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第二次サイバー世界大戦  作者: 柏倉


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第13章 それぞれの結末(4)

「―――という状況だったな。もう落ち着いてるだろうが、センター員達から詰められてる有森にとっては、拷問継続中といったところかな」

 一同、うーんと唸ったり、うんうんと頷いたりしながら、状況の咀嚼に時間をかけた。

 その中でも微動だにせず、しばらく置物と化していた藤田綾が発言する。

「あのー、今更なんですが・・・。私、この話をお聞きしても良かったのでしょうか?」

 沈黙が流れた。

 綾にとって、この沈黙は永遠にも感じられた。

 自分が聞いたことによるペナルティーがあるのではと、綾は怯えているのだ。

 しかし、星野と門倉は何を今更と呆気に取られていたのだ。

「キミは、カド君に騙されて契約させられた藤田綾さんでいいかな?」

「は、はい?!」

 騙されたという点には疑問、名前の確認には肯定なので、綾は中途半端な返事をした。

「嫌な言い方だなっ! ヨッシー。人聞きが悪すぎるね」

 星野は門倉のツッコミを無視し、綾に答える。

「うんうん、カドくんが大丈夫にしたかな。安心するといい」

 門倉は安心させるように柔和な笑顔を浮かべ、太鼓判を押した。

「そうだね。全く問題はないさ」

「でも、機密情報じゃないですか? 情報を漏らしたりしたら・・・」

「禁固刑になるね。それとサイバーセキュリティーは違約金支払い上、お取り潰しだね」

 今日何度目になるか分からない驚愕の表情を綾は浮かべた。

 それを見て香奈は心の中で呟く。

 門倉さん酷い・・・。あっさりと高校生を絶望の淵へと沈めるとは・・・。しかし、孝ちゃんの所為なんだよね~。まあー、従弟の姉として、少しはサポート&フォローをすべきかな~?

 う~ん・・・もう少し様子見?

 香奈は、身震いしている綾に憐みの視線を向けた。

 綾は、少し声を震わせつつも抵抗する。

「ウソ・・・。でも、孝一の会社は関係ないです。それに私、聞かされただけで・・・盗み聞きしたわけでも・・・」

「藤田さん。契約して、契約センターに書類提出したよね?」

「契約? 契約って・・・。昼に、2時間でって言われた業務委託契約の?・・・」

「そう、それだよ。そしてサイバーセキュリティーへの業務委託契約書の主な記載事項は、経費は量子計算情報処理省持ちで、報酬はハッキングが成功した時のみ。そして秘密保持契約条項があって、情報の目的外利用と第三者への開示の禁止がある。漏洩時の損害賠償請求については、財産の差し止めが明記されている。因みに今回の業務委託の担当者は、児玉孝一と藤田綾になっているね」

 あ~、ホント門倉さんは敵に回したくないです。よくよく考えたら契約センターに2時間以内に提出する必要はなかったしね~。業務完了前に登録できれば、緊急契約案件として受理されるから。

 つまり、2時間以内に設定したのは藤田さんを焦らせること。

 間に合わなかったら他人の所為になる・・・といっても山咲の所為になら、アタシは構わないんだけど、善人なら頑張るよね~。

 それ以上に、一番の理由は孝ちゃんを助けたいって一心だったんだろうけど・・・。

 それに孝ちゃんの罪にならないと答えた後、どうして制限時間が2時間なのかを再質問させないため、謎かけを残し、アタシたちの意識を逸らさせてたな~~~。

 そうだ。これからのアタシの保身の為にも、門倉さんに理由を知っているからね、と伝えよ~っと。

「2時間ではホンットに大変でしたよ~」

 香奈は目でクレームを訴えたが、門倉は飄々と受け流す。

「安全マージンは必要だからね」

「そうですかぁ~。緊急契約ですものね~」

 緊急契約の部分を強調しながら、香奈は目で訴えた。この訴えに門倉は応えざるを得なかった。門倉は訴えを受け入れるとの返事を、甘いものの提供で表明する。

「里見さん。デザートのお代わりはどうだい? ルームサービスで、まだ頼んでいないデザートがいっぱいあるよね?」

「ありがとうございます~」

 香奈は最後の一口分のデザートを上品に口へと運び、ゆっくりと咀嚼した。

 満足気な表情を浮かべた香奈は、綾を糖分過多の道へと引きずり込む。綾の精神的な負荷を軽減させるために・・・。

「ほら、綾ちゃん。一緒に頼もっ! もう済んだことだし、他人に話さなければ良いだけだし、ここのデザートは美味しいし、ねっ!」

 香奈は、死んだ魚の目をしたように生気のない綾の傍に行き、彼女にデザートを勧め、2人分のデザートを注文したのだ。


 しばらくして、香奈と綾はルームサービスで届いた豪華なデザートを美味しそうに食べていた。

 児玉は契約センターにアクセスし業務委託内容を確認し、星野と門倉は雑談をしていた。

 大人しくしていた真田が突然、二人の話に割って入る。

「そういえばシンギュラリティーってどうなったんですか?」

 星野が端的に答える。

「そんなの何処にもないね」

「有森センター長が・・・」

「いやいや、あれは有森センター長の妄想だな」

「シンギュラリティーが起きていて、人工意識を獲得したから・・・。それで人工意識が全世界のコンピューターを掌握するためハッキングを開始したんじゃないんですか?」

 門倉は、真田の人工意識への勘違いを正す。

「人工意識を獲得したからって全世界のコンピューターをハッキングしたりしないさ。有森センター長の主要研究テーマは人工意識。その人工意識に悪意を埋め込み、ダークウェブの足掛かりに全世界のAIに繋がろうとしたのが今回の事件の発端だね」

「でも有森センター長はプレシンギュラリティーが・・・」

「いやいや、全世界のAIが繋がり飛躍的に能力が向上したからって、技術的連続性が途切れることはない。シンギュラリティーとは技術的特異点だからな」

「ちょい待った、ヨッシー。最初にシンギュラリティーを提唱したヴィンジ博士は、人間より賢い知能が誕生し、人間の文明が予測不可能な変化を迎える時点だって定義してたよ。最近では人類の全知能をあわせたよりも人工知能が賢くなったら、とも云われているね」

 星野は気まずそうに視線を明後日の方向に向け、口を閉じた。

「えーっと・・・ということは?」

「有森センター長のいうプレシンギュラリティーは、あながち間違いじゃないよ。ただ、シンギュラリティーと第二次サイバー世界大戦は繋がらないけどね」

「えっ! 第二次サイバー世界大戦を起こそうとしてたじゃん」

 児玉が声を上げた。

「ダークウェブのAIを支配下に置いて闇落ちAIを増殖させてたけど、第二次サイバー世界大戦を起こそうとはしてないね」

「ダークウェブを支配下に置いたのは、そのうち全世界のコンピューターも支配下に置くためなんじゃ?」

「そうだね」

「はっ?! なら、やっぱり第二次―――」

「世界大戦をしないで、全世界のコンピューターを支配下に置こうとしてたのさ」

 児玉と真田は理解しようと考えを巡らせ、星野は気配を消していた。

 しかし、門倉は星野の存在をしっかりと認識し、逃さなかった。そして、ツッコミという名の苦言を呈した。

「ヨッシー、日本語訳に囚われすぎだよ」

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