第32話 双剣と日本刀、初めての連携戦闘!
《秩父西部渓谷ダンジョン》第一階層。
薄暗い森林地帯の中で、市河信太と神崎レイナは三体のブラックウルフと向かい合っていた。
黒い毛並みに覆われた狼型モンスターは、低い唸り声を上げながら二人を取り囲もうとしている。通常の狼より一回り大きく、鋭い牙と爪を持つ厄介な相手だ。
信太は刀を抜き、落ち着いた声でレイナに伝えた。
「レイナさん、俺が正面の一体を引きつけます。左右の二体をお願いします」
レイナは双剣を構え、笑顔で頷いた。
「了解です! 右側から回り込みますね!」
その瞬間、正面のブラックウルフが地面を蹴った。
鋭い牙を剥き出しにし、信太の喉元を狙って飛びかかってくる。
しかし、信太は慌てなかった。
左足をわずかに引き、身体を半身にする。それだけで突進の軌道から外れると、右手に持った刀を滑らかに突き出した。
「右片手平突き・壱式」
鋭い突きがブラックウルフの急所を正確に捉えた。
モンスターは短い悲鳴を上げ、そのまま地面へ崩れ落ちる。
一方、レイナもすでに動いていた。
右側のブラックウルフが飛びかかるより早く、彼女は地面を蹴って側面へ回り込む。
「まずは一体!」
レイナの左手の剣が敵の爪を受け流し、続く右手の剣が首元を斬り裂いた。
そのまま身体を回転させ、背後から迫っていた三体目の攻撃をかわす。
さらに、左右の剣を交差させるように振り抜いた。
二本の刃が閃き、最後のブラックウルフも地面へ倒れた。
戦闘開始から、わずか十秒ほど。
三体のブラックウルフは、ほとんど抵抗する間もなく討伐された。
レイナは双剣を下ろし、信太へ笑顔を向けた。
「シンタさん、いい感じですね!」
信太も刀を下ろして頷いた。
「そうですね。思ったより動きやすかったです」
レイナは嬉しそうに笑った。
「私もです! シンタさんが正面を押さえてくれるので、安心して側面へ回れました!」
その間にも、配信用ドローンが二人の戦闘を撮影していた。
コメント欄には、驚きの声が次々と流れている。
『速すぎて何が起きたか分からん!』
『シンタさんの突き、相変わらずおかしい』
『レイナさんの双剣も美しい!』
『十秒で三体討伐とか、さすがAランクとBランク』
『これが本物の連携か!』
信太はコメントを確認し、少し苦笑した。
「皆さん、ありがとうございます。でも、まだ第一階層ですからね」
レイナは楽しそうに笑った。
「シンタさん、相変わらず落ち着いてますね!」
◇ ◇ ◇
戦闘後、二人は周囲の安全を確認してから、ブラックウルフの素材を回収した。
信太が魔石を取り出していると、レイナが興味深そうに話しかけてきた。
「シンタさん、さっきの突きですけど、ほとんど予備動作がありませんでしたよね?」
信太は頷いた。
「はい。できるだけ身体の動きを小さくしています」
レイナは感心したように息を吐いた。
「やっぱりすごいですね。私も攻撃の起こりを小さくするように意識してますけど、あそこまで自然にはできません」
「レイナさんの切り返しも、かなり速かったですよ」
信太がそう答えると、レイナは嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます!」
二人は互いの戦闘技術について軽く意見を交わしながら、探索を再開した。
第一階層は比較的見通しのよい森林地帯が続いている。
木々の間には細い獣道のような通路があり、ところどころに岩場や小さな沢が存在していた。
信太は周囲の気配を探りながら歩いていたが、ふと足を止めた。
「……レイナさん、少し待ってください」
レイナはすぐに表情を引き締めた。
「何かありました?」
信太は前方の地面へ視線を向けた。
そこには、比較的新しい足跡が残されていた。
大きさから考えると、ブラックウルフのものではない。
信太はしゃがみ込み、足跡を確認した。
「アーマーオークの足跡ですね」
レイナも隣にしゃがみ、地面を覗き込んだ。
「本当ですね。でも、この辺りに出るのは少し珍しいかも」
信太は頷いた。
