浮かび上がる疑惑と、隠された協力者
――ルシアン視点。
王宮から届いた報告書を読み終え、俺は机の上に広げた資料へ視線を戻した。
事件当日、庭園の整備業者として王宮に入り込んだ六人目の男。その男が使用した紹介状には、王宮の施設管理を担当する部署の印章が押されていた。
印章そのものは本物だった。しかし、紹介状が正式に発行された記録はない。
「……内部の人間が関わっている可能性が高いな」
問題は、誰が印章を使ったのかということだ。
報告によれば、事件の前日、印章を保管する部屋には複数の職員が出入りしていた。俺はその名簿を確認し、一人の名前に目を留めた。
施設管理局の補佐官、ローデリック・ハインツ。
事件当日、庭園の整備業者が入場する際の確認を担当していた人物だ。さらに、事件後に提出された警備記録にも、彼の署名が残されている。
もちろん、それだけで犯人と決めつけることはできない。だが、調べる価値は十分にあった。
俺は名簿を閉じ、控えていた従者に告げた。
「明朝、王宮へ向かう。施設管理局の記録を、もう一度確認したい」
「かしこまりました」
窓の外には、静かな夜が広がっていた。
リリスはもう、休んでいるだろうか。
先ほどまで一緒に過ごしていた時間を思い出す。俺の好きなものを知りたいと、真剣な顔で尋ねてくれた彼女。
蜂蜜の焼き菓子が好きだと答えたとき、何かを覚えるように小さく頷いていた。
……本当に、可愛らしい人だ。
事件が解決すれば、今よりも自由に外出できるようになる。彼女が行きたい場所へ、いくらでも連れていこう。
俺はそう考えながら、翌朝の調査に必要な資料をまとめた。
◇ ◇ ◇
翌朝、王宮の執務室に入ると、アレクシスはすでに書類に目を通していた。
「来たか、ルシアン」
「ああ。昨夜の報告について話がある」
俺は机の上に名簿を置いた。
「施設管理局の補佐官、ローデリック・ハインツ。こいつの動きを調べたい」
「……理由は?」
「印章の保管場所に出入りできる立場にあり、事件当日の入場確認も担当している。さらに、事件後の警備記録にも名前がある」
アレクシスは眉を寄せた。
「ずいぶん都合よく名前が出てくるな」
「ああ。だからこそ、慎重に調べる必要がある」
俺は続けた。
「印章の使用記録と勤務表を照合したい。それから、当日の門の記録もだ」
「分かった。必要な資料はすべて出させよう」
アレクシスはすぐに指示を出した。
◇ ◇ ◇
調査を進めるうちに、不自然な点が次々と見つかった。
ローデリックは事件の前日、通常の業務では必要のない時間帯に印章の保管室へ入っていた。
さらに、事件当日の入場記録を確認すると、代理の作業員を受け入れた際の確認欄に、彼の署名が残されていた。しかし、紹介状の発行記録は存在しない。
加えて、事件直後の混乱の中、使用人用の搬入口が一時的に開かれていたことも判明した。その際の確認担当者も、ローデリックだった。
偶然にしては、出来すぎている。
俺は彼を呼び、記録について確認することにした。
「事件の前日、印章の保管室へ入っているな」
「……はい。業務上、必要がありましたので」
「何の業務だ?」
「それは……」
ローデリックは言葉を濁した。
「では、事件当日の朝について聞こう。代理の作業員を受け入れたのは、お前だな?」
「はい。しかし、紹介状に問題があるとは知りませんでした」
俺はもう一枚の書類を示した。
「紹介状は正式に発行されていない。にもかかわらず、お前は確認済みとして通している」
「それは、手続き上の不備で……」
「事件直後には、使用人用の搬入口も開いている。その確認担当もお前だ」
ローデリックの表情が強張った。
「……偶然です」
「そうか」
俺は静かに頷いた。
「では、印章の使用記録と搬入口の出入りについて、正式に調査させてもらう。関係者にも改めて事情を聞くことになるだろう」
その言葉に、彼の顔色が変わった。
「ま、待ってください!」
俺は口を閉じ、彼の次の言葉を待った。
「私は……ただ、言われた通りにしただけなんです!」




