第20話 Aランク探索者から、合同配信のお誘いが来ました
月曜日の朝。
市河信太は大学へ向かう電車の中で、スマートフォンを確認していた。
土曜日に香澄と食事をしてから二日。昨日は自宅でゆっくり過ごし、次の探索に向けて装備の手入れを済ませていた。
信太「……次はどこに行こうかな」
Bランクになったことで探索できるダンジョンは増えたが、まだ単独でのB級探索には慣れていない。
そんなことを考えていると、配信チャンネルに通知が届いた。
『神崎レイナさんからメッセージが届いています』
信太「……え?」
思わず画面を二度見した。
神崎レイナ。
登録者百万人を超える人気ダンジョン配信者であり、Aランク探索者でもある。
以前、九条との合同配信を見て自分のチャンネルをフォローしてくれた人物だ。
信太はメッセージを開いた。
『シンタさん、初めまして。Aランク探索者の神崎レイナです。以前から配信を拝見しています。もしよろしければ、一度合同探索をしてみませんか?』
信太「……本物だよな?」
認証済みの公式アカウントだった。
さらに続きがある。
『探索場所や日程は協会を通して調整できればと思っています。無理のない範囲で構いませんので、ご検討いただけると嬉しいです』
信太はしばらく考えた。
Aランク探索者との合同探索は、九条に続いて二人目になる。
しかも相手は人気配信者だ。
信太「……俺でいいのかな」
少し迷った末、返信することにした。
『初めまして、シンタです。お誘いありがとうございます。ぜひお願いします。日程や探索場所については協会を通して相談できればと思います』
送信すると、数分もしないうちに返事が届いた。
『ありがとうございます! 楽しみにしています!』
信太「……決まっちゃった」
こうして、思いがけない合同探索の予定が一つ増えた。
◇ ◇ ◇
大学へ到着すると、悠斗がいつものように声をかけてきた。
悠斗「信太! 聞いてくれ!」
信太「今度は何?」
悠斗「シンタの登録者、四万人超えた!」
信太「……そうなんだ」
悠斗「お前、反応薄いな!」
信太「毎回驚いてたら疲れるだろ」
悠斗「それもそうか」
悠斗はスマートフォンを操作する。
悠斗「それより神崎レイナさんが、またシンタの話してたんだよ」
信太「……へえ」
悠斗「次に一緒に探索してみたい人を聞かれて、シンタって答えてた!」
信太「そうなんだ」
悠斗「もし実現したら絶対見る!」
信太「実現するかもね」
悠斗「だよな!」
信太「…………」
危ない。
もう決まったと言いそうになった。
悠斗「でも、九条さんに続いて神崎さんまで共演したら、シンタの知名度すごいことになるな」
信太「そうかな」
悠斗「当たり前だろ。Aランク探索者二人から注目されてるんだぞ?」
信太は苦笑した。
自分では普通に探索しているつもりなのだが、周囲の評価はどんどん大きくなっているらしい。
◇ ◇ ◇
放課後。
信太は埼玉探索者協会支部を訪れていた。
受付の橘沙耶へ事情を説明すると、彼女は驚いた表情を浮かべた。
沙耶「神崎レイナさんから合同探索のお誘いですか?」
信太「はい。協会を通して調整したいそうです」
沙耶「……市河さん、本当に話題が尽きませんね」
信太「そんなに珍しいですか?」
沙耶「Aランク探索者から次々に声をかけられるBランク探索者は、そう多くありません」
信太「九条さんとは偶然でしたけど」
沙耶「その偶然がすごいんですよ」
沙耶は苦笑しながら端末を操作した。
沙耶「神崎さん側からも、すでに正式な相談が届いています」
信太「早いですね」
沙耶「仕事ができる方なんでしょうね」
そこへ黒崎誠司が現れた。
黒崎「市河、今度は神崎さんか」
信太「こんにちは、黒崎さん」
黒崎「お前、Aランク探索者に妙に気に入られるな」
信太「自分でも不思議です」
黒崎「まあ、実力を見れば納得はできるが」
黒崎は沙耶の端末を確認した。
黒崎「合同探索自体は問題ない。ただし、探索先は慎重に選ぶ」
信太「はい」
黒崎「雁坂深層洞の調査はまだ終わっていない。あそこは候補から外す」
