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50歳の何でも屋、セカンドライフは魔王城~今度の依頼は国再建! 異世界バーガーで追放勇者を弟子にしました~  作者: おっさん5963
第九章 ファンタジー世界に馴染んだおっさん――ドラゴン骨で追放勇者とラーメン作る!弟子を取ったら部屋追い出される

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第九十二話 ダメなのは考えることを止めた時

「セシリア、本当にすまねぇなぁ」


俺は顔を少し斜め下に伏せ、頭を深く下げた。


「弟子のやらかしたことは、俺自身がやらかしたのと同じことだ。

これからメルと一緒に、なんとかこの鎧を元に戻すか、

別の解決策がないかじっくり探してみる。だから少しだけ

時間をくれないか」


その言葉を背中で受けながらも、セシリアは自身の漆黒に

染まった手甲をじっと見つめたまま、

微かにつま先を震わせることしかできなかった。


その横で、ゼフェルが確信に満ちた強い眼差しを八起へと向け、

深く頷く。


「案ずるな、セシリア殿。八起殿が動くのだ。天の理さえ覆す

その叡智があれば、どのような呪詛であろうとも必ずや

打ち破る道が見つかる。私はそう信じて疑わん」


「くよくよと悩んでいる暇があるならば、まずは身体を動かすことだ。

訓練場は逃げはせん」


ガルムが静かに、だが重みのある声で促すと、張り詰めていた

部屋の空気がわずかに動き出した。各々がそれぞれの役割へと

戻るため、一人、また一人と応接室を後にし、扉が閉まる

乾いた音が響く。


八起はメルの小さな肩を軽く叩き、かつて宝物庫だった、

今はガラクタが積まれた薄暗い部屋へと足を向けた。

埃と古い魔導具の金属臭が入り混じる部屋へと戻り、

俺は積み上げられた木箱に腰を落ち着けた。


「おう、メル。なぜあんなことになったんだと思う?」


問われたメルは、いつもなら大袈裟に翻すはずの袖の端を

指先でもぞもぞと弄り、視線を部屋の隅の木箱へと落とした。


「……ぐう……ぜん……?」


「んー、俺もあの鎧に直接触ってみたんだが、不自然な歪みや、

おかしな術式なんかは何も感じなかったんだ」


俺は顎に手を当て、少しだけ視線を上へと泳がせる。


「戦場の悪い魔力がきれいに浄化されて、元々の聖なる力と

きれいに混ざり合っちまった。……なぁ、混ざり合ったものなら、

もう一度別々に分けることはできねえのか?」


メルはしばらく沈黙したのち、首を小さく横に振った。


「ダメ……マヨネーズ……同じ……」


「完全に混ざり合っちまうと、もう手遅れってわけか。

まさに『混ぜるな危険』だな」


その言葉に、メルの視線がぴくりと俺の手元へと動く。


「……なに……それ……?」


「いや、俺が元いた世界の話だよ。特定の薬品同士を混ぜると、

目に見えねえ猛毒のガスが湧き出る仕組みがあってな。

だから絶対に混ぜたら駄目ってルールがあるんだ」


「……混ざったら……どうする……?」


「もし混ざっちまったら、もう元には戻せねえ。頑丈な箱に

閉じ込めるか、窓を全開にして換気するしかねえのさ」


メルの瞳が、暗がりの中でわずかに見開かれた。


「……閉じ込める……換気……曲げる……方向……」


ぶつぶつと、唇の端だけで何事かを呟き始める。


「ん? どうしたんだ?」


顔を覗き込もうとしたその瞬間、メルは突如として

俺の胸のあたりを小さな両手で強く押し出してきた。


「師匠! ……あっち行く……考える……邪魔……」


「おいおい、追い出されちまうのかよ……」


パタンと目の前で扉が閉まり、古い鍵がカチリと回る音が

静かな廊下に響いた。俺は頭を軽く掻き、一人残された

通路で息を吐き出す。


「とりあえず、セシリアの様子でも見に行くか」


城の外へと続く重い石の扉を押し開けると、冷涼な風が

俺の頬を撫で、裏庭から賑やかな声が聞こえてきた。

一足外に踏み出すと、その気配を察知したガウラと、

巨大な犬がタタタッと駆け寄ってくる。


「ボスゥー! あいつなんなの、急に飛びついたと思ったら

じゃれついてお腹にうもれやっがったぁ」


尻尾を不満げに揺らすガウラが指差す方向へ、

俺は視線を向けた。

そこには、漆黒の鎧を着たまま、一匹の犬にしがみつく

セシリアの姿があった。

いつもの凛とした面影はどこへやら、

その顔にはだらしない笑みが浮かんでいる。


「モフモフゥ~モフモフでちゅねぇ~、スゥ~ハァ~

スゥ~ハァ~……」


白くモフモフな毛並みに顔を深く埋め、恍惚の吐息を漏らす

セシリアを見つめ、俺の口元がわずかに引きつった。


「セ、セシリア、ガルム将軍と訓練じゃないのか??」


声をかけると、彼女は一瞬で硬直。ハッと我に返り、

耳の裏を朱に染めながら気まずそうにこちらを振り返る。

セシリアは何事もなかったかのように素早く立ち上がると、

服の埃を払うふりをして、喉を小さく鳴らした。


「……ガ、ガルム将軍は、急用ができたと……。

わ、私は休憩していただけです!」


恥ずかしさと、取り繕った聖騎士としての凛々しさが紙一重で

混ざり合う。その落ち着かない指先の動きを見て、

俺はふと胸の内で腑に落ちるものがあった。


「もしかして犬が好きなのか?」


セシリアはさらに視線を斜め下へと落とし、うつむいたまま、

小さく、だが確かにコクりと頷いた。

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