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家族に内緒でダンジョンに潜っていたら、いつの間にかCランク探索者になっていた件  作者: バモス
第一章 家族に内緒のダンジョン配信

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第6話 Aランク探索者が《シンタ》を見つけた日

 チャンネル登録者が一万人を突破した翌日。


 市河信太は大学の講義を受けながら、珍しく少しだけ眠気と戦っていた。


 原因は分かっている。


 昨夜、次の配信先を決めるために探索者協会のダンジョン情報を眺め続けていたからだ。


 埼玉県内だけでも、探索者協会によって管理されているダンジョンは複数存在する。その中から配信に向いていて、自分のランクでも問題なく探索できる場所を選ぼうとしていたら、いつの間にか日付が変わっていた。


 信太「……眠い」


 小さく呟きながらノートへ講義内容を書き込む。


 探索中なら、この程度の眠気は身体強化で無理やり誤魔化すこともできる。しかし大学の講義中に魔法を使う理由などない。


 何より、そんな使い方をしていたら身体が休まらない。


 やがて講義終了を知らせるチャイムが鳴った。


 教授が教室を出た瞬間、隣に座っていた神谷悠斗が勢いよく振り向いた。


 悠斗「信太!」


 信太「今度は何だよ」


 悠斗「《シンタ》、一万人突破したぞ!」


 信太「……知ってる」


 悠斗「え?」


 信太「昨日言ってただろ。気になって見たんだよ」


 危ない。


 昨日、自分のスマートフォンへ直接届いた通知で知ったなどとは口が裂けても言えない。


 悠斗「お前もついにシンタにハマってきたな?」


 信太「そこまでじゃない」


 悠斗「素直じゃねえなあ」


 信太「はいはい」


 悠斗は自分のスマートフォンを取り出した。


 また動画でも見せられるのかと思ったが、今回は違った。


 悠斗「それより、これ見ろ」


 信太「何?」


 画面にはSNSが表示されていた。


 そこには見覚えのある《右片手平突き・四式》の切り抜き動画が貼られている。


 問題は、その動画を共有した人物だった。


 信太「……九条蓮司?」


 悠斗「そう!」


 その名前なら信太も知っている。


 日本で活動するAランク探索者の一人。


 《剛剣》の異名を持つ大剣使い、九条蓮司。


 二十九歳。


 国内でも特に知名度の高い探索者で、B級ダンジョンを中心に攻略し、過去にはA級ダンジョンの大規模攻略にも参加している。


 テレビやネット番組にも出演しているため、探索者に興味のない人間でも名前くらいは聞いたことがあるほどだ。


 悠斗「九条がシンタの動画に反応したんだよ!」


 信太「へえ……」


 悠斗「へえ、じゃねえよ! Aランクだぞ!?」


 信太「知ってる」


 悠斗「これ読んでみろ」


 信太は投稿された文章を見る。


『面白い剣士が出てきたな。身体強化より、強化前の身体の使い方が上手い。特に踏み込みと重心移動。魔力に振り回されず、自分の技術へ魔法を組み込んでる。直接見てみたい』


