第七十九話 新たな旅路
コウタロウは広場を離れ、城下町の隅にある目立たない宿へと
滑り込み、一晩を明かした。
狭い部屋のベッドの中で、一睡もできぬまま朝の光を待つ時間は、
気が遠くなるほど長かった。窓の外から聞こえる衛兵の足音に
怯えながら、ただおじさんのあの無骨な声を思い出していた。
翌日の早朝、まだ薄暗い空気が満ちる中、
コウタロウは静かに宿を出た。魔王城へと帰る馬車を捕まえるため、
街の入り口へと向かい、じっと佇んでその時を待つ。
冷たい朝霧が周囲を包み込み、
少年の孤独な背中を白くぼやかしていた。
静寂だけが辺りを支配している。
「やっぱり、ここにいた」
静かな声に驚いて振り返ると、朝霧の向こうから、
ノエル、セシリア、メルの三人が並んで歩み寄ってくるところだった。
彼女たちは、コウタロウが黙って一人で出ていく行動を
完全に読んでいた。実家の格式や、この国での安定した未来を
すべて天秤にかけた上で、それでも彼女たちは、
少年の元へと戻ることを選んだのだった。
「みんな、どうして……。家に帰ったんじゃ……」
呆然とするコウタロウに対し、セシリアが甲冑を僅かに鳴らし、
フッと不敵な笑みを浮かべた。
「私たちは勇者の仲間だ。君を一人で行かせるわけがないだろ」
ノエルが優しく微笑み、
メルも大きな帽子の下から小さく頷いてみせる。
彼女たちは由緒ある家柄などすべてを捨てて、コウタロウと
共に歩む道を選んでいた。その瞳には、一切の迷いも後悔の念も
見当たらない。
その時、朝霧をかき分けるようにして、こちらへ近づいてくる
一台の馬車があった。昨日、自分たちをここまで送り届けてくれた
あの馬車と、見覚えのある御者の姿だ。
御者は四人の姿を見つけると、不思議そうに馬の手綱を引いて
速度を落とした。
「おや、勇者様方、こんな早朝に街の入り口でどうされたのです?
私に、何か御用でも?」
てっきり聖法国で大英雄として盛大な祝宴にでも招かれていると
思っていた御者は、彼らの旅支度の姿を見て完全に困惑していた。
怪訝な顔をする御者に対し、コウタロウは一歩前に踏み出し、
真っ直ぐにその目を見つめた。
「僕たちをもう一度、あの国へ乗せていってほしいんだ」
御者は一瞬だけ目を丸くしたが、彼らの引き締まった表情を見て、
何かを察したように深く笑みを浮かべた。
大国の最高権力者よりも、あの何でも屋のおじさんを
信じた少年たちの真っ直ぐな瞳。御者は手綱を握り直した。
「そういうことでしたら、喜んで。さあ、皆さん中へどうぞ」
コウタロウの胸の奥に、確かな熱いものが込み上げてくる。
国を追われた少年と、自らの意志でついていく仲間たち。
四人は用意された馬車へと乗り込み、新たな旅立ちの扉を開けた。
再び結集した一行を乗せ、馬車は静かに、
あの美味しいバーガーのある国へと向けて街の入り口を後にした。
朝霧の向こうへと消えていく馬車の音だけが、静かに響いていた。
ブックマークいただきました。ありがとうございます。
今後も応援よろしくお願いします。




