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ANDOLL*ACTTION魔法使い編  作者: 文丸くじら


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23/26

エスコートは優しくね☆

布動俊介は瞬間移動を活用して静まった病院のとある部屋に着いた。もう一人、手を繋いでいる相手がいる。

ベットで静かに眠る女性と並べられた機械が白い室内をわずかに飾っているが、一つも心浮き立たない。

なにかが突然出てきそうな部屋に怯える布動俊介に対し、もう一人は女性に視点を当てた。



柊が段差を飛び越えた衝撃に驚いて少女は組んでいた手を解いて、頭を抑える。

相当怖かったのか頭を抑える手が震えていて、手の平は汗だらけになっていた。

見上げられる視線を無視して柊はさらに速度を上げる。大分マーリンに距離を詰められたからだ。

おそらくさらに後ろから追いかけてきているであろう楓と竜宮健斗の姿は見えない。

しかし失敗しているわけではない。むしろ時間を稼げば稼ぐほど成功しているといえる。

そこまで考えて塀を飛び越えようと跳躍した矢先、柊は足をマーリンに掴まれる。

追いつかれて捕えられたと判断する前に地面に頭を叩きつけられた。脳に当たる部分はCPUが内蔵され、強い衝撃を与えると強制停止することになる。

大きな音がしたが、辺鄙な場所であるため、また夜が深まってきたため近くには誰もいない。

柊の胸の中にいた少女は無事だが、同じような衝撃を受けてすぐに起き上がれそうにない。

マーリンは生徒を叱る教師の心境で少女の手を掴んで、無理矢理立たせる。


するとツインテールの髪がずれて、地面に落ちた。






「……は?」


髪が落ちたのを確認して、ゆっくりと顔を上げて神崎伊予だと思っていた少女を見る。

正確には少女ではない。少女と思い込むように服装を整えた、神崎伊予と同い年で同じくらいの体格の扇動美鈴である。

目を回している扇動美鈴は星が散る視界を整えようとするが、柊も強制停止する衝撃はそう簡単に抜けない。


「うにゃ……う~……」

「……だま、された」


心底悔しそうにマーリンは呟く。あれだけ必死に追った結果が偽物という結末。

しかしそうすると本物の神崎伊予はどこにいるのか。どこから入れ替わったのだろうか。

扇動美鈴の着ている厚手のポンチョは神崎伊予の着ていたものと同一、となると着替える時間が必要だったことになる。

一分もあればポンチョくらいならすぐに変えられる。だが布動俊介を追いかけていた時はそこまで目を離していない。

瞬間移動をしていたとはいえ、あの能力は視界に映った場所に進む程度の距離が限界だ。

着替える暇など与えてない。となると本格的に見失ったのは楓との軽い戦闘である。

考えてみれば話しかけてきたり、追撃が甘い印象があった。しかし気にする余裕はなかった。

少しでも早く追いかけなくてはいけないと走ったからだ。そうやって前しか見えていなかった。


「柊、美鈴!」


響いた声は竜宮健斗のもので、マーリンは思わず肩を震わせる。

もしこの過去が変わったというなら、きっとその少年が間違いたくないと走ってきたからだ。

全部救いたいと我儘を言って、周りを動かして、何度も事件に立ち向かったからだ。

マーリンからすればその姿は眩しかった。目を背けたい、理想像だった。

本当は全てを救いたいと豪語できたら、どんなに良かったかと考えて自嘲したことがある。

そんなこと叫んだって綺麗ごとで、身近にいる弟子一人すら自分の力では救えない自分自身を見て打ちのめされるだけ。

だから自分の目的だけで動いて来た。あの青い空がどこまでも続きそうな、暑い夏の日に戻って救うだけだと。


「……マーリン、今すぐその方から手を離してください」

「あれ、楓なんか怒ってる?」

「怒ってません」

「いやだってスタンガン二丁装備で……」

