表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50歳の何でも屋、セカンドライフは魔王城~今度の依頼は国再建! 異世界バーガーで追放勇者を弟子にしました~  作者: おっさん5963
第九章 ファンタジー世界に馴染んだおっさん――ドラゴン骨で追放勇者とラーメン作る!弟子を取ったら部屋追い出される

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/98

第八十八話 弟子たちよ……

大切なドラゴンの骨をラーメンスープにされてしまった俺は、

引きつった笑顔の仮面を貼り付けたまま、ふらふらと自室へ戻った。


何でも屋として長年、数々の職を渡り歩き、

難題を乗り越えてきた自負はある。

客の無茶な注文や、急な補修作業も、

すべて持ち前の器用さで冷静に捌いてきた。


だが、異世界という極地の至高の蒐集品を失った衝撃は、

俺の精神を根本からポッキリと叩き折るには十分すぎた。

心の中で血の涙を流し、愛しきコレクションの冥福を祈りながら、

せめて特製敷布団の上で横になり、傷ついた心を癒やそうとした。


しかし、かつて宝物庫だったその部屋の扉を開けた瞬間、

俺はさらに大きな衝撃を受けてその場に硬直することになる。

部屋の中は、いつもと全く違う光景に様変わりしていた。


散乱していたはずの金属屑や塊、用途不明のガラクタの山が、

部屋の隅へと綺麗に、そして几帳面に片付けられている。

その部屋の中心には、メルがぽつんと座り込んでいた。


彼女は床に直に座り、ガラクタの山から拾い上げた奇妙な金属片を、

まるで穴が空くほど熱心に見つめながら、指先で優しく触れている。


「し、師匠…………。私、ここに住む…………」


メルは俺が戻ってきたことに気づくと、ゆっくりと顔を上げた。

その瞳は、何か重大な真理にでも到達したかのように怪しく輝いている。


どうやら俺がいない間に、彼女はこの部屋を自分の研究室兼居室として、

完全に占有することを決めてしまったようだった。


「ほへ?」


俺の口から、魂の抜けたような気の抜けた声が漏れ出た。

ドラゴンの骨に続き、自分の唯一の安らぎの場であった自室までもが、

弟子の手によって一瞬にして奪い去られてしまったのだ。


メルは俺の困惑などどこ吹く風で、再び金属片に視線を戻す。

用途不明のガラクタを穴が空くほど眺め、触る。


「『万象を無へと帰す虚無の深淵』を凝視せし漆黒の魔眼……。

これに選ばれしこの我に、恐れ戦く理など最早この世界には存在せぬ…………。

この隔離されし魔導空間(マイルーム)に渦巻く禁忌の遺産の狂おしき闇の拍動が、

我が血脈に眠る魔導の極致をさらなる高みへと導くのだ……!」


ぶつぶつと不穏な言葉を呟きながら、金属片を愛おしそうに撫でるメル。

もはや、この部屋から彼女を退去させるのは不可能な雰囲気が漂っている。

こうして、ささやかなプライベート空間は完全に消滅した。


俺は床に敷きっぱなしにしていた布団を小さく丸め、

残された数枚の衣服を無造作に抱えて、部屋を後にする。


逃げるように廊下へ出た俺は、薄暗い城内をあてもなく彷徨い、

物置として使われていた別の狭い空き部屋へと引っ越しを余儀なくされる。

埃の積もった冷たい床に敷布団を広げ、ぽつんと座り込む。

窓から差し込む斜陽が、丸まった背中を物悲しく照らしていた。


それからしばらくして、薄暗い廊下の隅で、

木箱の上に腰掛けて遠い目をしている八起の姿があった。

あまりのショックの連続に、

ただの生気のない木彫りの人形のようになっている。


そこへ、慌ただしい足音とともに一人の女性が近づいてきた。


「お、おじさん、どうしたの? そんなところで小さくなって……」


声をかけてきたのは、書類を抱えたルナリアだった。

さっき廊下ですれ違ったときとは違い、あまりにも覇気のない様子に、

流石の彼女も本気で心配そうな表情を浮かべている。


俺はゆっくりとルナリアを見上げると、深く、重いため息を吐き出した。


「ルナリア、こうして年寄りはそでに消えていくんだな……」


「何言ってるの! 大事な用だから呼びに来たのよ! しっかりして!!」


ルナリアは眉根を釣り上げ、呆れたように、

しかし必死になって俺の肩を揺さぶった。

おじさんがいつになく弱気なのが、彼女にとっては少しだけもどかしく、

そして何より放っておけなかった。


大人の女性としての気風の良さで、

おじさんの背中を叩くようにして活を入れる。

ルナリアの力強い言葉に、俺はようやく現実の世界へと意識を呼び戻された。


頭を軽く振って、いつもの現場の親方らしい表情を取り戻す。


「おっ、どうしたんだ? 何かトラブルでも起きたか??」


「ガルードさんが相談あるって、応接室で待っているわ。

これからの魔王国の運営に関わる、かなり重要な案件みたいよ」


「そうか、すぐに行く」


俺は立ち上がり、作業着の埃を払うと、ルナリアと共に廊下を歩き出した。

自室を失い、大事な骨を失った悲しみはまだ癒えてはいない。


だが、仕事が自分を求めている以上、

職人が立ち止まるわけにはいかないのだ。

内政の新たな課題に向けて、おじさんは再び現場へと足を進めるのだった。

気に入って頂けたら、ページ下部にある【ブックマークに追加】と評価で応援お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