↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家族に内緒でダンジョンに潜っていたら、いつの間にかCランク探索者になっていた件  作者: バモス
第一章 家族に内緒のダンジョン配信

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/26

第25話 合同探索の準備と、Aランク探索者からの助言

土曜日の朝、俺は自室で探索用の装備を点検していた。


神崎レイナさんとの合同探索まで、あと八日。昨日の正式告知によって、俺の配信チャンネルの登録者数は五万人を突破した。


まさか、配信を始めてからこんな短期間で五万人もの人に見てもらえるようになるとは思っていなかった。


もっとも、登録者数が増えたからといって、俺のやることが変わるわけではない。ダンジョンでは安全を最優先に行動し、無理のない範囲で探索を続ける。それだけだ。


俺は机の上に置いた刀を手に取り、鞘からゆっくりと抜いた。


刃こぼれや歪みがないか確認し、柔らかい布で刀身を拭う。これまで何度もモンスターと戦ってきたが、幸い大きな損傷は見られなかった。


ただし、今回の探索先である《秩父西部渓谷ダンジョン》には、硬い外皮を持つロックリザードが出現するという。


俺の《斬鉄剣》なら対処できると思うが、必要以上に刀へ負担をかけるつもりはない。


装備の確認を終えたところで、スマートフォンが震えた。


画面に表示された名前を見て、俺は少し驚いた。


九条蓮司さんからだった。


『よう、シンタ! レイナとの合同探索が決まったらしいな。おめでとう!』


俺は思わず笑みを浮かべた。


『ありがとうございます。九条さんとの共闘がきっかけになったみたいです』


すると、すぐに返事が届いた。


『あいつ、前からお前の剣術に興味津々だったからな。特に四式の映像を何度も見てたぞ』


「……そんなに見られてたのか」


俺が苦笑していると、続けてメッセージが届いた。


『一つだけ助言しておく。レイナは速いぞ。特に左右への切り返しが得意だから、最初は無理に合わせようとするな』


なるほど。


俺は少し考えてから返信した。


『ありがとうございます。事前に動き方を相談しておきます』


『それがいい。お前なら問題ないと思うが、連携は実力だけじゃ決まらないからな』


その言葉には、素直に納得できた。


どれほど強い探索者同士でも、互いの動きを理解していなければ、かえって戦いにくくなることがある。


九条さんとの共闘でも、それは実感していた。


俺が礼を伝えると、最後に九条さんから豪快な笑顔のスタンプが送られてきた。


どうやら、今回の合同探索を楽しみにしてくれているらしい。


◇ ◇ ◇


昼前、俺は探索者協会の埼玉支部を訪れていた。


今日はダンジョンへ潜る予定ではない。装備の消耗品を補充し、合同探索に向けて最新の情報を確認するためだ。


受付へ向かうと、橘沙耶さんが俺に気づいて笑顔を見せた。


「市河さん、こんにちは。今日は探索ですか?」


「こんにちは。今日は装備の確認と、少し資料を見に来ました」


沙耶さんは頷き、端末を操作した。


「それでしたら、ちょうど黒崎主任から伝言を預かっています。お時間があれば、管理課へ寄ってほしいそうです」


「黒崎さんが?」


「はい。合同探索について、追加でお話があるみたいですよ」


俺は礼を言って、探索者管理課へ向かった。


部屋に入ると、黒崎さんが書類を確認していた。


黒崎さんは俺の姿を見ると、椅子から立ち上がった。


「市河、ちょうどよかった。少し確認しておきたいことがある」


「合同探索の件ですか?」


「ああ。探索先の安全確認は終わっているが、念のため直近のモンスター出現記録を見ておいてほしい」


黒崎さんは端末の画面をこちらへ向けた。


表示されていたのは、《秩父西部渓谷ダンジョン》の階層別出現記録だった。


第一階層にはブラックウルフや小型の魔物が多く、第二階層からアーマーオークが増える。第三階層ではロックリザードの大型個体が確認されているらしい。


俺は記録を読みながら尋ねた。


「今のところ、異常な出現はないんですね?」


黒崎さんは頷いた。


「そうだ。少なくとも、現時点ではな」


その言い方が少し気になった。


俺が顔を上げると、黒崎さんは腕を組んだ。


「最近、県内の複数のダンジョンで通常とは異なるモンスターの出現が報告されているだろう。お前が報告した岩窟ダンジョンの爪痕も、まだ調査中だ」


「ああ、あの三本の傷ですね」


「そうだ。ただ、今の段階でそれらに関連があると決めつけることはできない」


俺は頷いた。


確かに、ダンジョンでは予想外のことが起こる。だからといって、すべての異変が同じ原因で発生しているとは限らない。