「制圧のためです」


尋常でない気配を漂わせる楓に対し竜宮健斗はマーリンには向けなかった警戒の目を向ける。

しかしマーリンは扇動美鈴を盾にして動力部のある胸を守護する。楓が明らかな舌打ちをする。

大分表情豊かになった、のか、と竜宮健斗が感想を抱く前にマーリンが真剣な目で問いかける。


「伊予はどこだ?」

「……マーリンが目指していた場所だよ」


竜宮健斗の問いにマーリンは目を丸くする。なぜ裏切った神崎伊予がマーリンの目的を叶えるのか。

それでは今までの逃走劇は一体何だったのか。全くの無駄骨でないか。

だったら最初から二人で病院に侵入すれば良かった話だ。それをなぜ拒否するのか。

マーリンが戸惑う中で、竜宮健斗は神崎伊予が魔法使いには秘密にしていた話を始める。


「伊予はさ、マーリンに生きて一緒にいてほしいだけなんだよ。そのためにあの病院には連れていけなかった」

「俺が、死ぬからか?しかしそれくらいは承知しているし、大体俺は可能性を見てもらうだけで……」

「あの病院を実質管理しているのはジョージ・ブルース。アラリスがデバイスを通じて調べてくれた、だろ?」

<そうですよーん。初めまして、マーリンさん、じゃなくて●●●●さん?>


竜宮健斗が持っているデバイスの画面に映りこむ金髪美少女のデータ、アラリス。

最強のウイルスAliceと融合した、おそらく現段階でのネット環境において最強の存在。

マーリンは告げられた名前に瞬きをする。動揺して、眼筋に値する部分が反応したのだ。

その名前は弟子達すら知らない、マーリンの最大の秘密の一つ。かつて何の違和感もなく使っていた名前。

青い空の下で呼ばれたら振り返るほど慣れしたんだ名前、だった。


「こっちも少し混乱してるけど、俺の友達二人が青い血に関与してるとか何とかで、でも俺達の味方というかなんとか……」

<健斗はちょっと黙ってて。青い血も今内部分裂勃発状態で、その原因が一番の青頭千里と二番のジョージ・ブルースなわけなんだよ>

「それで?」

<ジョージ・ブルースは君が目的としている彼女を餌に、罠を仕掛けているんだよ。それを彼女は予知したんだよ、ね?>


後ろにいる誰かに話しかけるようなアラリスの声、しかし実際にはデバイスを持っている竜宮健斗の後ろに立っている。

頭痛がする頭を抑えている布動俊介と、顔を俯かせて唇を引き締めている神崎伊予。厚手のポンチョは脱いでいるので素肌の一部が街灯に照らされる。

煙草の火でつけた火傷の跡や切り傷、夫に殺された母親が娘を守るために泣きながらつけた、忌まわしい傷痕。

目立つところにつけているのは、そうしないと神崎伊予の父親は娘をすぐさま売り物にするほどの屑だったからだ。

どんなに年数が経っても消えない傷痕を神崎伊予は隠し続けてきた。しかし今は隠さない。

それよりも大切なことがあると、覚悟したから。こんな傷だらけの体を抱きしめてくれた人を守るために。


「私が予知したの全て伝えたら、きっと先生はいなくなっちゃう。それだけの可能性を私は知ってる」

「それでも目的を果たしたのか?俺を騙してでも」

「……先生が好きだから」


俯いたままの顔を上げずに神崎伊予ははっきりした声で告げる。

告白というにはあまりにも苦しそうな、それしか縋る物しかないと言わんばかりの震え声。

実際に神崎伊予には魔法使いと弟子達しかもう残ってない。生まれたことすら誰も知らず、自分の誕生日すら知らない。

出生届も出されず、母親は父親に殺され、その父親も灰になって消えてしまった。閉じこもっていたトイレも今は壊れているだろう。

体も傷だらけで今更孤児院に行くこともできない。読み書きなどはできるが小学校も通っていない。

そんな神崎伊予にとって全てというのはとても小さな世界のことだった。


「……どうだった?あいつは……目覚めるのか?」

「……」

「頼む、伊予。それだけでも俺は知りたい」


マーリンは真っ直ぐに神崎伊予を見る。もう目的の最終地点なのだ。

