第8話 Aランク探索者との初合同探索
日曜日、午前六時三十分。
市河家の自室で、信太はベッド脇に並べた探索装備を一つずつ確認していた。
今日はいつものC級ダンジョンではない。
Aランク探索者《剛剣》九条蓮司と共に、B級ダンジョン《雁坂深層洞》へ入る。
目的は通常の攻略ではなく、最近確認されている魔物の配置変化を調査することだ。
信太「救急用品よし。予備バッテリーよし。食料と水も問題なし」
最後に刀を鞘から少しだけ抜き、刃の状態を確認する。
信太「こっちも大丈夫」
カチン、と静かに納刀した。
C級ダンジョンなら何度も単独で潜ってきた。
しかしB級は違う。
探索者協会の資料で情報を調べ、出現する魔物も一通り頭へ入れている。それでも実際に足を踏み入れた経験はない。
怖くないと言えば嘘になる。
むしろ怖さを感じなくなった時こそ危険だと、信太は考えていた。
信太「九条さんもいるけど、頼り切るのは違うよな」
自分で判断し、自分で動く。
危険だと思えば撤退する。
それだけはいつもの探索と変わらない。
探索用ジャケットを着込み、バッグを背負う。
ドローンも収納した。
部屋を出ようとしたところで、廊下から足音が近づいてきた。
信太「……嫌な予感」
直後、ドアが開く。
莉奈「おはよう、お兄ちゃん」
信太「ノックしろよ」
莉奈「したよ」
信太「聞こえなかった」
莉奈「それより」
莉奈の視線が、信太の服装からバッグへ移った。
莉奈「また山?」
信太「前にも言っただろ」
莉奈「朝早すぎない?」
信太「山は早朝から動くものだろ」
莉奈「誰と行くの?」
信太「知り合い」
莉奈「大学の?」
信太「……まあ、知り合い」
莉奈「答えになってない」
信太「細かいこと気にするな」
莉奈は納得していない。
明らかに疑っている。
莉奈「今日さ」
信太「うん?」
莉奈「《シンタ》も配信したりして」
信太「するんじゃない?」
莉奈「…………」
信太「何だよ」
莉奈「お兄ちゃん、本当に分かりやすいよね」
信太「何が?」
莉奈「何でもない」
意味深な言葉を残して、莉奈は先に階段を下りていった。
信太「……なんなんだ?」
首を傾げながら信太も一階へ向かった。
リビングでは、母の美咲がすでに朝食を用意していた。
美咲「おはよう」
信太「おはよう」
美咲「ずいぶん早いのね」
信太「ちょっと遠いから」
美咲「そう」
父の隆一も新聞から顔を上げた。
隆一「山へ行くなら天気には気をつけろよ」
信太「分かってる」
隆一「最近はダンジョン周辺が立入制限されている山もあるらしいから、間違って入るなよ」
信太「……うん」
むしろ目的地がダンジョンである。
美咲「何時頃帰るの?」
信太「夕方……いや、調査次第だと夜になるかも」
美咲「調査?」
信太「…………」
しまった。
莉奈「調査?」
隆一「何を調べるんだ?」
信太「山道」
莉奈「なんで大学生のお兄ちゃんが?」
信太「趣味で」
莉奈「山道の調査が趣味なの?」
信太「……最近は」
我ながら苦しい。
美咲だけは追及しなかった。
美咲「そう。じゃあ気をつけてね」
信太「うん」
美咲「無理はしないこと」
信太「分かってるよ」
美咲「危ないと思ったら、すぐ帰ってくるのよ」
信太「…………」
少しだけ引っかかった。
それはまるで、これから信太が何をするのか知っているような言い方だった。
だが美咲は何事もなかったようにコーヒーを飲んでいる。
信太は考えすぎだろうと思い、朝食を済ませて家を出た。
玄関の扉が閉まる。
数秒後。
莉奈「お母さん」
美咲「何?」
莉奈「今日、《シンタ》が配信したらどうする?」
美咲「見るわ」
莉奈「そうじゃなくて!」
美咲は小さく笑った。
美咲「まずは確認しましょう」
莉奈「やっぱりお母さんも疑ってるじゃん!」