 信太「…………」


 悠斗「ヤバいだろ?」


 信太「そんなところまで分かるんだな」


 悠斗「見るところそこ?」


 信太としては、そちらの方が気になった。


 四式の速さでも、一撃でオーク・ウォリアーを倒したことでもない。


 その前段階。


 身体強化を使う前の身体操作そのものを指摘されている。


 信太「やっぱりAランクってすごいんだな」


 悠斗「いや、今はシンタがAランクに注目された話をしてるんだけど」


 信太「そうだった」


 悠斗「絶対そのうちコラボとかするぞ」


 信太「さすがにないだろ」


 悠斗「なんで?」


 信太「向こうはAランクだろ。こっちはCランクだぞ」


 悠斗「こっち?」


 信太「……シンタは、って意味」


 悠斗「お前、本当に最近シンタ側の目線で喋るよな」


 信太「気のせいだ」


 信太は前を向いた。


 危ない。


 親友相手だと、つい気が緩む。


 だが九条蓮司に動画を見られているという事実は、信太にも少しだけ驚きだった。


     ◇ ◇ ◇


 同じ頃。


 東京都内にある探索者向け大型訓練施設。


 重量級の大剣が空気を切り裂いた。


 九条蓮司「ふっ!」


 轟音。


 巨大な訓練用標的へ大剣が叩き込まれる。


 魔力耐性を持つ特殊素材で作られた標的が大きく揺れた。


 九条は大剣を肩へ担ぐと、額の汗を拭う。


 身長は百八十センチを大きく超え、鍛え上げられた体格は一般人とは明らかに違う。


 だが、その動きには体格から想像するような鈍重さがなかった。


 職員「九条さん、休憩されますか?」


 九条「そうする。ありがとう」


 大剣を専用ラックへ戻し、ベンチへ腰を下ろす。


 水分補給をしながらスマートフォンを手に取った。


 表示したのは、昨夜見つけた動画だ。


 新人配信者《シンタ》。


 登録者は一万人を超えたばかり。


 探索者ランクはC。


 動画を再生する。


 オーク・ウォリアーが巨大な斧を振り下ろす。


 シンタは刀で受け止めない。


 刃を斜めに当て、軌道を逸らしている。


 九条「やっぱり上手いな」


 単純な腕力勝負を避けている。


 体格差。


 武器重量。


 相手の攻撃方向。


 それらを一瞬で判断し、自分に有利な形へ持ち込んでいる。


 続いて《右片手平突き・四式》。


 シンタの身体が沈む。


 踏み込み。


 突進。


 刺突。


 オーク・ウォリアーの胸を貫く。


 九条「速い」


 確かに速い。


 だが九条が見ているのは結果ではない。


 シンタの右脚。


 腰。


 肩。


 そして右腕。


 九条「魔力の移動まで動作に合わせてるのか?」


 動画では魔力そのものを完全に見ることはできない。


 しかし身体強化によって生じる微細な変化は確認できる。


 九条「全身を強化して押し切ってるんじゃない。必要な瞬間だけ出力を上げてる……」


 職員「その動画、昨日から話題の人ですか?」


 九条「ああ」


 職員「Cランクらしいですね」


 九条「らしいな」


 職員「九条さんから見て、どうです?」


 九条は少し考えた。


 九条「強いよ」


 職員「やっぱり?」


 九条「ただ、完成してるわけじゃない」


 職員「というと?」


 九条「技術は高い。でも経験はまだそこまで多くないと思う。動きが綺麗すぎるんだ」


 職員「綺麗すぎる?」


 九条「長く高難度ダンジョンへ潜ってると、もっと嫌な戦い方も覚える。地形を使ったり、魔物同士をぶつけたり、逃げるふりをしたりな」


 職員「なるほど」


 九条「こいつは正面から技術で解決できてしまってる」


 もう一度、動画を見る。


 九条「それでCランクなんだろうな」


 職員「Bランクには?」


 九条「時間の問題じゃないか?」


 九条は笑った。


 九条「本人にその気があれば、だけどな」


     ◇ ◇ ◇


 大学の昼休み。


 信太は香澄とキャンパス内のベンチに座っていた。


 昨日教えた身体操作について、香澄から質問があると言われたためだ。


 香澄「先輩、昨日言われた脱力を練習してみたんですけど」


