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第二次サイバー世界大戦  作者: 柏倉


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終章 ~児玉孝一VS量子計算情報処理省~(2)

「どういう事か説明してもらおうか?」

 塚田は準備室に児玉を連行し、作業机の席に座らせていた。

 児玉の真正面に座り、何故か塚田は対決モードになっていた。

「・・・? 何を説明すれば? もう一度、第一次サイバー世界大戦の発表内容ですか?」

「なんで、第一次サイバー世界大戦に第一次がついていると知っている?」

「へっ・・・えーっと人から聞いたからですけど・・・。別に秘密じゃないですよね。調べれば、ネットにも書いてあったし・・・。なんか問題でも?」

 児玉は門倉に感化され、その感動をそのまま文章にしていた。

 その文章は「軍事研究者、世界でも権威のある歴史学者、当時の世界の指導者と云われる人物達が、第二次サイバー世界大戦が起こるから、それに備えよ。起きてもいない第二次サイバー世界大戦は備えるんじゃない。起こさせない。コンピューターを悪用する者、コンピューターを壊す者を許さない、世界には、日本には、そんなコンピューター技術者がいる」とあった。

 それは調査研究成果でなく、もはや決意表明だった。

「詳しすぎるんだ。いや、影響を受け過ぎだな。誰に聞いた?」

 オレは同じような内容を兄さんから聞いた。

 そして、絶対に第二次サイバー世界大戦を起こさせない。今の職と生活を投げ打ってでも防ぐ覚悟があるとも。

 オレは、そこまでの覚悟を持てない。

 だから兄さんと違う道を選んだ。

 コンピューターの研究開発職でなく、コンピューター技術を教え、後進を育てる側に回った。

 強烈な後進となり得る児玉は言葉を濁しながら、塚田から距離を置こうとする。

「いやぁーーー親戚の知り合いに詳しい人がいて・・・」

「そういやサーキットを知ってるかって訊いたな」

「いえ、サーキットって何を連想するのかと思って・・・」

 塚田は一呼吸おいてから一気に言い切る。

「世界最強のファイアウォールだ! 量子計算情報処理省のな」

 児玉は呼吸を止めた。声にならなかった。彼の中の時間が止まっていた。

 暫くして、児玉は漸く声を絞り出す。

「先生、なんで知ってる?」

「児玉こそ、なんで知ってる!?」

 量子計算情報処理省の闇落ちAIについて話す訳にはいかず、児玉は話をでっち上げる。

「従姉が量子計算情報処理省の何とか監査グループにいるので、ハッキングセンターでファイアウォールに挑戦させてもらいました。ただハッキングセンターの端末の不具合で第三段階に挑戦している最中に中断と―――」

 児玉の話を聞きながら思考を巡らせていた。

 ハッキングセンターで、量子計算情報処理省のファイアウォールに教え子と共に挑戦する。これは魅力的な考えだった。

 どうすれば児玉と協力し。一緒にファイアウォールへと挑戦できるか?

「―――ハッキングセンターの職員と再挑戦の話をしてる時、偶然にも監査グループの課長補佐と中央統合情報処理研究所の所長が通りかかって、サーキットと第二次サイバー世界大戦についての話が聞けて―――」

 繋がりもない一介の高校生が、偶然で中央統合情報処理研究所の所長と話ができるか? 児玉のスキルに見るべきところがあったのだろう。だから、わざわざ会いに来た。

 いや、従姉が監査グループ所属だからか。それで、監査グループの課長補佐も注目していた。

 注目した結果、見込みがあった。

 ん? んん? 中央統合情報処理研究所?

 兄さんが所属しているところじゃ?

 たしか・・・そこのオペレーションルームで、グループ長をしてるとか・・・。

 なら、全ファイアウォール突破して、兄、塚田正夫を超えてみせる。

 兄さんが量子計算情報処理省の力で戦うなら、オレは教え子の能力を延ばして戦う。

「―――それで、お詫びも兼ねて缶詰ルームを使わせてくれるって・・・なんか、ちょうど端末の入れ替えがあるから、最新の端末も24台」

「良く分かった。ちょっとオレの昔話を聞いてもらおうか

 児玉は微妙な表情を浮かべていたが、塚田は構わず話し始める。

「オレは20年前にハッキングセンターで量子計算情報処理省のファイアウォールに挑戦したんだ。大学でな、オレのいた研究室は毎年夏に挑戦してたんだ。缶詰ルームを提供してもらって・・・。オレは大学4年、修士課程1、2年の時に参加した。修士2年の時は第一段階を突破してサーキットまで行ったんだが、全く歯が立たなかった。」

「サーキットは第三段階だけど?」

「20年前は第一段階の次はサーキットだったんだ。それでな。オレは研究開発の道を諦め、教える道を選択した。教師になったのを後悔はしてない。だが、今でも攻略法を考えたりしている。いいか、サーキットはセキュリティー対策でいうとEDRのイメージだな」

「EDRって、えっ?」

「EDRとはな―――」

「EDRは知ってる、先生。なんでサーキットがEDR?」

 EDRとはEndpoint Detection and Responseの略で、端末エンドポイントを監視し、サイバー攻撃の早期発見と迅速な対応を行うセキュリティー対策である。

「サーキットのエンドポイントはファイアウォールで、そのファイアウォールを別の量子コンピューターが監視しているんだ。ファイアウォールがサイバー攻撃されてると判断したら、別の設定のファイアウォールを用意しておいて、突破されたらそのファイアウォールをぶつける。そうやって、無限に色々な種類のファイアウォールで防御させる。・・・というより、サーキットに入ったら、その攻撃は抜け出せない。こっちもサーキットを監視して、監視用量子コンピューターを見つけて、それを攻略しないといけない」

