表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50歳の何でも屋、セカンドライフは魔王城~今度の依頼は国再建! 異世界バーガーで追放勇者を弟子にしました~  作者: おっさん5963
第九章 ファンタジー世界に馴染んだおっさん――ドラゴン骨で追放勇者とラーメン作る!弟子を取ったら部屋追い出される

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/98

第八十五話 同じでなくてもぉいいのよぉ

シオリの私室は、おっとりとした彼女の雰囲気に反して、

どこか物々しい気配を漂わせていた。

部屋の壁際を埋め尽くしているのは、

天井にまで届きそうなほど歪に積み上がった様々な色の糸巻きの山だ。


その中でも中央の作業台に置かれた一筋の糸は、

尋常ではない鋭利さと純白の輝きを放っており、

ノエルは思わず冷や汗をかく。


シオリが自身の体から紡ぎ出す魔糸は、

極上の衣服を縫い合わせる一級の道具であると同時に、

実戦においては高速で切り刻む見えない凶器へと変貌する。


人間の国では存在すら語られない異形の亜人、

常軌を逸した魔王国の技術力、内心は緊張していた。

ノエルはごくりと唾を呑む。


作業台の前に蜘蛛の足をのんびりと揺らしながら、

シオリは間延びした声で語りかけた。


「ノエルちゃぁん、この糸に魔力を通してみてぇ。

そうそう上手ぅ、この糸はねぇ、魔力を通すとぉ硬くなったりぃ、

柔らかくなったりするのぉ。やってみてぇ」


外見からは想像も出来ないゆるさに馴染む時間は必要なかった。


「はいっ! はぁぁぁぁっ……!」


ノエルは深く息を吸い込み、全身の魔力を右手の指先に集中させた。

手渡された極細の魔糸に意識を注ぎ込むと、

聖女の清らかな魔力が白い繊維の奥へと染み込んでいく。


人間の国にいた頃は、怪我人の治療や王侯貴族を守護するためだけに

消費されていた彼女の特別な力。

それを今、一人の男子の衣服を作るための材料に注いでいる。

物作りという未知の世界に足を踏み入れたノエルの胸には、

これまでにない新鮮な高揚感が湧き上がっていた。


「ほらぁ、どおぉ? 細いけど長くて硬いでしょぉ?

ただ触れるだけ、触れるだけでぇ、硬くなるように練習しましょうねぇ。

慣れてくればぁ、先っちょだけぇ、硬くする事も出来るようになるからねぇ」


「はいシオリさん、頑張ります!

早くできるようになって、コウタロウを喜ばせたいです!」


ノエルは白い頬を林檎のように赤く染めながら、

小さな拳をぎゅっと握りしめて素直な熱意を口にした。

一刻も早く一人前の作業をこなし、大切な人の傍に立ちたいという

純粋無垢な決意表明。


しかしそのあまりにも直球すぎる言葉の響きが、

シオリの脳内で致命的な大激流を引き起こした。


(あぁ、あふ、そんなセリフ……!

コウタロウちゃんを……喜ばせるために、細くて長い……

触るだけで硬くする……!?

先っちょだけ……コウノエの波動が脳髄を直撃してすごすぎますぅ!)


「いいわぁ……すごく、いいですわぁ……!」


今にも鼻血の出そうなシオリだった。

興奮のあまり指先がマッハの速度でブレそうになるのを必死に堪え、

脳内の薄い本(スクロール)を想像させる。

すさまじい熱気と鼻息を漏らしながらも、

なんとか優しい先輩としての歪な笑顔を取り繕った。


「この糸で作った生地はねぇ、ノエルちゃんの(まりょく)でぇ、

色々な付与が付くのぉ、すごいでしょぉ。

だからぁ、頑張って練習しましょうねぇ」


「はいっ、コウタロウのために世界一番の素敵なエプロンを作ってみせます!」


ノエルは目の前のシオリが謎の悶絶を起こしかけている理由など露知らず、

再び真剣な顔で魔糸へと向き合った。

これまでの人間の国では、自分の持つ聖女の力は組織の利権や格式を

保つための都合のいい道具でしかなかった。


誰も自分の内面など見てはくれず、

ただ聖女としての価値だけを押し付けられる日々に息が詰まりそうだった。

しかし、この魔王国の現場は全く違う。

シオリはノエルの力を否定せず、むしろそれを活かした新しい物作りの

可能性を真っ直ぐに示してくれている。


みんなが同じ歯車になる必要はない、現場にはそれぞれの役割がある。

シオリと同じ神速の業は真似できなくても、

聖女の祈りと愛を込めた確かな一針なら、

自分にしかできない唯一無二の技術になるのだ。


ノエルが指先で再び触れると、

細い魔糸がカチリと小気味よい音を立てて硬質な引き締まりを見せた。

その確かな現場の確かな手応えを噛み締めながら、

ノエルはこれからの作業に深く胸を躍らせる。


愛を込めた糸で織り上げる、世界に二つとない聖女のエプロン。

その完成図は頭の中にある、これから始まる物作りの日々に向けて、

ノエルの瞳には聖法国にいた頃には決して見せなかった、

人としての確かな輝きが宿り始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