終章 ~児玉孝一VS量子計算情報処理省~(3)
今日(2026/09/21)から8日間、連続投稿予定(頑張る)。
投稿文字数は2万文字超になる予定です。
終章だけで終われず、余章(約2,500文字)もあります。
ハッキングセンターで児玉が量子計算情報処理省のファイアウォールに挑戦する日の午前7時30分。
中央統合情報処理研究所の出社率は100%を超えた。
分母は中央統合情報処理研究所の所員数。
分子は中央統合情報処理研究所に今いる人数。
中央統合情報処理研究所には所員だけでなく、入館証を持っているほぼ全員の他、サイバー作戦隊隊員から50人以上が集まっていた。
本日、研究所では会議室を全て開放していた。これは外部からやってきたメンバーが多すぎ、講堂には入り切らなかったのだ。当然所員には、自席で参加すべしと通達されていた。
しかし、多くの所員が講堂に駆けつけていたのだ。三枚堂を見るために・・・。
その講堂の舞台袖に、20人ほどが入れる待機部屋がある。そこに、舞台にあがる4人が椅子に座り、出番を待っていた。
「星野所長、本日はお招きいただきありがとう」
「いやいや、三枚堂さん。招いたつもりはないな。サイバー作戦隊の隊員が無理やりに参加しただけ。ウチとしては映像データだけで良かったんだけど!」
「量子計算情報処理省のため、世界平和のために手助けした我々サイバー作戦隊を招かないなんて有り得ん。そうではないか?」
「いやいや、参加させなきゃレールガンで中央統合情報処理研究所の隔壁を破壊すると脅したのでは? しかも数人ならまだしも、100人もの一次許可を取り付けさせられるとは思いもしなかった」
「脅したつもりはない。万難を排し、参加に必要な措置をと取ると宣言しただけだ。防衛省が許可を渋れば説得し、西東京の隔壁が邪魔をするなら排除するだけ。残念だが、サイバー作戦隊の新兵器の試射も兼ねたいという願望は満たされなかった。どこかに戦車の複合装甲はないかな? 陸自の戦車を破壊するとマスコミに嗅ぎ付けられるのでな」
三枚堂はハッハッハと快活に笑いながら、毎朝カミソリをあてている自分の禿頭を撫でる。
「そんな願望は量子計算情報処理省と無縁にして欲しいですね。それと、ご存じないようなのでお伝えしておきますが、世間一般では、それを脅しと言う」
「あれは量子計算情報処理省でなく防衛省内部での発言だぞ。しかも、そっちの佐瀬の援護・・・いや掩護射撃してやったんだ。レールガンだけにな。それなのに、だ。なぜ量子計算情報処理省の人間に非難されねばならない? 非難されるは1回目の打ち合わせで防衛省から許可を貰えなかった佐瀬であり、許可しなかった整備計画局局長だ」
防衛省の整備計画局の下のサイバー整備課が、組織のサイバーセキュリティーに関する事務を行う。しかし事務であって、各省庁間調整は所管していない。
そこを三枚堂が、無理やりに整備計画局に責任を持つようにと捩じ込んだのだ。
そんな状況なのに、1回目の打ち合わせで許可なんて出る訳がないと、三枚堂には分かり切っていた。
最初から2回目の打ち合わせに参加するつもりであり、自分が熱く持論を展開すれば局長の性格上、折れるだろうと予想していた。
つまり三枚堂にとって、予定調和の打ち合わせだったのだ。
そんなこと佐瀬は知らなかったし、ましてや星野が察するのは不可能。
「はあーーー。おうおう、カドくん。何か言ってくれ」
オレは視線で門倉に三枚堂閣下へのクレームを要求した。
「勉強になるよ。次回からはもっと上手くやれそうだね」
しかし、どうやら2人は通じ合っていなかった。
門倉の言葉に三枚堂はうんうんと頷いた後、更に星野をイラつかせる台詞を吐く。
「それと、だ。今日の参加者は、あの作戦に参加したサイバー作戦隊約200名全員ではない。しかも、だ。殆どの隊員は許可証を持ってる。10人ちょっとぐらいの許可だ。大した手間でもなかっただろ?」
サイバー作戦隊の隊員は、量子計算情報処理省の出向者が大半を占めている。しかも、中央統合情報処理研究所出身者が多い。
それは過去に、三枚堂たちによる魅惑的な仕事を与える約束での引き抜きが横行していたためだった。その所為で、量子計算情報処理省でソルジャーと呼ばれていた所員の大半がサイバー作戦隊に出向していた。
つまり、出向者は機密保持契約を締結しているのだ。
「許可はな!」
そう、星野は入館許可のボタンを押しただけだ。
しかしその後、なぜ陸上自衛隊の隊員13人に中央統合情報処理研究所の入館許可証が必要かを、量子計算情報処理省の事務次官にまで星野は説明しに行った。統合情報処理研究所を統括している局長への説明だけでは済まなかったのだ。
それでも星野は手腕を発揮し、三枚堂の要求とおり事務次官を説得した。
その時の手間暇に対して星野は、三枚堂に対して憤慨し、苦々しく思っている。
しかし三枚堂は、相変わらず人を食ったような態度で星野に相対している。
今や講堂の舞台袖にある控室にいる中は、地位の高いトップ2が小競り合いを演じている張り詰めた空間になっていた。
そこに空気を読まない呑気な人物がやってきて、三枚堂に声をかける。
「三枚堂さーん。そろそろ開始時刻です。壇上へどうぞー」
本日の司会者が舞台から控室までやってきたのだった。
三枚堂は椅子から立ち上りながら、門倉を勧誘する。
「ああ、門倉。お前もそろそろどうだ?」
第一オペレーションルームの塚田グループ長と話していた門倉は振り向き、徐に口を開いた。
「どうだとは?」
「わかってるだろ。陸上自衛隊に出向して、サイバー作戦隊の参謀役になることだ。佐官の・・・といっても一佐級の椅子を用意する」
自衛隊の一佐は所謂大佐で、大手企業で言うと部長ぐらいになる。
「サイバー作戦隊も楽しかったですね。でも、一番楽しかったのは量子計算情報処理省かなー。今後も量子計算情報処理省が一番楽しくなるよう努力する所存ですかね」
「権限が強いと楽しいことが増えるぞ。しかも、だ。元量子計算情報処理省のソルジャーたちで新コンセプトの兵器開発プロジェクトを立ち上げる予定だ。どうだ? このプロジェクトに関わりたくはないか? 今なら参謀6割、プロジェクト9割の仕事配分で良い」
「人の1.5倍働けと?」
「なにせソルジャーは兵士。兵士に労働基準法は適用されない・・・ん? 門倉は佐官だから、そもそも残業の概念は適用されないな・・・となれば参謀6割、プロジェクト14割で良い」
「人の2倍働けと?」
「時間ではなく、一佐に求められる能力の2倍を発揮すれば良いぞ」
「待て待てカドくん。量子計算情報処理省で人間らしい生活を送りながら仕事を楽しめ。ストレスで、また体重が増加して、スーツ代と健康を害することになる」
門倉は星野の忠告を聞き流しながら三枚堂に抗議する。
「以前も2倍ぐらいの能力を発揮してたかと?」
「尉官のな。今回は佐官で求められる能力の2倍だ」
三枚堂はニヤリと笑みを浮かべ挑発する。
「本気で考えておきますよ」
門倉の返答を受け、三枚堂は舞台へと上がったのだった。