「そうか、なるほど・・・」

「そのサーキットの攻略法だが―――」


 適度に相槌を打ち、塚田先生に気持ちよく話してもらって情報を引き出していたら、とんでもない提案を出された。

「オレも参戦する。いつだ?」

 塚田先生の参加は絶対に拒否したい。

 その気持ちが前面に出たセリフで、孝一は返事をする。

「後ろ向きに検討させていただきます」

「明日からの夏期講習は全出席にしてもらうぞ! 言い訳は許さん」

「前向きに検討させていただきます」

 後ろから前へと掌を返した。

 ただ、まだ少しの抵抗を残したセリフなのだが・・・。

「参加決定だ。いいな! そうじゃなきゃ担任経由で、両親に夏期講習の欠席理由を問い合わせるぞ。担任の佐藤先生には親戚の仕事を手伝ってるって、連絡したそうじゃないか」

「酷いや先生。そんなの横暴じゃん!」

 教師としては当然の処置で、横暴でも何でもないが、児玉はとりあえず言ってみた。それが塚田の不興を買った。

「良いんだな?!」

 凄まれ、孝一は脅しにあっさりと屈する。

「ぜひ参加してください」

「よし! ハッキングセンターでのファイアウォールへの挑戦を夏期講習の欠席理由にしてやる。特別課外授業として公休扱いだぞ。泣いて感謝しろ」

「前半の欠席分もOK?」

「掛け合ってやる」

 児玉は再挑戦の日程やを伝え、

「児玉孝一。今のままじゃ、全く手が足りないぞ。PCの操作ができればいいから、あと最低でも2人は欲しいな。お前友達いるか?」

「それは失礼過ぎるじゃん。友達は一杯いるしぃー」

「ハッカー児玉孝一を知ってる友達はいるか?」

 児玉はコンピューターやネットワークについて高度な技術的知識を持っているのを隠していた。しかも巧妙に。

 だから塚田は、児玉のハッカーとしての実力を知っている友達がいないと推察した。おそらく藤田だけだとの前提の質問だった。

 塚田は、ハッキングセンターで量子計算情報処理省のファイアウォールと戦うには人手が足りなすぎると考えていた。

「・・・いないかなー、今は。でも今日、石本と渡辺の開発に協力するって言ったから・・・」

「それは、本当の実力を教えるってことで良いんだな? 児玉孝一」

「えーっと・・・必要ですか?」

「必要だ。石本と渡辺、もちろん藤田もだ。3人とも特別課外授業に参加だ」

「うーん・・・必要な理由が分からない。別に先生と綾がいれば人では足りると思う。バッチプログラムを流したり、バッチプログラムを流したりなら自分含め3人もいれば大丈夫じゃん。・・・そうじゃん。問題ないじゃん。だから実力を見せなくてもイイってことで。それでどうです? 先生」

「その場でログ解析―――」

 塚田先生は作業項目を並べ立て、工数を見積もって、児玉と議論した。

 理解し、仕方なく、ホントに仕方なく納得した児玉は不満そうに告げる。

「あー、そうですね。仕方ないか。ふぅー・・・2人には実力がバレてもイイですよ」

 あーあっ。あんまり知られると、自分の会社の存在がバレちゃうかも知れないじゃん。

 でも、サーキットは突破したい。

 最悪2人にはバレてもイイけど、ツカッダーには困るんだよなー。

 学校を休みづらくなる。

 だけどサーキットを突破し、第四段階に挑戦するにはツカッダーの知識が有用。

 よし、味方につけ利用してやろうじゃん。

 うん、そんなら、とことんまで利用しつくそう。

「そんで先生、量子計算情報処理省のハックバック攻撃方法とかも知ってる?」

「ハッキングセンターでの挑戦だよな? ならハックバック攻撃は関係ない」

「いや、今回はフルスペックで挑戦させてくれるって話になっていて・・・」

「お、お、お前・・・何で先にそれを言わない」

「えっ、別に攻撃された端末は切り離せばイイじゃん。24台も端末があれば大丈夫だから―――」

「全然足りんわ!」

 再度、塚田先生と作業項目を洗い出し、最低工数を見積もった。その結果、最低要員数を9人と割り出した。

 そこで、石本と渡辺が所属している“かわいいね”チーム5人に量子計算情報処理省のファイアウォール攻略に参加をお願いした。

 最初、少ない夏休みの、少ない自由時間を削られるのは嫌だと言われ断られた。

 塚田先生から特別課外授業への参加による内申書への加点を提示し、児玉からはシステム開発への協力を申し出たのだ。

 しかし、彼女たちの時間は買えなかった。

 言葉通り、彼女たちの時間を買うために学食飯の奢りを提案したが、1回では全然話にならなかった。1回分ずつ増やしては交渉し、5回分で漸く3人参加となった。

 埒が明かないと、豪華ディナーへの招待を提示し、ついに5人全員を買収できた。

 どうも、ICT関連で稼いでいるとの情報が、綾から伝わっていたようだった。どんな仕事をしているかは曖昧にして話したようだったが、結構なピンチかもしれない。

 先生バレは非常に困る・・・。

 口止めするために、豪華ディナーがもう一回必要になるかも・・・。

 これで、塚田先生、“かわいいね”チーム5人、綾、自分で8人。

 香奈ネーにも協力を依頼・・・というより、要求しよう。まさか嫌とは言わないだろう。こっちは量子計算情報処理省の闇落ちAI解決のために踊らされたんだから・・・。

 でも、真田さんは要らない。

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