 信太「どうだった?」


 香澄「難しいです」


 信太「最初はそんなもんだよ」


 香澄「力を抜こうとすると、本当に全部抜けちゃうんですよ」


 信太「抜くこと自体を意識しすぎてるんだと思う」


 香澄「じゃあ、どうすれば?」


 信太「構えた状態で自然に呼吸してみるといい。息を止めると身体が固まりやすいから」


 香澄「呼吸……」


 信太「あと、肩を下げようとしなくていい。肩が上がってるって気づいたら、一回息を吐くくらいで」


 香澄「やってみます」


 香澄はスマートフォンへメモする。


 その真剣な様子を見て、信太は少し感心した。


 教えたことをその日のうちに練習し、分からなかったところを翌日に質問する。


 探索者として強くなりたいという気持ちは本物らしい。


 香澄「そういえば先輩」


 信太「ん?」


 香澄「九条蓮司さんに見つかりましたね」


 信太「水城さんも見た?」


 香澄「見ましたよ。探索者界隈だと結構話題です」


 信太「そんなに?」


 香澄「Aランク探索者が新人配信者へ直接反応したんですよ?」


 信太「別に直接話したわけじゃないけど」


 香澄「それでもです」


 信太「まあ、悪く言われてないならいいかな」


 香澄「それだけですか?」


 信太「それ以外に何かある?」


 香澄はため息をついた。


 香澄「先輩らしいです」


 信太「どういう意味?」


 香澄「そのままの意味です」


 香澄は笑う。


 信太は納得できなかったが、追及はしなかった。


 香澄「次の配信、どこに行くか決めました?」


 信太「候補はある」


 香澄「どこですか?」


 信太「《秩父第二鉱山ダンジョン》」


 香澄「……あそこですか」


 秩父第二鉱山ダンジョン。


 公式難易度C級。


 坑道型のダンジョンで、鉱石系素材が多く採取できることで知られている。


 ただし通路が狭く、魔物との遭遇時に距離を取りにくい。


 そのため、同じC級でも森林型とは違った難しさがある。


 香澄「ソロで行くんですか?」


 信太「そのつもり」


 香澄「大丈夫だとは思いますけど……気をつけてくださいね」


 信太「心配してくれるの?」


 香澄「しますよ」


 あまりに即答だったので、今度は信太の方が少し驚いた。


 香澄「先輩、自分なら大丈夫って思って無茶しそうですから」


 信太「そんなことしないよ」


 香澄「武甲森林ダンジョンでオーク・ウォリアーへ突っ込んだ人が言っても説得力ないです」


 信太「あれは水城さんが危なかったからだろ」


 香澄「…………」


 香澄が黙った。


 信太「どうした?」


 香澄「何でもありません」


 少しだけ頬を赤くして、香澄は顔を逸らした。


 信太は理由が分からず首を傾げた。


     ◇ ◇ ◇


 二日後。


 午前十時。


 《秩父第二鉱山ダンジョン》。


 信太は管理施設で受付を済ませ、坑道の入口へ立っていた。


 探索用ドローンを起動する。


 配信画面を開く。


 今日で三回目。


 タイトルは簡単にした。


《第3回 C級・秩父第二鉱山ダンジョン探索》


 信太「よし」


 配信開始。


 数秒後。


 視聴者数が一気に増える。


 二百。


 五百。


 八百。


 そして一分も経たないうちに千人を突破した。


 信太「こんにちは。シンタです。今日は秩父第二鉱山ダンジョンを探索します」


 名無しの剣道民『待ってた!』


 ダンジョン考察ニキ『三回目きた』


 新人探索者好き『一万人おめでとう!』


 信太「あ、ありがとうございます。気づいたら一万人超えてました」


 名無しの剣道民『気づいたらで超える数字じゃない』


 新人探索者好き『九条さんに見られてるぞ』


 コメント欄へ九条蓮司の名前が流れ始める。


 信太「見ましたよ。ありがたいですね」


 ダンジョン考察ニキ『反応軽くて草』


 信太「だって、まだ会ったこともないですし」


 そう言いながら歩き始める。


 今日の目的は素材採取とダンジョン探索。


 鉱山型なので、珍しい鉱石があれば持ち帰るつもりだった。


 しばらく進む。


 坑道は薄暗い。