「第一階層にも出現記録はありますけど、通常は第二階層以降が多いみたいです」
レイナは周囲を見回した。
「念のため、警戒して進みましょうか」
「そうですね」
二人は足跡の方向を確認しながら、慎重に歩き始めた。
◇ ◇ ◇
それから十分ほど進んだところで、信太は再び足を止めた。
前方の岩場から、低い唸り声が聞こえてきたのだ。
レイナもすぐに気づき、双剣へ手を伸ばした。
「……いますね」
信太は静かに頷いた。
「二体です。少し大きいですね」
岩陰から姿を現したのは、灰色の皮膚を持つ豚頭のモンスターだった。
アーマーオーク。
通常のオークよりも筋肉が発達しており、身体の一部を硬い外皮が覆っている。
二体とも手には粗末な棍棒を持っていた。
レイナは少しだけ笑みを浮かべた。
「今度は二人で一体ずつ、どうですか?」
信太は頷いた。
「いいですね。ただ、周囲に他の個体がいないか確認してからにしましょう」
二人は周囲の気配を探った。
近くに別のモンスターはいないようだった。
信太は刀を構えた。
「じゃあ、俺が右を担当します」
「了解です! 私は左ですね!」
二人が動き出すと、アーマーオークたちも棍棒を振り上げた。
右側の一体が信太へ向かって突進してくる。
信太は相手の動きを見極めながら、わずかに身体を沈めた。
棍棒が振り下ろされる。
しかし、その一撃が地面へ届くより早く、信太は横へ踏み込んでいた。
刀を斜めに構え、相手の腕の動きに合わせて刃を走らせる。
「右片手平突き・弐式」
上方から斜め下へ放たれた鋭い突きが、アーマーオークの肩口を貫いた。
硬い外皮を突破されたモンスターは、苦痛の声を上げて体勢を崩す。
信太はすぐに刀を引き、続けて急所へ一撃を加えた。
アーマーオークはその場に倒れ込んだ。
一方、レイナも華麗な動きで戦っていた。
左手の剣で棍棒を受け流し、右手の剣で相手の腕を斬りつける。
続いて、相手の側面へ回り込みながら連続攻撃を繰り出した。
「これで終わりです!」
最後の一撃が急所を捉え、アーマーオークは地面へ崩れ落ちた。
戦闘が終わると、レイナは信太へ笑顔を向けた。
「シンタさん、今のは弐式ですよね?」
信太は少し驚いた。
「よく分かりましたね」
レイナは嬉しそうに頷いた。
「もちろんです! 動画で何度も見てますから!」
その言葉に、信太は苦笑した。
どうやら、レイナは本当に自分の動画を研究しているらしい。
◇ ◇ ◇
同じ頃、市河家のリビングでは、美咲と莉奈が配信を見守っていた。
莉奈はテレビの前で興奮した声を上げた。
「お母さん! 今の弐式、すごかったね!」
美咲は少し心配そうな表情を浮かべながらも頷いた。
「そうね。でも、怪我をしないか心配だわ」
莉奈は笑顔で答えた。
「大丈夫だよ! お兄ちゃん、すごく強いもん!」
美咲は苦笑した。
「強いからって、危険がないわけじゃないのよ」
その言葉に、莉奈も少しだけ真面目な表情になった。
「……うん。そうだね」
二人は再びテレビへ視線を向けた。
画面の中では、信太とレイナが素材を回収しながら、楽しそうに会話していた。
◇ ◇ ◇
第一階層の探索を終えた二人は、第二階層へ続く階段の前に到着した。
レイナはスマートフォンで時間を確認した。
「シンタさん、そろそろ第二階層ですね」
信太は頷いた。
「そうですね。ここまで大きな問題はありませんでした」
レイナは少しだけ真剣な表情になった。
「第二階層からはアーマーオークの出現数も増えます。連携を意識していきましょう」
「はい。無理せず進みましょう」
二人は階段を下り始めた。
その先には、第一階層とは異なる岩場の多い地形が広がっている。
信太は周囲の気配を探りながら、静かに刀の柄へ手を添えた。
そして、第二階層へ足を踏み入れた瞬間、遠くから重い足音が聞こえてきた。
レイナもその音に気づき、表情を引き締める。
「……シンタさん、何かいますね」
信太は静かに頷いた。
「ええ。しかも、一体じゃなさそうです」
二人は互いに視線を交わし、慎重に前へ進み始めた。
Aランク探索者とBランク探索者による合同探索は、まだ始まったばかりだった。