信太「分かりました」
黒崎「それと、今回は配信者同士の合同探索だ。戦闘だけじゃなく、撮影や他の探索者への配慮も必要になる」
信太「気をつけます」
黒崎「神崎さんは経験豊富だから、その辺りは教えてもらえ」
沙耶「日程が決まったらご連絡しますね」
信太「よろしくお願いします」
◇ ◇ ◇
その頃。
神崎レイナは自宅の配信スタジオで、スタッフと打ち合わせをしていた。
レイナ「シンタさん、受けてくれたよ!」
スタッフ「よかったですね」
レイナ「うん。前から一緒に探索してみたかったんだ」
スタッフ「そんなに気になります?」
レイナ「気になるよ。あの人、剣の使い方が独特なんだもん」
レイナはモニターに映る戦闘映像を再生した。
九条との合同探索で、ブラックオーガ・ジェネラルを倒した場面だ。
レイナ「ここ。普通なら大技を使いたくなる場面なのに、状況に合わせて技を変えてる」
スタッフ「確かに速いですね」
レイナ「速さだけじゃない。余計な動きがほとんどないんだよ」
スタッフ「Aランク相当だと思います?」
レイナ「戦闘技術だけなら、かなり近いところまで来てると思う」
レイナは楽しそうに笑った。
レイナ「でも、実際に一緒に動いてみないと分からないこともあるからね」
スタッフ「合同配信、盛り上がりそうですね」
レイナ「うん。私も楽しみ!」
◇ ◇ ◇
その日の夜。
信太が夕食を食べていると、莉奈が突然声を上げた。
莉奈「お兄ちゃん!」
信太「何?」
莉奈「神崎レイナさん、次の合同配信を準備してるって!」
信太「……そうらしいな」
莉奈「誰とやるんだろうね?」
信太「さあ」
莉奈はじっと兄を見る。
莉奈「……もしかして」
信太「…………」
莉奈「お兄ちゃん?」
信太「まだ正式には決まってないから」
莉奈「やっぱり!」
莉奈が勢いよく立ち上がった。
莉奈「お母さん! お兄ちゃんが神崎レイナさんと合同配信するって!」
美咲「あら、そうなの?」
信太「まだ調整中だよ」
美咲「相手はAランクの方よね?」
信太「うん。双剣使いで、かなり強い人」
美咲「それなら少し安心ね」
莉奈「登録者百万人以上いるんだよ!」
信太「知ってる」
莉奈「絶対すごいことになるよ!」
信太「……そうかな」
美咲は微笑んだ。
美咲「信太、楽しそうね」
信太「まあ、楽しみではあるかな」
美咲「でも、安全第一よ」
信太「分かってる」
莉奈「それと、今度こそ参式!」
信太「またそれか」
莉奈「だって見たいんだもん!」
信太「使う場面があればね」
美咲「莉奈、無理に使わせないの」
莉奈「はーい」
信太は笑った。
以前なら、こんな会話すらできなかった。
母と妹に正体を明かしたことで、探索者としての生活が少しずつ変わり始めている。
ただし、父の隆一にはまだ秘密のままだった。
◇ ◇ ◇
翌日の昼休み。
信太がスマートフォンを確認すると、協会から新しい連絡が届いていた。
『神崎レイナ様との合同探索について、日程調整が完了しました』
信太「……早いな」
内容を確認する。
合同探索は翌週の日曜日。
場所は協会管理下のB級ダンジョン。
詳細な探索ルートについては、事前打ち合わせで決めるらしい。
さらに、神崎レイナ本人からもメッセージが届いていた。
『日程決まりましたね! 当日はよろしくお願いします。シンタさんの剣術、間近で見られるのを楽しみにしています!』
信太は返信した。
『こちらこそよろしくお願いします。神崎さんの双剣も楽しみにしています』
送信後、スマートフォンをしまう。
信太「……今度は双剣か」
九条の大剣とは違う戦闘スタイル。
自分の剣術にとっても、学べることが多そうだった。
Bランク探索者になってから、まだそれほど時間は経っていない。
それなのに、次々と新しい出会いが増えている。
信太は窓の外を見つめた。
信太「……楽しみだな」
その表情には、これから始まる合同探索への期待が浮かんでいた。
そして、Aランク探索者・神崎レイナとの初めての合同配信が、静かに近づいていた。