弟子達も巻き込んで本当に全部救えるのかどうかもわからない状況で前だけ見て進んできた。

今更後には戻れない。単純な話、二択しかない答えを待っている。

あるのか、ないのか、それだけの話である。










「一%未満……このまま衰弱して死ぬ未来がとても大きい」








神崎伊予が寝ている彼女を見て予知できた結果はそれだけだった。

0ではない、でも叶えるにはあまりにも無謀な可能性の未来。マーリンが生き残るよりも難しい。

本当は見る前に神様に久しぶりに祈ってみた。魔法使いには頼ることができないから。

そして確信した。神様はいないのだと、見ているだけで救いの手なんて都合のいい奇跡を起こしてくれないと。

神崎伊予は膝から崩れ落ちて、俯いた顔に両手を当てる。それでも指の隙間から滴が零れていく。


「先生、もう止めようよ。先生が言う世界のことなんかよくわからないけど、それは私達と過ごした日々よりも大切だったの?」

「……」

「皆で家族みたいに過ごした日々を無下にしても、戻りたい世界なの?それは救う価値があるの?」

「伊予、俺は……」

「もう全部忘れて、また皆で隠れながらでもいいから過ごそうよ!!じゃないと、私……きっと絶望しか見えなくなる」


神崎伊予はあらゆる可能性を見ることができる。しかし好きな物だけを見るわけではない。

どんなに残酷で悲惨な未来も、目を背けたい画面も、全てが神崎伊予の眼前に広がる。

そうして現実を覆い隠して、未来しか見えなくなる。望まない未来、望んでも可能性が小さすぎて届かない未来。

小さな希望の未来も、大きな絶望の前には隠れて消えてしまう。そうやって希望を与えられては絶望に沈む。

だけどそんなこと誰も理解してくれない。神崎伊予の能力とはそういう類のものだった。

それでも耐えてこられたのはマーリン達がいたからだ。例えどんなにどん底にいても、傍にいてくれたからだ。

しかし今日を限りに魔法使いと弟子達は散らばる。そう決められた、一番大好きな魔法使い自身に。

抗ってわずかに見えた希望に縋って、それでもマーリンが死ぬ可能性が消えない、自分の未来が見えない。

神崎伊予はこれ以上は正気が保てない、だからマーリンに懇願する。元に戻ろうと。

今ならまだ間に合うと。それが一番幸せだと訴える。




「それでも俺はあの世界を、救わなきゃいけないんだ」




それは決められた出来事をなぞる蟻のように、忠実すぎる言葉だった。

マーリンはそれだけのために生まれて生きてきたようなものだ。データとしてプログラミングされていたと言ってもいいほどに。

傍から見ればヒロインを犠牲にしてでも戦いに出向く主人公の言葉のように錯覚できる。

しかし状況としてはあまりにも冷酷な言葉である。デバイスの画面の中でアラリスは暗い顔をしている。


<今どきそういうの流行らないと思うけどなー。僕が見た限り、あの世界なんて秒単位で消えてるし>

「アラリス?どういうこと……」

<マーリンの世界は再生と滅亡を繰り返すシステム構造の電脳世界なんですよ。製作者はジョージ・ブルースで統制管理はシステムエッグ>


アラリスの説明に今度は竜宮健斗が目を丸くする。システムエッグはかつて消失文明を滅ぼし、地底世界に多大な影響を与えた。

そして最強最悪のウイルスAliceを生み出した演算装置でもある。強すぎる希望に対して絶望を振りまく、しかし可能な範囲はリスクなしで答える機械。

使い方によってはアラリスのように救うこともできる。ただそれを所持しているの青い血の中でも矮小で卑屈な精神のジョージ・ブルース。

地底遊園地を混乱の渦に陥れ、キッキの兄であるトットを殺そうとしたこともある。それ以降は身を潜めていたと思っていた。

それでもマーリンが目的地としていた病院の管理者名として上がった時、予感はしていた。


<しかも中身はNYRONに似せた偽物。全て、データ!それでも守る価値あるの?救う価値あるの?>