美咲「さあ、どうかしら」
その会話を、信太は当然知らなかった。
◇ ◇ ◇
午前八時四十分。
埼玉県と山梨県の県境付近。
《雁坂深層洞》探索者協会管理施設。
信太が到着すると、入口前にはすでに見覚えのある大柄な男が立っていた。
背中には巨大な大剣。
一般的な探索者の片手剣と比較すれば、武器というより鉄塊に近い。
九条「おう、来たな」
信太「おはようございます」
九条「おはよう。時間より早いじゃないか」
信太「九条さんも」
九条「俺は調査資料の確認があったからな」
二人は管理施設へ入る。
受付では、すでに探索許可の準備が進められていた。
協会職員「九条蓮司様、市河信太様ですね」
九条「ああ」
信太「はい」
協会職員「本日の調査区域は第一層から第三層です。第四層以降への進入は、異常の有無にかかわらず本日の許可範囲外となります」
九条「了解」
協会職員「市河様についてはCランクですが、今回は九条様同行の協会調査ということで特例許可が出ています。ただし、九条様から撤退指示があった場合は必ず従ってください」
信太「分かりました」
協会職員「配信についても許可されています。ただし、調査用端末の画面、未公開の内部資料、協会職員の個人情報は映さないようお願いいたします」
信太「はい」
九条「配信するんだろ?」
信太「そのつもりです」
九条「俺は映って構わないぞ」
信太「本当にいいんですか?」
九条「今さら顔を隠すような仕事でもないからな」
確かに九条はテレビにも出演している。
むしろ隠す意味がない。
九条「それに、お前の視聴者が俺を見てどんな反応するか興味ある」
信太「たぶん大騒ぎになりますよ」
九条「面白そうじゃないか」
九条は豪快に笑った。
◇ ◇ ◇
午前九時。
雁坂深層洞入口。
巨大な岩壁にぽっかりと開いた洞窟。
内部から冷たい空気が流れてくる。
信太は探索用マスクを装着し、ドローンを起動した。
九条「それが配信用ドローンか」
信太「はい。自動追尾してくれるので便利ですよ」
九条「俺も買おうかな」
信太「九条さんならスタッフに撮ってもらえるんじゃ?」
九条「一人で潜る時までスタッフ連れていくの面倒なんだよ」
そんな会話をしながら、信太は配信タイトルを入力した。
《第4回 初めてのB級ダンジョンを探索します》
あえて九条の名前は入れなかった。
信太「始めます」
配信開始。
視聴者数が一気に増えた。
三百。
七百。
千。
二千。
信太「こんにちは。シンタです。今日は《雁坂深層洞》に来ています」
名無しの剣道民『待ってた!』
新人探索者好き『雁坂!?』
ダンジョン考察ニキ『そこB級だぞ!?』
名無しの剣道民『シンタCランクだろ?』
信太「今日は協会の調査に同行させてもらっています。俺一人じゃありません」
新人探索者好き『誰と?』
信太「紹介します」
ドローンの撮影範囲を少し広げる。
隣に立つ大柄な男が映った。
九条はカメラへ向かって軽く右手を上げた。
九条「どうも。《剛剣》九条蓮司です。今日はシンタと一緒に潜ります」
コメント欄が止まった。
ほんの一瞬だけ。
次の瞬間。
名無しの剣道民『は????』
新人探索者好き『九条!?!?』
ダンジョン考察ニキ『本物!?』
名無しの剣道民『Aランク連れてきたww』
新人探索者好き『新人配信者の四回目じゃねえだろこれ!』
信太「やっぱりこうなった」
九条「はははっ! 速すぎて読めねえ!」
同時視聴者数も跳ね上がる。
三千。
五千。
七千。
九条「お前、人気あるじゃないか」
信太「九条さんが映ったからですよ」
九条「それだけじゃねえだろ」
信太「そうですか?」
九条「まあいい。行くぞ」
信太「はい」
二人は雁坂深層洞へ足を踏み入れた。
◇ ◇ ◇
第一層。
