバー作戦隊の活躍動画が終わった後、小休憩を挟む。その間、舞台と席をスライディングウォール(可動式間仕切り)で分割し、動画のエンドロールが繰り返し流されていた。
何度目かの“ソルジャーは後ろに倒れない。前に倒れた”の文字がスライディングウォールに表示された後、映像が消された。
そして講堂の照明が落とされ、スライディングウォールが左右の分かれ舞台袖に収納される。スポットライトが舞台中央にいる司会者を浮かび上がらせた。
「皆様、お待たせ致しました。そろそろ、可動防護壁VS高校生チームが始まりますが、その前に解説、コメントをして頂ける四名を紹介させていただきます」
舞台下手にスポットライトの光が4筋追加され、座面の高いバーカウンターチェアに座った4名が照らし出された。
「ご存知、星野良生所長です。弊所の所長であり、有森センター長一派を追い込んだ黒幕にして、今回の対決《可動防護壁VS高校生チーム》を企画したプロデューサーです。それでは、一言お願いします」
チェアは舞台下手の手前から、舞台中央の舞台奥へと斜めに配置されている。
一番端で一番前のチェアに座っていた星野が立ち上がった。他の3人は星野から塚田、門倉、三枚堂の順でチェアに座っている。
舞台上の声はガンマイクで拾っているので、星野は手にマイクを持っていなかった。
「星野だ。黒幕と紹介されたが冗談ではない。暗躍するモブその1だった。黒幕はカドくんであってオレじゃない。大事にしたのはカドくんと三枚堂閣下であってオレじゃない。《可動防護壁VS高校生チーム》対決の発案者は塚田であってオレじゃない。オレは迷惑な友人知人に振り回されて大変な思いをした被害者なんだ」
星野は感情を抑えこみ、静かに話した。
3名が次々と立ち上がり、自己紹介というより他人への非難を口にする。
「星野所長ありがとうございました。どうぞお座りください。次に私の所属している第一オペレーションルームの所属長である塚田正夫グループ長。一言お願い致します」
「星野所長・・・というのは言い難いからヨッシーと呼ぶが・・・。児玉孝一が可動防護壁に再挑戦することになったのは、突然ヨッシーとカドくんが一回目の挑戦を止めたからだ。しかも、その時は理由も話さずに。児玉君の再挑戦の要求は、第一オペレーションルーム所属員の総意であり、当然の権利。今回の再挑戦にあたりヨッシーは、わざわざ缶詰ルームと最新端末を用意している。人に迷惑をかけられていると言っているが、ノリノリで事案を助長させている。わいに一切の責任というか瑕疵はない」
「塚田グループ長ありがとうございました。お座りください。次はAI監査グループ課長補佐の門倉啓太さんですが、10月1日に課長への昇進が決まったと、ある筋から聞いております。因みに門倉さんは、20代で財務省からのケンカを買い返り討ちにし、弊省を最強官庁とした生ける伝説。その所為で人事院から昇進を遅らせられたと言われております。それでは一言お願い致します」
「財務省とケンカしたと紹介されましたが・・・もっと巧みに立ち回るか、大事にするか、どちらかにすべきだったと反省しています。ヨッシーからは有森事案の黒幕と紹介されましたが、黒幕はヨッシー。ボクは巻き込まれたんだよねー」
星野に一回視線を向けた後、言葉を続ける。
「ただ、仕事として巻き込まれたので全力を出したのさ。全力を尽くす上で、三枚堂閣下に協力をお願いしたのは英断だったね。何せ、有森が画策していたAIによる世界支配を防げた。日本発の闇落ちAIなんていう日本の敵。いや世界の、人類の敵を駆除できたんだからね。ちょっと脇道に逸れたけど・・・自己紹介としては、コンピューターの平和利用に全力を尽くす公僕といったところかな」
「門倉さん、ありがとうございました。志を持って、信念を持って仕事をされているのが、良く分かりました。どうぞお座りください。最後に・・・陸上自衛隊陸将の三枚堂達也閣下。先ほどもご紹介しましたが、門倉さんが生ける伝説なら、三枚堂閣下は生ける神話。サイバー作戦隊を現在の形にし、実戦も可能にした辣腕?剛腕?の実力者です。一言お願い致します」
「実戦はしていない。実弾演習をしただけだ。いいか。言葉は大事にし、事案は大事にするのだ。そうすれば周囲は動くし、門倉のようなトラブル上等の切れ者が集まる。陸上自衛隊サイバー作戦隊への出向は何時でも受け付けている。門倉も来年には一佐待遇でサイバー作戦隊に参加しているだろう。サイバー空間は今も神速で進化している。現在、この自由で巨大な空間の平和を守護する兵器が求められているのだ。さあ所員よ。平和を守護する兵器開発のためサイバー作戦隊に来るのだ。キミ達は、柔軟な発想でサイバー空間の守護者になれる」
各自の自己紹介が終わった後、10分以上に亘り収拾がつかなかった。若い司会者の技量の所為でなく、あくが強く大人げない2名、星野と三枚堂の所為で・・・。