「俺もそこから生まれた……」

<そういえばそうだっけ>

「今思えば確かに違和感はあって、でもあの世界では幸せがあって、俺は生きていて、友達がいて、あいつらがいて……」

<ありゃ?もしかして藪蛇……>





「データだからなんだ……データにだって、俺にだって、秒単位でも、あの青い空の下で、生きてっ」





マーリンの言葉の途中で、軽い足音と共にその胴体に食らいつく機械の狼。

誰もが予想していなかったロボットの登場に、驚いて動けなくなる。

脇腹を噛まれた衝撃でマーリンは抱えていた扇動美鈴を手放す。まだ星が目の前に散っていたが大分回復していたので、受け身を取ることには成功した。

それでも地面を転がるように移動し、転がった先で背中に何かが当たり止まることになる。

背中を振り返れば鋼鉄の四足の一本、狼ロボットの脚があり、精巧に作られた牙が大口を開けて扇動美鈴に噛みつこうとしている。

楓が走って助けようとする前に、一本のトンファーが狼の頭に刺さろうとした。しかし寸前で避けられてしまう。

起き上がった柊は明らかに鈍い動きをしているが活動を再開していた。楓は扇動美鈴を無事回収してから、通信で手短な連携内容を伝えようとした。

しかし妨害のようなジャミングによって、ノイズが多くなり伝えられなかった。竜宮健斗が見回せば、狼のロボットはマーリンに噛みついているのを含めて五体。

大型犬より少し大きい、仔馬ぐらいの大きさはあるロボットで、今まともに動けるアンロボットは楓一体。

布動俊介は能力の使いすぎで頭痛を起こしており、動くことも辛そうだった。柊も本調子ではない様子。

竜宮健斗はおそらくこの中で一番非力な神崎伊予の傍に駆け寄る。デバイスの画面からはいつの間にかアラリスが消えている。


「せ、んせい……先生っ!?」

「来るな、伊予!!ぐっ、がはっ!?」


駆け寄ろうとした神崎伊予に制止をかけるマーリンだが、胴体の損傷で口から大量の赤いオイルを零す。

噛まれている胴体もコーティングされた肌フィルムの下にある機械部分が露出している。小さな火花が散っては消える。

楓は扇動美鈴を抱えて竜宮健斗達がいる場所に戻り、柊は膝立ちになりながら新しいトンファーを袖の中から取り出す。

三体の狼ロボットが竜宮健斗達を取り囲み、一体は柊に対峙して警戒を続けている。

取り囲んでいる三体の内一体の狼の頭にはテレビ画面が乗っかっており、突如そこに嫌な笑みを浮かべた男が現れる。

青白い肌をした、赤い血が通っていなさそうな、しかし青頭千里とは違い品の良さを感じさせない。


『こんにちは、赤い血の子供達』


その声には聞き覚えがあり、竜宮健斗は背筋を嫌悪で震わせた。

地底遊園地で自分達を殺すゲームを仕掛けた、最低最悪な人外、ジョージ・ブルース。

映像は荒れていて、背景は見えないが顔の色と容姿だけは確認できた。

顔色の悪い中年男性に見える。外国でイタリア製のスーツを着て街頭を歩いていそうなイメージだ。

葉巻を吸う姿が似合ってるともいえるが、しかしどこか下卑た印象を与えてくる。


『今回は彼が失礼したね。こちらで回収の手筈は整えていたんだけど、どこかの御嬢さんが邪魔してくれて困ったもんだよ』

「回収って……先生を殺すこと?」

『最初はそのつもりだったんだけど、気分が変わった。彼にはもっと私の手伝いをしてもらおう』

「もっと?どういうことだよ?」


まるでマーリンがジョージ・ブルースに加担していたような言い方だ。

今までのことを振り返るとマーリンはあくまで独自の判断で行動してきたように思える。

未来の脳味噌だけのクローバーの頼みを聞いていたらしいが、ジョージ・ブルースと接触した様子もない。

ジョージ・ブルースは勝利に酔いしれた優しい余裕の口調で話を続ける。





『彼を未来に送ったのは私だよ。クローバーと接触してもらい、一つの事件を起こしてもらうためにね』





こともなげに答えたジョージ・ブルースの言葉にマーリンは呆気に取られる。