岩盤に囲まれた洞窟内は、秩父第二鉱山ダンジョンよりも広かった。
天井も高い。
場所によっては大剣を振り回しても十分な空間がある。
九条「まずは普段通り動いてみろ」
信太「普段通り?」
九条「俺をAランクだと思わなくていい。危険があれば俺も動くが、基本的にはお前の判断を見たい」
信太「分かりました」
信太が前。
九条が少し後ろ。
探索を開始する。
信太は周囲を観察しながら歩いた。
壁。
足跡。
魔物の痕跡。
爪痕。
そして微かな臭い。
信太「右の通路、何かいますね」
九条「分かるか?」
信太「臭いと足跡があります」
九条「数は?」
信太は地面を見る。
信太「三……いや、四体」
九条「正解だ」
信太「分かってたんですか?」
九条「さっき通った調査班の情報にあった」
信太「試しました?」
九条「悪い悪い」
まったく悪びれていない。
右の通路へ進む。
やがて低い唸り声が聞こえてきた。
現れたのは四体の魔物。
体長一メートル半ほど。
黒い毛。
赤い瞳。
狼型の魔物。
C級上位からB級下位に分類される群れ型の魔物だ。
新人探索者好き『いきなりブラックファング!?』
ダンジョン考察ニキ『シンタ、こいつら連携するぞ』
信太「知ってます」
刀を抜く。
九条はまだ大剣へ触れていない。
九条「やってみろ」
信太「四体ともですか?」
九条「無理そうなら言え」
信太「分かりました」
ブラックファングが散開した。
正面に二体。
左右に一体ずつ。
信太「なるほど」
囲むつもりだ。
一体ずつ相手をしていては背後を取られる。
なら。
信太は自分から動いた。
右側へ走る。
ブラックファングたちも反応する。
信太が壁際へ寄ったことで、包囲の角度が狭まった。
九条「ほう」
正面から一体が飛びかかる。
信太は半歩ずれる。
抜刀。
一閃。
首元を斬る。
しかし、次の一体がすぐに来る。
信太「っ!」
刀を戻す時間はない。
柄頭を左手で押す。
切っ先の向きを変える。
右片手。
水平。
信太「右片手平突き――壱式」
突き。
ブラックファングの胸へ刀が入った。
二体目。
左から三体目。
信太は刀を引き抜きながら身体を回転させる。
刃を横へ流す。
斬撃。
三体目の前脚を斬る。
体勢が崩れた。
そこへ踏み込み、首元へ追撃。
三体目が消滅する。
残る一体。
だが最後のブラックファングは、信太ではなく別の方向へ走った。
九条「俺か」
九条へ飛びかかる。
九条は大剣を抜いた。
ただ一度。
横薙ぎ。
ドンッ!
空気そのものが破裂したような音が響いた。
ブラックファングが吹き飛ぶ。
岩壁へ叩きつけられ、そのまま魔石へ変わった。
信太「……すご」
思わず声が漏れた。
九条「何が?」
信太「いや、今の」
九条「普通に斬っただけだぞ」
信太「普通じゃないですよ」
九条「お前にだけは言われたくねえな」
コメント欄が一気に流れた。
名無しの剣道民『草』
新人探索者好き『九条さん正論』
ダンジョン考察ニキ『シンタが初めて普通じゃない側を見た』
信太「いや、だって明らかに威力おかしいですよね?」
九条「俺は大剣と全身強化が専門だからな。お前とは方向性が違う」
信太「全身強化……」
九条「見たいか?」
信太「見たいです」
九条「後でな」
その会話に、コメント欄が盛り上がる。
九条は倒した魔物の魔石を拾いながら、信太を見る。
九条「それより今の戦い」
信太「何かまずかったですか?」
九条「いや。壁を使って包囲を潰したのはいい判断だ」
信太「囲まれたくなかったので」
九条「それをすぐ判断できるなら十分だ。ただ」
九条は一度言葉を切った。
九条「三体目、少し強引だったな」
信太「……やっぱりですか」
九条「気づいてたか」
信太「前脚を斬った後、一歩入りすぎました」
