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第二次サイバー世界大戦  作者: 柏倉


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第13章 それぞれの結末(5)

 8月下旬。

 明日は児玉孝一がハッキングセンターで、量子計算情報処理省のファイアウォールに再挑戦する日だ。今日は、その準備に門倉と真田、里見香奈の3人が中央統合情報処理研究所へと向かう予定だ。

 3人に佐瀬を加えた4人が、監査室フロアの会議室で、準備の段取りを詳細に詰めていた。

「―――西東京での役割分担は以上だね。それと申請したから佐瀬は承認よろしく」

 門倉は私物のA4サイズの超薄型のQLEDディスプレイにタッチペンを走らせ、依頼画面に記入を終えて申請まで実行した。

「そこは、山咲さんに承認を貰うんじゃ?」

 真田の質問に佐瀬は「あー」と、気まずそうな表情を浮かべる。

 その様子で何かを察した香奈が、嬉しそうに声を弾ませる。

「なるほど♪」

 門倉が適当な理由をでっち上げ、淡々と言う。

「山咲さんはダンジョンへの入場資格がないからね。申請の妥当性を判断できないのさ。それなのに承認依頼なんてしたら、説明だけで1時間は必要になるかな。時間は有限。くだらない面倒事は避けよう」

 モノは良いようですね~。

 どうせ山咲さんなんて、いつも盲判ばかりで、問題起きてから対処するだけですよ。

 知ってますよね? 門倉さん、佐瀬さん。

 知っててやってるという事は、いよいよですかね~。

 これで、スッキリですよ~。

 香奈はマグカップの緑茶ミルクを味わいながら、山咲に承認依頼しない理由を推理し、一つの結論を導いていた。

 さて、真田先輩の気を逸らしましょうか。

 貸しですよ、門倉さん、佐瀬さん。

「そういえば、良く許可が下りましたね~?」

 香奈は話をすり替えるため、目の前に座っている佐瀬に質問をした。

「ん? サイバー作戦隊の機密情報開示の件かい?」

「ええ、それですぅ」

「そう、どうやったんですか?」

「大変だった・・・・・・」

 がっくりと佐瀬は俯き、ぽつりと一言零した。

長い沈黙の後「すっごく難儀らった」と新潟弁でぼやいた。

「ああん? 打ち合わせ2回で済んだんだよな? ヨッシーが、そう言ってたけど」

「カドくん、2回目ん時な、三枚堂さんが同席したんだ。普通は頼むよな! そうだよな。ケンカ売ってたぞ三枚堂さん」

「ええ~」

「ホントですか?」

「詳しく話そうか、ユージ」

 最初の打ち合わせで、佐瀬はプレゼン資料を用意しお願いした。その場では検討すると言われ、省に帰ったらお断りのメールが来ていた。仕方なく三枚堂に状況をメールで知らせると、再打ち合わせの場に同行するとの返信がきた。

 2回目の打ち合わせは、佐瀬の泣き落としで始まった。

 泣き落としの途中で三枚堂さんがボソッと《試作レーザー兵器の実戦訓練の次は、試作レールガンだな》と呟いた。

 何のことかと質問すると《中央統合情報処理研究所の隔壁で試作レールガンの実戦訓練をする》と宣った。

 そんなことは許されないとの怒声に三枚堂は《成果の共有は絶対だ。しかし許可が降りなければ、中央統合情報処理研究所が入館を拒否するよなー。だが、ドローンが降ろうが、EVが突進しようが、中央統合情報処理研究所に成果物を持って訪問する。邪魔は排除するだけだ。それが中央統合情報処理研究所の隔壁だろうが、量子計算情報処理省の要請だろうが、防衛省の不許可だろうが、だ。我らサイバー作戦隊は、影ながら国民と国を護る盾。そしてソルジャーは、決して後ろに倒れない。いいか、この場は成果物公開の申請じゃない。サイバー作戦隊の矜持の宣言の場だ!》と言った後も、5分以上に亘って演説を打った。

「―――で、その場で許可が下りた。胃が・・・」

「よしっ! ボクたちは西東京に向かう。じゃあなユージ」

 気の毒とは思うが、香奈としては何も出来ない。

 愚痴を聞くのは門倉さんの役目だろうし、その門倉さんが放って置くようだし・・・。

 アタシも門倉さんを見習うとしよう。

「行ってきまーす。お大事に~」

「えーっと、行ってきます」

 佐瀬は一人会議室に残されたのだった。

 しかし、今日の佐瀬の重要業務はこれからだった。


 雑談から入り、佐瀬は和やかな雰囲気作りに腐心していた。そして、いよいよ本題に入る。

「10月1日付けで辞令が出ている。北海道の外局で―――」

 佐瀬の前に座っている山咲は愕然とした表情を浮かべた。

 それはそうだろう。8月1日という中途半端な時期に監査室AI監査グループが組織され、そこのグループ長に異動してきたのだ。

 話が進むにつれ、徐々に山咲の顔色が悪くなっていく。

 それは異動して2ヶ月間で、グループ長としては不適格とされたからだ。AI監査グループのグループ長として不適格なら、2ヶ月という短い期間にならない。グループ長としての業務を熟せないから異動させられるのだ。要は管理職としてお仕事が出来ないと判断された。