でもそう言われたら納得できる部分がいくつもある。クローバーは時空の歪みを感じて自分を拾ったといった。

時空の歪みというのはクローバーが言うには不完全なタイムマシンを作動させた時に生ずる、空間にまで干渉する穴のようなものだと。

クローバーに会った時は記憶があやふやだった。次第に思い出してきたが、いまだ思い出せない部分もある。

その思い出せない部分に嫌な予感を見出して、マーリンはジョージ・ブルースの嫌な笑いを耳にする。


『ヌハハハッ。こんなに上手くいくとは思っていなかったが、そのおかげで彼は生き延びることができるよ。あの世界の楔としてね』

「どういうことですか?タイムマシンはもっと未来で開発されて、それに楔って……」


無事喋れるようになった扇動美鈴が問い詰める。タイムマシンはいずれクローバー、扇動美鈴が開発予定の代物だ。

それは現在幻の道具としての認識が強い世の中だ。あの天才を超越するマスターですら、タイムマシンについて口出ししたことがない。

ジョージ・ブルースは扇動美鈴の反応に気を良くして、少しずつ口調を崩していく。


『ヌハッ、忘れたのかい赤い血の子供達。私の手にあの素晴らしい演算装置があることを?ん?』

「システムエッグ……」

『そーう!過ぎたる望みを言わなければあれは全くもって素晴らしい!!そしてタイムマシン如き、過ぎたる望みではない世の中だからね』


インペリアルエッグのような宝石で飾られた卵形の機械。

文明一つを消失させる力を持つそれは、不老不死に似たシステムを生み出すこともできる。

勿論そんなことを望んだせいで奇病が流行ったという背景もあるが、天気予報や流行病の速報くらいなら問題ないのだ。

今は粒子の研究も盛んで、ある粒子の発見により十年以内に完成できるかもしれない項目にタイムマシンが上げられている。

つまり時空を超えることはもはや荒唐無稽の類ではなくなった。だからシステムエッグは問題なく演算をした。

今までで一番システムエッグの構造を理解している人外は、自分の欲望のためだけに演算装置を利用している。


『つーいーでーに。この狼達もシステムエッグに設計書を演算してもらった結果でな、アンロボットくらい楽勝な力を持っている』

「……」

『実はあの世界を構成する脳が衰弱しててね、もう十年も経つから中古品みたいに補助用品をつけないといけないようなんだ』

「それが、楔?しかも脳を中古品って……」

『感謝して欲しいね。起きない人間の脳を有効活用して幸せな夢を見せてあげているんだからね』





「っざけんな……ふっざけんな!!人はモノじゃない!!マーリンだって、生きているんだぞ!?」





竜宮健斗の声が画面向こうのジョージ・ブルースの部屋で響く。

音割れしていたので人外とはいえ耳に大被害である。顔を顰めて不機嫌そうに尋ねる。


『データだよ?そっちだって日常的にデスクトップにあるゴミ箱に放り投げるような、クリック一つで消せる存在だろうが?』

「それでも目の前で呼吸している!機械の体でも、伊予や弟子達を救ってくれた奴なんだ!俺達と同じ……人間なんだよ!!」

『面白くない。あの世界のシステムにお前のその思考を組み込んだけど、やはり不快なだけだ』

「こちとらお前を楽しませるために生きてるわけじゃない!」

『ま、どんなに叫んでもお前達如きこの狼ロボットの一噛みで死ぬ赤い血なんだけどね、ヌハッ、ヌハハハハハハハハハッ!!』


その言葉と同時に動きを止めていた三体が同時に竜宮健斗に襲い掛かる。

楓が庇おうとしたが間に合いそうになく、頭の前に腕を交差させて防御の体勢を取る。

しかしそんな軟弱な防御はアンロボットの体を噛み砕ける牙の前では紙キレと同義だった。




邪魔さえ入らなければ。





一体は砂鉄が関節部分に侵入されて動きを止めている。

もう一体は横から伸びてきた大きな腕の筋力で胴体をへこませている。