九条「そうだ。あれがブラックファングじゃなく、死に際に反撃するタイプなら傷をもらってた」
信太「なるほど」
信太は素直に頷いた。
自分より経験のある探索者から実戦の動きを指摘される機会は、これまでほとんどなかった。
信太「勉強になります」
九条「その反応はいいな」
信太「そうですか?」
九条「強くなった奴ほど、指摘されるのを嫌がることがある」
九条は歩き始める。
九条「でもダンジョンじゃ、プライドは命を守ってくれない」
信太「覚えておきます」
◇ ◇ ◇
同じ頃。
市河家。
莉奈は自室のベッドの上で固まっていた。
スマートフォンには《シンタ》の配信が映っている。
莉奈「……配信、始まった」
予想通りだった。
今日、兄は早朝から山へ出かけた。
そして同じ日にシンタが配信を開始した。
それだけではない。
莉奈「雁坂深層洞……」
埼玉県と山梨県の県境付近。
兄は朝、「ちょっと遠い」と言っていた。
莉奈「偶然……?」
さすがに三度目となると苦しい。
莉奈はスマートフォンを持ってリビングへ走った。
莉奈「お母さん!」
美咲「始まった?」
莉奈「なんで分かったの!?」
美咲はソファでタブレットを操作していた。
美咲「あなたが走ってきたから」
莉奈「シンタの配信! 今日も始まった!」
美咲「そう」
莉奈「しかもB級ダンジョン!」
美咲「見せて」
莉奈がスマートフォンを差し出す。
ちょうど信太がブラックファングと戦っているところだった。
美咲は無言で映像を見る。
構え。
足運び。
右片手での突き。
戦闘後、九条から指摘を受けて頷く仕草。
莉奈「……やっぱり似てるよね?」
美咲「ええ」
莉奈「声も似てる」
美咲「そうね」
莉奈「名前もシンタ」
美咲「そうね」
莉奈「お兄ちゃんが出かける日に配信してる」
美咲「三回続けてね」
莉奈「……お母さん」
美咲「何?」
莉奈「もう分かってるでしょ?」
美咲はすぐには答えなかった。
画面の中で、信太が九条と会話している。
楽しそうだった。
怖がっているようには見えない。
だが、そこはB級ダンジョンだ。
一歩間違えれば命に関わる場所。
美咲「……ほとんどね」
莉奈「じゃあ!」
美咲「でも、まだ本人には聞かないわ」
莉奈「なんで?」
美咲「信太がどうして隠してるのか分からないから」
莉奈「お父さんじゃない?」
美咲「たぶんね」
二人の視線が、リビングに置かれた隆一の新聞へ向く。
隆一は今日は用事で外出していた。
莉奈「お父さん、絶対怒るよね」
美咲「怒るでしょうね」
莉奈「どうするの?」
美咲「だから、もう少し見ましょう」
美咲は画面へ視線を戻した。
美咲「ただし」
莉奈「うん?」
美咲「本当に危険なことをしているなら、話は別よ」
母親の目だった。
投資家として冷静に情報を集める顔ではない。
自分の息子が危険な場所へ入っていると知った母親の顔。
莉奈もそれ以上は何も言わなかった。
◇ ◇ ◇
雁坂深層洞第二層。
探索開始から一時間半。
信太と九条は、協会から指定された調査経路を進んでいた。
ここまではブラックファング、ケイブリザード、アーマードゴブリンなどと遭遇した。
いずれもB級ダンジョンとしては珍しくない魔物だ。
信太「今のところ普通ですね」
九条「ああ」
信太「異常があるようには見えません」
九条「だから厄介なんだ」
九条は壁に残された傷跡を見る。
九条「ずっと異常なら原因を探しやすい。でも報告が出たり消えたりしてる」
信太「魔物が移動してる?」
九条「可能性はある」
さらに進む。
やがて大きな分岐へ出た。
右。
左。
そして中央。
協会の調査経路は中央だ。
信太が一歩進みかけた時だった。
信太「……待ってください」
九条「どうした?」
信太が止まる。
耳を澄ませた。
何も聞こえない。
