第八話 お宝とは使ってこそ価値が有る
翌朝。魔王城の食堂は、もはや静寂とは無縁
の場所に変わっていた。
「おかわり!」「お塩ちょうだい!」と
飛び交う子供たちの声。シオリが給仕に走り回り、
リナがガウラの尻尾を毛繕いし、テオが仲間たちの
面倒を見る。その様子を、八起は隅の席で巨ジャガを
咀嚼しながら眺めていた。
かつての自分のように、行き場のない夜を過ごす
必要はもうない。
温かい飯と、安心して眠れる屋根。それだけで、
ガキどもの顔つきは劇的に変わる。
「……さて。腹も膨らんだところで、一仕事いくか」
八起が立ち上がり、空の皿を置く。その合図に、
騒がしかった子供たちがぴたりと静まり、ゼフェル、
ルナリア、そしてガウラが姿勢を正した。
「従業員諸君、よく聞け」
八起は耳に挟んだ鉛筆を抜き、即席の指揮棒のように
振った。
「食料の目処はついた。ギガントが耕し、お前らが
植えた巨ジャガは、この土地の魔力であっという間に
育つ。だがな、自分たちだけで食ってりゃいいっても
んじゃない。次は、魔王国民の全員にこれを知ってもらう
ための『アピール作戦』だ!」
「アピール作戦?」と、子供たちが顔を見合わせる。
「そうだ。いいか、現場の人間が一番怖いのは
『情報不足』だ。民たちは今、あの畑を魔王の呪いだ
とか、新しい処刑場だとか思って震えてる。……それを
ひっくり返す」
八起はゼフェルに視線を送った。
「ゼフェルさん、人手を集めてくれ。城の連中だけじゃ
足りない」
八起は食卓の端に地図を広げ、城下町周辺の幾つか
のポイントを鉛筆で囲った。
「栽培してる『巨ジャガ』が育つまでには、
まだ数日かかる。だが、宣伝は早い方がいい。
そこら中に自生してる天然物を一気に回収するぞ。……
シオリさんは調理場の総責任者だ。とにかく、最高に
美味い食い方で出せるよう準備してくれ」
「……八起殿、集めた巨ジャガをどうされるおつもりで?
まさか、無償で民に配るのですか?」
ゼフェルがイケメンな顔に疑問を浮かべて問いかける。
八起はニヤリと笑い、首を横に振った。
「いや、ただ配るだけじゃ『タダより高いものはない』って
疑われる。まずは、口の肥えた連中からだ。城下町の
食堂、酒場、それに行商人。商売をやってる連中を城に
招いて『大試食会』を開く」
「……商売人たちを味方につけるというのですか。彼らが
『美味い』と認めれば、その噂は勝手に町中に広がる……。
なんという、盤石な市場開拓戦略!」
ゼフェルが再び手帳に猛烈な勢いで書き込みを始める。
「ガラクタも兵器も、そして毒だと思われてたもんも、
使い道と伝え方次第でお宝に変わるんだ。……よし、
作戦開始だ。ガキども! 今日は植え付けの代わりに、種芋
探しと会場作りを手伝ってもらうぞ!」
「お祭りだ!」「おじさん、頑張るよ!」
「お祭り」という言葉に、子供たちのボルテージは
最高潮に達した。
飢えに怯えていた子供たちが、今度は「誰かに食べさせる」
ために瞳を輝かせ、食堂を飛び出していく。
「……こんなに騒がしい城、生まれて初めてだわ」
ルナリアが呆れ半分、感心半分に呟く。
八起は「現場が活気づけば、仕事の半分は終わったようなもんだ」
と答え、再び耳に鉛筆を挟み直した。