最後の一体は青い髪した青年に見える存在が握っている鋼鉄の棒で、頭上から瓦割りさせられていた。



「人間兵器様参上だぜ」

「間に合ってよかったんよー。アラリスのおかげなんよ」

「全く、もう少し早く連絡を寄越してもよかっただろうに」

<うわ、セイロンひどーい★>



傷だらけの豊穣雷冠、待機していたはずの鞍馬蓮実、そして今は会議場と言われるスーパーコンピュータ内にデータとして保存されているはずのセイロン。

その三人が一体ずつ担当し、竜宮健斗を守った。しかし鞍馬蓮実の相手をした狼だけはまだ動けるようだった。

アンロボットの体は二回目のセイロンだが、生前と変わらない動きで鋼鉄棒を剣代わりに振るい、鞍馬蓮実では倒しきれなかった狼に向かう。

勿論狼も大口を開けて出迎えるが、足を限界まで開いて姿勢を低くしたセイロンに自慢の牙は届かない。

あらん限りの腕の力で大人でも持つのが難しい重量の棒を鋼鉄の脚打ち付ける。折れることなく、棒で一本の脚を両断した。

切れ味ではなく、純粋な力技。力が大きすぎて引き千切れたに近い、にわかには信じられない光景。

セイロンは力技で残りの三本の脚も棒で打ち付け、千切り、最後は頭を西瓜割りのように潰す。

優男の外見には似合わない凶暴ながらも圧倒的な力と剣技。アラリスが昔からああなんですよねー、と竜宮健斗のデバイスで呟く。

砂鉄で動きを止めた狼の頭にはテレビ。そのテレビに手を触れて豊穣雷冠は舌なめずりする。


「俺様人間兵器として諜報の技も叩き込まれてんの知ってる?人外のじじい」

『んなっ!?』

「前は行方を誤魔化したみたいだけど、傷だらけとはいえ今回は俺様がいる。逃がさねーぞ」


テレビがショートして爆発するほどの電気量を浴びせつつ、電波の位置を探り座標を特定する。

特定した座標をそのまま電波にしてアラリスに伝え、アラリスはセイロンの手配などをしてくれたマスターに送信する。

今回の件で半ば振り回されていたことに怒り心頭なマスターなら、即座に嫌がらせという名のおぞましい報復をしてくれるだろう。

楓は三人で狼が退治できると踏んで、マーリンをいまだ捕えている狼に向かう。柊なら自分でなんとかするだろうという判断だ。

長袖の中から組み立て式の長棒鎚の部品を取り出し、即座に組み立てる。遠心力も利用した一点集中の強打撃。

鎚の部分はあえて小さくしているのは貫くため。狙うはCPUがあるであろう、そしてマーリンを捕えている顎と直線状の頭上。

上段に振りかぶり勢いをつけて落とそうとしたが、咥えていたマーリンを盾にするように向けてくる。

楓達にとってマーリンは大事だが、ジョージ・ブルースの場合は気まぐれで生かしている使い捨ての部品。

盾にして壊れても問題ない、むしろ楓の手で壊されることによって生じる絶望に喜ぶだろう。

瞬時にそのことを計算して頭上に落とす一歩手前で鎚の動きを止める。その隙を突いて柊と対峙していた狼が楓の背中に噛みつこうとした。

だが柊は無理矢理関節に負担をかけて動き、トンファーで動力部分がある胸の直線上にある背中を貫く。

体重を丸ごとかけたので追撃がくれば避けれないが、動力部を壊されて強制停止した狼と一緒に地面に転がる。

マーリンを咥えた狼は頭上から新しいテレビ画面をだし、楓達から距離を取る。


『ちっ、まぁいい。今回はこいつをさらうことで絶望するお前達で満足することにしよう』

「待って、先生を返して!!」

『や・だ・ね☆ヌハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!』


神崎伊予の悲痛な叫び声に快楽を感じたのか、最後の笑い声は耳障りだった。




狼に咥えられたまま雑に運ばれるマーリンは拳を強く握る。

利用されていただけで、自分の意思というのは幻でしかなかった現実。

それでも現実に抗えるほどの力を、今のマーリンは持っていなかった。


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