第27話 東草原の討伐隊出発と、西街道の護衛依頼
翌日、俺――《ミナト》がゲームにログインすると、宿屋の一階はいつもより賑やかだった。
冒険者たちの話題は、今日出発する東草原のゴブリン討伐隊についてだった。昨日、冒険者ギルドから発表された緊急討伐依頼には、多くの高レベルプレイヤーが参加するらしい。
俺たちも興味はあったが、参加条件はLv5以上。現在Lv3の俺、シルフィー、ユウキには参加資格がなかった。
「おはようございます、隼人」
階段を降りると、先にログインしていたシルフィーが微笑んだ。隣ではユウキが朝食のパンを食べている。
「おはよう、二人とも。今日は討伐隊が出発する日だな」
「うん! 東門から出るんだって。ちょっと見に行かない?」
ユウキの提案に、俺は頷いた。
「そうだな。出発まで少し時間があるなら、見送ってから依頼を探そう」
朝食を済ませた俺たちは、東門へ向かった。
門の前にはすでに大勢の冒険者が集まっていた。鎧を身につけた戦士や剣士、杖を持つ魔法使い、回復役の僧侶など、さまざまな職業のプレイヤーが整列している。
その先頭には、冒険者ギルドのギルドマスター、ジェイドが立っていた。
「今回の討伐対象は、東草原に集結したゴブリンの群れだ! 確認されているだけでも三十匹以上、さらにLv4のゴブリンソルジャーが複数、指揮個体と思われるLv7のホブゴブリンも存在する!」
ジェイドの声が響くと、周囲の冒険者たちが真剣な表情になった。
「単独行動は禁止だ! 前衛は後衛を守り、魔法使いと僧侶は連携を徹底しろ! 無理に功績を狙う必要はない。全員で生きて帰ってこい!」
その言葉に、討伐隊のプレイヤーたちが力強く返事をした。
俺は整列している冒険者たちを見ながら、思わず感心した。
「なかなかいい編成だな」
シルフィーも頷いた。
「はい。前衛と後衛の配置も考えられていますね。指揮を執る方も経験がありそうです」
「二人とも、やっぱり見るところが違うね……」
ユウキが苦笑する。
「俺たちも、いつかああいう大規模な討伐に参加することがあるかもしれないからな」
そう答えると、ユウキは少し嬉しそうに笑った。
やがて東門が開かれ、討伐隊が出発した。
大勢のプレイヤーが街道を進んでいく姿を見送りながら、俺たちは冒険者ギルドへ向かった。
ギルドの掲示板には、今日もさまざまな依頼が並んでいた。
薬草採取、魔物討伐、荷物運搬、商人の護衛。どれも冒険者らしい仕事だ。
「今日はどうする?」
ユウキが尋ねてきた。
「そうだな。討伐隊が東へ向かったから、俺たちは別の方向で依頼を受けようか」
俺が掲示板を眺めていると、一枚の依頼書が目に留まった。
『西街道・農場間の荷馬車護衛』
依頼主は商人のバルク。始まりの街から西側の農場へ向かい、農作物を積み込んで戻るまでの護衛依頼だった。
推奨レベルはLv3以上。報酬も悪くない。
「これなんかどうだ?」
俺が依頼書を見せると、ユウキが興味深そうに覗き込んだ。
「荷馬車の護衛? 面白そう!」
シルフィーも内容を確認する。
「護衛依頼でしたら、周囲の警戒も重要ですね。私たちの訓練にもなりそうです」
「よし、これにしよう」
俺たちは受付へ向かい、リーナに依頼書を差し出した。
「西街道の護衛依頼ですね。こちらは商人のバルクさんからの依頼になります」
リーナは手続きを進めながら説明してくれた。
「最近、西街道ではホーンラットの出現が増えています。荷馬車の積み荷を狙うこともあるので、ご注意ください」
「分かった。慎重に行くよ」
依頼を受注した俺たちは、西門近くの集合場所へ向かった。
そこには一台の荷馬車と、がっしりとした体格の中年男性が待っていた。
「おう! あんたたちが護衛を引き受けてくれた冒険者か?」
「そうだよ。俺がミナト。こっちはシルフィーとユウキだ」
「俺はバルクだ。今日はよろしく頼む!」
バルクは豪快に笑いながら握手を求めてきた。
俺も握手を返し、荷馬車の状態を確認する。
馬車には空の木箱がいくつも積まれており、帰りには農作物を積み込む予定らしい。
「農場まではどれくらいかかるんだ?」
「この馬車なら片道一時間ほどだな。途中に小さな林があるが、普段ならそれほど危険な道じゃない」
「なるほど。じゃあ、俺が前方を警戒する。シルフィーは馬車の右側、ユウキは左側を頼む」
二人は頷き、それぞれの位置についた。
バルクが手綱を握り、荷馬車がゆっくりと動き出す。
西門を抜けると、街道の両側には広い草原が広がっていた。
「こういう護衛依頼って、冒険してる感じがするね!」
ユウキが楽しそうに言う。
「ああ。異世界でもよく受けた仕事だよ」
俺が答えると、シルフィーが懐かしそうに微笑んだ。
「初めて二人で護衛依頼を受けた時のことを思い出しますね」
「あの時は大変だったな。途中で雨に降られて、馬車の車輪まで壊れたんだっけ」
「ふふっ。隼人が修理してくださったおかげで、無事に到着できましたけれど」
そんな昔話をしながら歩いていると、街道脇の草むらに不自然な跡があることに気づいた。
「……待ってくれ」
俺が足を止めると、バルクも馬車を止めた。
「どうした?」
「何かがここを通ったみたいだ」
俺はしゃがみ込み、地面に残された足跡を確認した。
小さな爪痕がいくつも続いている。形からしてホーンラットだろう。
「ホーンラットの足跡だな。それも一匹や二匹じゃない」
シルフィーも近づき、足跡を確認した。
「南西方向へ向かっていますね」
「ああ。最近、魔物が生息域を離れて移動しているって話があったけど、ここでも同じことが起きているのかもしれない」
バルクは少し不安そうな表情になった。
「最近、農場でもホーンラットを見かけることが増えているんだ。作物を荒らされて困ってるらしい」
「なるほど。それなら気をつけないとな」
俺たちは警戒を強めながら進んだ。
やがて、小さな林の近くへ差しかかった時だった。
草むらの奥から、ガサガサと音が聞こえてきた。
「ミナト!」
ユウキが声を上げる。
「ああ、分かってる」
俺は剣を抜き、荷馬車の前へ出た。
草むらから姿を現したのは、額に小さな角を持つネズミ型の魔物だった。
『《ホーンラット Lv3》』
一匹、二匹、三匹。
さらにもう一匹が姿を現す。
合計四匹。
「バルクさん、馬車を止めたままにしてくれ!」
「お、おう!」
俺は二人へ視線を向けた。
「シルフィー、ユウキ。馬車を守りながら戦うぞ!」
「はい、隼人!」
「うん、任せて!」
四匹のホーンラットが甲高い鳴き声を上げ、一斉にこちらへ向かってきた。
俺は《軽鉄の片手剣》を構え、静かに息を整える。
護衛依頼で最も大切なのは、魔物を倒すことではない。
依頼主と荷物を無事に目的地まで届けることだ。
その基本を忘れず、俺は最初の一匹へ向かって踏み込んだ。