「どうしてですか?」

「AI監査の業務が出来ないと判断した。」

「管理職の業務は実施できていました。もうしばらくAI監査グループに所属させてください。これでは経歴に傷がつくばかりでなく、管理職としての仕事が出来ないとみられ兼ねません」

 正直者の佐瀬は思わず言葉が出てしまう。

「管理職としての仕事はできていない。そう判断した」

 山咲の顔は歪み、醜悪な表情を浮かべていた。

「何を根拠に?」

 佐瀬に対して、山咲は素の口調で尋ねた。しかも頭が回っていないのか、部下に話すような短い言葉になっていた。

「キミは量子計算情報処理省のAI監査とは、何をすれば良いと考えている?」

「国際人工知能機関”UAIOユアイオ”の原則に従って開発されているか監査する」

「それなら、すでに第一監査グループが実施している。そもそも数千人がAI関連の業務に就いている。僅か4人のAI監査グループがAIを監査できるわけない。AI監査グループ設立の目的は伝えたはずだが」

「AI監査グループは、量子計算情報処理省の量子コンピューターの人工知能を検査すると・・・・・・」

 それ以上の言葉が続かないようだったが、山咲のプライドを慮ることなく、佐瀬は冷たい声で問う。

「その他は?」

「・・・法律を活用するとも・・・・・・」

「後は?」

「・・・量子計算情報処理省らしくとも・・・」

「量子計算情報処理省らしくとは?」

「聞いたことないです」

「なぜ聞かなかった? そもそも何故知らないのか。一兵卒なら良いが、量子計算情報処理省の管理職なら知ってて当然。」

「ご、ご教示下さい」

「未来と全人類のために、だ」

「はっ? えっ? はっ?」

「未来と全人類のために、だ」

 山咲は佐瀬の言葉の意味が分からなかった。

 その言葉の意味を良く咀嚼せず、自分の要望を口にする。

「・・・AI監査グループ長として不適格なだけなら・・・どこかの管理職に・・・」

「管理職に?」

「次も管理職に・・・」

 相変わらず解り辛い話し方だった。

 いつもは上司からの話を聞き、相槌を打ち、肯定の言葉をハキハキと吐くだけのマシンとなっている。そんな山咲は、相手に自分の考えていることを伝える能力が著しく欠けていた。

 しかし佐瀬は、俗物の山咲は量子計算情報処理省の正義はどうでも良く、自分の保身のみ興味があると門倉から聞かされていた。そのため佐瀬は、山咲の言いたいことを察した。

 当然それに対する返答はNOだった。

「等級の降格はない。ただし役職はない。所謂部下なし管理職として北海道の外局に出向してもらう」

「部下なし・・・なぜ? どうして・・・管理職から・・・」

「出向先の独立行政法人の情シスで、重要なセキュリティー契約を破棄した」

「あれは・・・」

「結果、ファイアウォールを突破され、外局が平常業務へと戻るのに3ヶ月を要した。」

「見積書も出さないような会社と付き合うわけには・・・」

「サイバーセキュリティーからは契約書が提出されていて、金額も明記されていた。本来、覚書での更新でも良かったのに、随意契約は拙いと新規契約の体をとるために情シスから要求した。しかも過度な値引き要求をしたので揉めに揉め、契約締結ならず。その上サイバーセキュリティーからの最後の報告書を課内で握りつぶしたな」

「あっ・・・ぐぅ・・・」

「その前の出向となった原因。統合ID管理システムの全省庁導入は当初3年の予定だった。2年後、量子計算情報処理省にテスト導入したら、サーバーとネットワークに負荷がかかりすぎ1時間で停止。結局全省庁への導入は5年を要した。導入プロジェクト責任者が責任をとって出向となったが、責任者には当初同情が集まっていた。SIerのプロジェクト遂行スキルに問題があった所為なのにと」

「そう、そうです・・・だから―――」

 山咲に言い訳させず、佐瀬が続きを伝える。

「プロジェクト終了から半年後。プロジェクト遂行スキルに問題があったのはSIerではなく、量子計算情報処理省側だったとの報告書があがった。山咲君。キミからの指示どおり、ソフトウェアの機能テストや本番環境での負荷および性能テストを短縮した所為で、必要十分な項目をテストできなかった。品質管理せず、無理なコスト削減、納期だけ最優先とSIerに滅茶苦茶な指示をだしていた」

「そんな事はしてない・・・です」

「会議の打ち合わせ動画は全て残っている」

 山咲は俯き、最早ぐぅの音も出ないようだ。

「外局に出向し、事務所で退職まで、事務用PCの保守を担当してもらう。それと退職後の再就職先は制限する。これは精一杯の温情だ。今回、一民間人と部下が危険に晒されたのに何もしなかった。報告があったにもかかわらず、だ。これは重大な過失で、先の2件も法務に重大な過失と認定されている」

 量子計算情報処理省には独自に法務部門を設けていた。

 これは、進歩の早い量子計算機やAI、情報処理の世界に対応するためだった。しかも、現状の法を独自解釈した上で、独自解釈を法令化するよう国会に働きかけるという極悪な法務部門なのだ。その法務部門が重大な過失と認定したという事は、山咲に逃げ道はない。

 すでに飼い殺しが決定していたのだ。

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