 壁に設置された魔石灯と、信太が持つライトだけが周囲を照らしている。


 その時。


 カツン。


 奥から音が響いた。


 信太が足を止める。


 カツン。


 カツン。


 何か硬いものが地面へ当たる音。


 ダンジョン考察ニキ『何の音?』


 新人探索者好き『魔物?』


 信太「たぶん」


 刀へ手をかける。


 暗闇から姿を現したのは、人型の魔物だった。


 身長は二メートルほど。


 岩のような皮膚。


 右手には石製の棍棒。


 信太「ロックオーガか」


 C級ダンジョンで確認されることのある、オークよりも防御力に優れた魔物だ。


 ロックオーガ「グオオオオッ!」


 狭い坑道に咆哮が響く。


 信太「ここじゃ四式は使いにくいな」


 名無しの剣道民『じゃあ壱式?』


 新人探索者好き『もしかして新技?』


 信太は刀を抜いた。


 正面から斬っても、硬い表皮に刃を止められる可能性がある。


 ならば。


 信太「ちょうどいいか」


 刀を構える。


 だが、いつもの水平構えではない。


 切っ先を斜め下へ向けた。


 名無しの剣道民『構え違う』


 ダンジョン考察ニキ『これ何する気だ?』


 信太「前に四式を見せたので、今日は別のを使ってみます」


 ロックオーガが棍棒を振り上げた。


 信太は視線を上へ向ける。


 天井までの高さを確認。


 十分。


 脚へ魔力を集中させる。


 信太「――右片手平突き」


 地面を蹴る。


 ロックオーガの棍棒が振り下ろされる直前、信太の身体が跳ね上がった。


 高く。


 相手の視線より上へ。


 そして空中で身体をひねる。


 刀の切っ先が、斜め下へ向いた。


 信太「――弐式」


 落下。


 身体強化と自重を乗せた刺突が、ロックオーガの肩口から斜めに突き込まれる。


 硬い表皮。


 抵抗。


 その瞬間、信太は刃筋をわずかに修正した。


 力を一点へ集める。


 信太「――斬鉄」


 刀が硬い表皮を突破した。


 切っ先が胸部まで深く突き刺さる。


 ロックオーガ「グ……オ……!」


 巨体が膝をついた。


 信太は刀を引き抜きながら着地する。


 数秒後、ロックオーガは魔石を残して消滅した。


 信太「よし」


 コメント欄が一瞬止まる。


 そして。


 名無しの剣道民『待って』


 新人探索者好き『弐式!?』


 ダンジョン考察ニキ『今さらっと斬鉄って言わなかった?』


 名無しの剣道民『硬いロックオーガの皮膚貫いたぞ』


 新人探索者好き『四式だけじゃなかったのかよ!』


 信太「弐式もありますよ」


 名無しの剣道民『参式は?』


 信太「あります」


 新人探索者好き『あるのかよ!』


 信太「別に隠してないですけど」


 コメント欄がさらに加速する。


 そして、その配信をリアルタイムで見ている人物がいた。


 東京都内。


 九条蓮司は訓練施設の休憩室でスマートフォンを見つめていた。


 映像を少し戻す。


 信太が跳躍。


 落下。


 刺突。


 そして最後の瞬間。


 九条「……斬鉄」


 単純に力任せで硬い表皮を破ったわけではない。


 刃筋。


 重心。


 落下エネルギー。


 身体強化。


 それらを一点へ集中させている。


 九条は口元を上げた。


 九条「やっぱり面白いな、こいつ」


 そしてスマートフォンを操作する。


 《シンタのダンジョン探索》のチャンネルページ。


 そこに表示された連絡用アカウントへ移動する。


 九条「一度、直接話してみるか」


 数分後。


 ダンジョンの奥へ進んでいた信太のスマートフォンへ、一件の通知が届いた。


 もちろん探索中の信太は気づかない。


 送信者――《九条蓮司》。


『初めまして。Aランク探索者の九条蓮司です。突然で悪い。あなたの戦い方に興味があります。もしよければ、一度会って話をしませんか?』


 無名のCランク探索者として始まった信太の配信活動は、わずか三回目にして大きく動き始めていた。

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