黒崎さんは少し表情を和らげた。


「今回の合同探索は、協会としても安全に実施してもらいたい。お前と神崎の実力なら通常のB級ダンジョンで苦戦することは少ないだろうが、油断だけはするなよ」


「分かっています。何かおかしいと思ったら、すぐに引き返します」


「それでいい」


黒崎さんは満足そうに頷いた。


そして、ふと思い出したように笑った。


「それにしても、お前も随分有名になったな。登録者五万人突破だそうじゃないか」


「ありがとうございます。でも、正直まだ実感がなくて」


「お前らしいな」


黒崎さんは苦笑しながら続けた。


「人気が出れば、配信を見ている人間の期待も大きくなる。だが、その期待に応えるために危険を冒す必要はない。そこだけは忘れるな」


俺は真剣に頷いた。


「はい。ありがとうございます」


◇ ◇ ◇


協会での用事を終えた俺は、帰り道にある喫茶店へ立ち寄った。


注文したアイスコーヒーを飲みながらスマートフォンを確認すると、香澄からメッセージが届いていた。


『先輩、今日は訓練ですか?』


俺は返信した。


『今日は協会で装備と資料の確認をしてたよ。もう終わったところ』


すると、すぐに返事が届いた。


『お疲れさまです! 私は午前中、槍の練習をしてきました』


『頑張ってるね。でも、休憩もちゃんと取ってね』


『はい! 先輩に教えてもらったこと、少しずつできるようになってきました』


その文章を読んで、俺は自然と笑みを浮かべた。


香澄は本当に努力家だ。


初めて会った頃は、モンスターを前にすると身体が硬くなり、槍を十分に扱えていなかった。


それが今では、重心移動や呼吸を意識しながら動けるようになってきている。


この調子なら、いずれDランクへの昇格も見えてくるかもしれない。


そんなことを考えていると、今度はレイナさんからメッセージが届いた。


『シンタさん、こんにちは! 合同探索について一つ相談してもいいですか?』


俺はすぐに返信した。


『もちろんです。どうしました?』


『当日の戦闘前に、少しだけ連携の確認をしませんか? お互いの間合いを知っておきたいので!』


なるほど。それは俺も考えていたことだった。


『賛成です。現地で安全な場所を確保して、軽く動きを合わせましょう』


『ありがとうございます! 楽しみにしています!』


俺はスマートフォンを置き、アイスコーヒーを一口飲んだ。


九条さんからの助言もあったことだし、事前に連携を確認できるのはありがたい。


何より、Aランク探索者の双剣術を間近で見られる機会は貴重だ。


俺は少しだけ胸が高鳴るのを感じた。


◇ ◇ ◇


夕方、自宅へ戻ると、リビングでは莉奈がテレビを見ていた。


画面には、レイナさんの過去のダンジョン配信が映っている。


双剣を手にしたレイナさんが、素早い身のこなしで複数のモンスターを相手にしていた。


莉奈は俺に気づくと、興奮気味に声をかけてきた。


「お兄ちゃん、おかえり! ちょうどレイナさんの戦闘動画を見てたんだ!」


「ただいま。相変わらず速いな」


俺が画面を見ると、レイナさんは左の剣で敵の攻撃を受け流し、右の剣で反撃していた。


その直後、身体を回転させながら別の敵へ斬り込む。


無駄の少ない、見事な連続攻撃だった。


莉奈は感心したように言った。


「レイナさんって、やっぱりすごいよね。お兄ちゃんとどっちが速いのかな?」


「さあ。戦い方が違うから、単純には比べられないと思うよ」


「えー、気になるのに」


莉奈は少し残念そうに笑った。


すると、キッチンから母さんが声をかけてきた。


「信太、帰ったのね。今日は協会だったんでしょう?」


「うん。黒崎さんとも話してきたよ」


美咲は安心したように頷いた。


「それならよかったわ。ところで、来週の日曜日は朝から出かけるの?」


「その予定。帰りは夕方になると思う」


母さんは少し考えてから答えた。


「分かったわ。お父さんには、大学の友達と出かけるって説明しておく?」


俺は首を横に振った。


「いや、自分で話すよ。詳しいことは言えないけど、出かけることくらいは自分で伝える」


美咲は小さく微笑んだ。


「そうね。それがいいと思うわ」


俺は頷き、自室へ戻った。


机の上には、手入れを終えた刀と探索用の装備が並んでいる。


合同探索まで、あと八日。


まだ時間はあるが、準備を怠るつもりはない。


俺は刀を手に取り、静かに鞘へ納めた。


神崎レイナさんとの合同配信が、どんなものになるのか。


今はただ、その日が楽しみだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。