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家族に内緒でダンジョンに潜っていたら、いつの間にかCランク探索者になっていた件  作者: バモス
第一章 家族に内緒のダンジョン配信

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第24話 合同配信の告知と、親友の妙な勘

 金曜日の朝、俺は自室の机に向かい、探索用の装備を確認していた。


 神崎レイナさんとの合同探索は翌週の日曜日。探索先も《秩父西部渓谷ダンジョン》に正式決定し、あとは当日に向けて準備を進めるだけとなっている。


 もっとも、その前にやらなければならないことがあった。


 合同配信の正式な告知である。


 昨日の夜、レイナさんから連絡があり、今日の正午にお互いのチャンネルで告知を公開することになったのだ。


 俺はノートパソコンを開き、用意しておいた文章を読み返した。


『来週の日曜日、Aランク探索者の神崎レイナさんと合同探索を行います。安全第一で探索しますので、よかったら見に来てください』


 余計なことは書いていない。


 レイナさんの告知文と比べると随分あっさりしているが、俺らしくていいだろう。


 公開予約を設定していると、部屋の扉が軽くノックされた。


 莉奈が顔を覗かせ、楽しそうに尋ねてきた。


「お兄ちゃん、今日のお昼に告知するんでしょ?」


「うん。レイナさんと時間を合わせてる」


 莉奈は嬉しそうに笑った。


「絶対チェックするからね! 学校のお昼休みだし!」


「授業中に見るなよ」


「分かってるってば!」


 莉奈はそう答えたものの、少しだけ不満そうに頬を膨らませた。


 俺は苦笑しながらパソコンを閉じ、大学へ向かう準備を始めた。


 ◇ ◇ ◇


 大学の午前中の講義を終えた俺は、悠斗と一緒に学食へ向かっていた。


 悠斗は朝から妙に機嫌がよかった。


 理由はもちろん、神崎レイナさんと《シンタ》の合同配信である。


 悠斗は食券販売機の前で、嬉しそうに話しかけてきた。


「なあ信太、今日の正午に正式発表があるらしいぞ!」


「へえ、そうなんだ」


 俺が何食わぬ顔で答えると、悠斗は呆れたように肩を落とした。


「お前、本当に興味なさそうだよな。あのレイナさんとシンタさんが組むんだぞ?」


「いや、興味はあるよ。ただ、そんなに騒ぐことでもないかなって」


 悠斗は大げさに首を振った。


「分かってないなあ。これはダンジョン配信界隈じゃ、かなり大きなニュースなんだって!」


 そう言いながら、悠斗は俺の肩を軽く叩いた。


「それはそうと、今日はお前のおごりな」


 俺は思わず足を止めた。


「……何で?」


 悠斗は得意げに笑った。


「忘れたとは言わせないぞ。シンタさんがBランク昇格試験を受けるかどうか、前に賭けただろ?」


 そういえば、そんな約束をしていた。


 しかも、俺自身が昇格試験を受けたせいで負けたのだから、何とも言えない。


 俺は小さくため息をついた。


「分かったよ。今日は俺が出す」


「よっしゃ! じゃあ、唐揚げ定食の大盛り!」


「遠慮って言葉を知ってるか?」


 俺がそう尋ねると、悠斗は笑いながら答えた。


「親友同士に遠慮なんて必要ないだろ?」


 まったく、都合のいい親友である。


 それでも、楽しそうな悠斗を見ていると、不思議と悪い気はしなかった。


 ◇ ◇ ◇


 正午を少し過ぎた頃、悠斗のスマートフォンが通知音を鳴らした。


 悠斗は箸を置くと、勢いよく画面を確認した。


「来た! 正式告知だ!」


 俺も自分のスマートフォンを取り出し、予約投稿が正常に公開されていることを確認する。


 画面には、レイナさんのチャンネルからも新しい投稿が表示されていた。


『来週の日曜日、《シンタ》さんとの合同ダンジョン探索が決定しました! 今回はB級ダンジョンに挑戦します! 皆さん、お楽しみに!』


 具体的な探索場所は、安全管理上の理由から公開していない。


 悠斗は画面を見ながら、興奮した声を上げた。


「うおお! 本当に決まったんだな!」


 周囲の学生が何人か振り返ったため、俺は慌てて声をかけた。


「悠斗、ちょっと声が大きい」


「あ、悪い悪い」


 悠斗は苦笑しながら声を落とした。


 しかし、すぐに別のことに気づいたらしい。


 俺のスマートフォンをちらりと見て、首を傾げた。


「なあ信太。お前、シンタさんの投稿を確認するの早くないか?」


 俺は一瞬だけ動きを止めた。


「……通知が来たからな」


「お前、チャンネル登録してたっけ?」