だが。
信太「静かすぎませんか?」
九条の表情が変わった。
九条「続けろ」
信太「ここへ来るまで、虫みたいな小さい魔物の音がずっとしてましたよね」
九条「ああ」
信太「今、何も聞こえません」
コメント欄の流れも少し遅くなる。
ダンジョン考察ニキ『確かに』
名無しの剣道民『さっきまで鳴き声あったな』
新人探索者好き『嫌な予感する』
九条が大剣の柄へ手を置いた。
九条「シンタ」
信太「はい」
九条「ここから先、配信より周囲を優先しろ」
信太「分かりました」
九条「ドローンはそのままでいい。何かあれば記録にもなる」
二人の空気が変わる。
信太も刀の柄へ手をかけた。
一歩。
また一歩。
中央の通路へ入る。
十メートル。
二十メートル。
何もいない。
魔物の姿が一切ない。
やがて信太が立ち止まった。
信太「九条さん」
九条「ああ」
二人とも気づいた。
地面。
そこに巨大な足跡が残っている。
信太の靴など簡単に収まってしまうほど大きい。
九条がしゃがみ込む。
足跡へ触れる。
九条「新しい」
信太「どれくらいですか?」
九条「断定はできないが、今日だ」
信太「このダンジョンにいる魔物ですか?」
九条「いや」
九条は立ち上がった。
その顔から先ほどまでの余裕が消えている。
九条「少なくとも、第二層で確認されてる魔物じゃない」
信太「……上位個体?」
九条「分からん」
その時。
奥から音がした。
ズン。
信太と九条が同時に顔を上げる。
ズン。
地面がわずかに震えた。
ズン。
何かが歩いている。
それも巨大な何かが。
コメント欄から冗談めいた書き込みが消えていく。
九条「下がれ」
信太は素直に二歩下がった。
九条が前へ出る。
大剣を抜く。
信太も刀を抜いた。
暗い通路の奥。
そこに二つの赤い光が浮かんだ。
目だ。
ズン。
巨大な影が少しずつ近づいてくる。
信太「……でかい」
九条「シンタ」
信太「はい」
九条「今から俺が前に出る。お前は無理に攻撃するな」
信太「分かりました」
九条「それと」
九条は大剣を構えた。
九条「俺が逃げろと言ったら、振り返らず走れ」
信太「……そんなにですか?」
九条「ああ」
暗闇から、巨大な腕が現れる。
黒い皮膚。
岩のように盛り上がった筋肉。
続いて頭部。
額から伸びる一本の角。
九条の表情が険しくなった。
九条「……なんでこいつが第二層にいる」
信太「知ってる魔物ですか?」
九条「ああ」
九条は短く答えた。
九条「《ブラックオーガ・ジェネラル》」
信太「ジェネラル……」
九条「B級深層――場合によってはA級でも確認される個体だ」
信太「…………」
明らかに、ここへいるはずのない魔物。
ブラックオーガ・ジェネラルが完全に姿を現した。
身長は三メートルを超える。
手には巨大な戦斧。
身体には傷だらけの金属鎧。
そして、その赤い目が二人を捉える。
ブラックオーガ・ジェネラル「グオオオオオオオオオオッ!」
咆哮。
洞窟全体が震えた。
ドローンの映像まで激しく揺れる。
信太は刀を握り直した。
初めてだった。
目の前の魔物を見ただけで、身体が明確に危険を訴えている。
信太「……なるほど」
九条「何がだ?」
信太「B級って、こういう感じなんですね」
九条「いや」
九条は即座に否定した。
九条「こいつはここにいていい奴じゃねえ」
次の瞬間。
ブラックオーガ・ジェネラルが地面を蹴った。
巨体からは想像できない速度。
九条「来るぞ!」
信太「はい!」
Aランク探索者《剛剣》九条蓮司と、Cランク探索者。
二人にとって最初の合同探索は、予定されていた調査の範囲を大きく外れ始めていた。
そして信太はこの戦いで初めて、自分より遥かに経験を積んだAランク探索者が本気で戦う姿を見ることになる。




