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50歳の何でも屋、セカンドライフは魔王城~今度の依頼は国再建! 異世界バーガーで追放勇者を弟子にしました~  作者: おっさん5963
第八章 戦略物資はテリヤキバーガー! ジャンクフードが世界をつなぐ

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第七十六話 んっはぁ~風呂上りはこれ

泥とヨダレを洗い流し、湯船から上がった。


大きな湯船にたっぷりと張られた熱い湯は、犬たちの猛攻によって

土まみれになっていた俺の体をじんわりと温め、

強張った筋肉をゆっくりと解きほぐしてくれた。

ゆっくり休んでいる暇はねえが、体だけはさっぱりした。


バスタオルで全身を乱暴に拭いながら、俺は脱衣所の鏡に映る

己の姿を見つめた。シオリがあれだけ時間をかけて心を込めて

仕立ててくれた貴族風の豪奢な正装は、見る影もなく

土とヨダレのシミでドロドロになり、洗濯カゴの底へ放り込まれている。


せっかくの職人の技を台無しにしてしまった申し訳なさと、

あまりの窮屈さから解放された安堵感が、同時に胸の内に

湧き上がってくる。


脱衣所で、あの巻き毛の牛の牛乳を飲む。


「んっはぁ~風呂上りはこれに限る」


木製のベンチに深く腰掛け、一気に喉へと流し込んだ。あのおかしな、

牛と羊を足して3で割ったうちの2みたいなフォルムをした巨体から

搾られたという牛乳は、地球の一般的なそれとは比べものにならないほど

濃厚だった。


濃厚なコクが五臓六腑に染み渡っていく。舌の上に残るまろやかな甘みと、

生クリームのようでありながらも後味がすっきりとしたその味わいは、

疲弊した脳を一瞬で覚醒させてくれるような驚きがあった。


「あのおかしな牛の牛乳、うまいな……。チーズ作ろう、そのうち」


こっちのチーズは硬いからな。

石炭のように硬い保存食が当たり前のこの世界において、

もしも水分を適度に残した、あの日本の居酒屋で出てくるような

トロリととろけるチーズや、濃厚なモッツァレラのようなものが作れたら、

一体どれほどのうねりを生むだろうか。


現場の職人としての創作意欲が、牛乳を飲み干すのと同時に次々と

頭の中に湧き上がってくる。

しかし、そんな美味に浸る時間は長くは続かなかった。


ジリリ……。


置いていた木箱から、魔力の駆動音が響いた。静かな脱衣所に、

カチカチと歯車が噛み合うような駆動音が響き渡り、

小さなノイズが混ざり合う。手のひらサイズの小さな木製の箱、

双方向通信機から、聞き覚えのある凛とした女性の声がはっきりと

聞こえてきた。


『おじさん、聞こえる? ルナリアよ。使節団の視察が一段落したわ』


「おう、ルナリアか」


俺は通信機を耳に近づけ、無骨な声を返す。


『さっきのおじさんの話を半信疑で聞いていた役人たち、

実際の車両の仕組みをのぞき込んで、本当だったと理解して驚きを通り越して

呆然としてるわ。辺境伯も、今すぐ中庭で今後の実務の詰めを行いたいって』


「お、すぐ行く」


通信を切り、俺は全裸の己の姿を見下ろした。前もこんなことが

あったな。ここへ放り出された時も、確かこんな姿だった。


異世界の何もない場所に身一つで放り出され、

ただただ困惑していたあの始まりの日の感覚が、一瞬だけ脳裏をよぎる。

どうやら俺は、風呂で呼び出される運命らしい。


まったく、一国の使節団を相手にする、これほど落ち着かない

商談が他にあるだろうか。だが、現場の状況は刻一刻と動いており、

待ってはくれない。急いでいつもの着慣れた作業着に袖を通し、

俺は中庭へと向かった。


フリルや刺繍だらけの貴族の服なんかよりも、着慣れた作業着のほうが、

どれだけ落ち着くことか。


魔王城の重厚な回廊を抜け、外へと足を踏み出すと、

夕暮れの光が差し込む中庭が広がっていた。

そこには、出番を待つ何十台もの新型の大容量連結魔導荷車と大型客車が、

圧倒的な数で整然と並び立っている。


並ぶ魔導荷車の向こうには、すでに辺境伯とルナリア、そしてゼフェルの

姿がある。役人たちは未だに車輪の構造をのぞき込んだり、木材の継ぎ目を

手で触ったりして、何やら必死に意見を交わしていた。


八起の書いた図面をそのまま再現し、各地のあぶれた職人たちが

仕上げた部品で組み上げた車両群。他国の役人たちにとっては、

一朝一夕で真似できるはずもない未知のオーバーテクノロジー

そのものだろう。彼らの驚愕と興奮が、中庭のざわめきとなって響いていた。


「お待たせした、辺境伯。ずいぶんと熱心に見てくれてたみたいだな」


俺が声をかけると、辺境伯はゆっくりと振り返り、俺の作業着姿を見て、

フッと口元を緩めた。先ほどまでの豪奢なジャケット姿から一転し、

いつもの着古した格好に戻った俺を見て、何かを察したのかもしれない。


だが、その目には先ほどの応接室での商談よりも、

さらに深い敬意の光が宿っていた。


「いや、実に有意義な視察であった。これが一流の職人の手によるものではなく、

生活に苦しむ民たちが分業で仕上げたものだとは、到底信じがたい。

我が国の役人たちも、常識をひっくり返されて言葉を失っている」


「図面と規格さえきっちり揃えてやりゃ、組むのはわけねえ。

経験の有無なんてのは、道具と仕組みでどうにでもカバーできるもんだ」


俺が荷車の荷台に視線をやると、ゼフェルが誇らしげに顎を引いて

大きく頷いた。

お調子者の軍師ではあるが、内政の実務に関しては実に頼りになる男だ。

彼が俺の言葉の意図を完全に理解していることが、その表情から伝わってくる。


「では八起殿、今日最後の打ち合わせを始めよう。これほど見事な魔導荷車を

ただ眺めているだけでは時間がもったいない。具体的な運用のルールを詰めたい」


辺境伯の目が、鋭いビジネスの光を帯びる。これだけの数の車両をただ国境に

走らせるだけじゃなく、その先にある効率的な運用のノウハウがなければ、

せっかくのインフラもただの宝の持ち腐れだ。


現場を預かる俺としても、ここからが本当の本番だと気を引き締める。

そう遠くない未来に想いをはせながら、ずらりと並ぶ荷車の列を見据えた。

ブックマークいただきました!本当に気に入って貰えて嬉しいです。ありがとうございました。

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