「最近したんだよ。悠斗があんまり勧めるから」


 悠斗は納得したように頷いた。


「おお! ついにシンタさんの魅力が分かったか!」


 どうやら疑われずに済んだらしい。


 俺は内心で安堵しながら、唐揚げを一つ口に運んだ。


 ところが、悠斗は突然真面目な表情になった。


「でもさ、前から思ってたんだけど……」


「何だ?」


 悠斗は俺の顔をじっと見つめた。


「お前とシンタさんって、ちょっと似てるよな」


 危うく唐揚げを喉に詰まらせるところだった。


 俺は水を一口飲んでから、できるだけ自然に答えた。


「……そうか?」


 悠斗は頷いた。


「声とか、話し方とかさ。それに、シンタさんって剣道経験者っぽいだろ? お前も剣道四段だし」


 思った以上に鋭い。


 俺は平静を装いながら肩をすくめた。


「剣道経験者なんて珍しくないだろ。それに、配信じゃ声も多少変わって聞こえるんじゃないか?」


 悠斗は少し考え込んだ。


「まあ、それもそうか」


 俺が安心しかけたところで、悠斗は笑いながら続けた。


「でも、もしお前がシンタさんだったら面白いよな!」


「……何でだよ」


「だって、俺の親友がBランク探索者で、しかも人気配信者ってことになるんだぞ? 最高じゃん!」


 悠斗は楽しそうに笑った。


 俺も曖昧に笑い返したが、内心では冷や汗をかいていた。


 どうやら、親友の勘というものは侮れないらしい。


 ◇ ◇ ◇


 その日の夕方、大学から帰宅した俺は、自室で配信チャンネルの管理画面を開いていた。


 正式告知を投稿してから数時間しか経っていないのに、登録者数が目に見えて増えている。


 昨日まで四万人台だった登録者数は、すでに五万人を超えていた。


「……え、もう五万人?」


 思わず声が漏れた。


 九条さんとの共闘動画が話題になったときも驚いたが、今回はそれ以上の勢いかもしれない。


 コメント欄にも大量の書き込みが並んでいた。


『登録者五万人突破おめでとう!』


『レイナさんのところから来ました!』


『九条さんとの共闘を見てファンになった』


『今度は双剣と日本刀の連携か!』


『右片手平突き・参式はまだですか?』


 相変わらず参式を見たがる人が多い。


 俺は苦笑しながら画面を閉じた。


 すると、ちょうどスマートフォンにレイナさんからメッセージが届いた。


『シンタさん、登録者五万人突破おめでとうございます! すごい勢いですね!』


 俺はすぐに返信した。


『ありがとうございます。正直、自分でも驚いています』


 ほどなくして、レイナさんから返事が届いた。


『これからもっと増えると思いますよ! あの剣術は本当にすごいですから!』


 俺は少し考えてから返信した。


『まだまだ未熟ですが、当日はよろしくお願いします』


 すると、レイナさんから笑顔のスタンプが送られてきた。


 その直後、部屋の扉がノックされた。


 母さんだった。


「信太、ちょっといい?」


「うん。どうしたの?」


 美咲は部屋へ入ると、俺の机に置かれたノートパソコンを見た。


「莉奈から聞いたんだけど、登録者が五万人を超えたんですって?」


「うん。さっき確認した」


 母さんは感心したように頷いた。


「すごいわね。でも、有名になるほど身元が知られる可能性も高くなるから、気をつけなさいよ」


「分かってる」


 美咲は少しだけ表情を真剣にした。


「特に、お父さんにはまだ話していないんでしょう?」


「……うん」


 俺が頷くと、母さんは静かに息を吐いた。


「いつかは話さないといけないわよ。もちろん、今すぐとは言わないけど」


「分かってるよ。ちゃんと自分から話すつもりだから」


 美咲は安心したように微笑んだ。


「それならいいわ。あなたが真剣に取り組んでいることは、私も分かっているから」


 そう言って、母さんは部屋を出ていった。


 俺はしばらく閉じた扉を見つめていた。


 探索者になったことを後悔したことはない。


 けれど、家族に心配をかけていることも事実だ。


 父さんに正体を明かす日は、いつか必ず来る。


 そのとき、自分の選んだ道を胸を張って説明できるようにしておきたい。


 俺は再びノートパソコンを開き、合同探索の資料を確認し始めた。


 今は目の前の準備を、一つずつ進めていこう。


 そう考えながら、俺は装備の点検予定を手帳に書き込んだ。


 神崎レイナさんとの合同探索まで、あと九日。


 そして、俺の知らないところで、《シンタ》という名前は少しずつ広がり始めていた。

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