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50歳の何でも屋、セカンドライフは魔王城~今度の依頼は国再建! 異世界バーガーで追放勇者を弟子にしました~  作者: おっさん5963
第八章 戦略物資はテリヤキバーガー! ジャンクフードが世界をつなぐ

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第七十二話 戦略物資です

卓上を支配する沈黙の中、辺境伯はゆっくりと目を開き、

空になったコップを見つめた。その視線には、一国の重鎮としての

鋭い光が戻っている。


俺は窮屈なジャケットの袖を軽く引っ張りながら、彼らに向けて

言葉を投げかけた。


「すぐに始めますか? それとも少し休憩されますか?

……あるいは、おかわりをされますか?」


俺の問いかけに、辺境伯の隣に座る役人たちの耳がピクリと跳ね、

ナプキンを握る手が微かに震えた。だが、辺境伯はそれを手で制し、

静かに首を横に振る。


「……いや、不要だ。八起殿、我が腹はすでに胃袋ごと

掴まれた。これ以上の猶予は、我が国の官僚たちの理性を完全に

破壊しかねん」


辺境伯は自嘲気味に口元を歪めると、傍らに置いていた

上質な革の筒から、金色の紐で縛られた一巻の羊皮紙を取り出した。

隣国の王の親書だ。


「ゼフェル殿の言う通りだ。我が王もまた、この『食』が持つ

恐るべき価値を即座に見抜かれた。だが、見抜いたからこそ、

これはただの商売では済まされんのだ」


辺境伯が親書を長机の上に厳かに置く。

俺は懐から手慣れた動作で双方向通信機を取り出し、

ボソリと呟いた。


「――こちら八起。応接室に冷たい炭酸水をもう一杯ずつ頼む」


通信機をポケットに放り込み、俺は隣で控える男に視線を向け、

短く顎をしゃくった。


「ゼフェル、頼む」


俺の声に応じるように、背もたれに体重を預けて完全に気配を消す。

ここから先は、数字と法律、そして国家間のパワーバランスが

うごめく領域だ。俺のような現場上がりの職人が口を挟むより、

餅は餅屋に任せるのが一番いい。


「畏まりました、八起殿」


ゼフェルが完璧な礼を尽くし、一歩前に出た。その端正な顔立ちには、

先ほどまでのお調子者の気配など微塵も残っていない。


俺が小さく頷くと、ゼフェルはその無言の許可を背中で受け止め、

魔王国の頭脳としての冷徹な光を宿した。


「レオンハルト殿、我が主が提案しているのは、

あくまで貴国の民の飢えを癒やし、新たな富を生み出すための

流通インフラです。

それが『ただの商売で済まぬ』とは、具体的にどのような

懸念でしょうか?」


辺境伯は机の上の親書を指先でトントンと叩き、低い声を響かせる。


「言葉の通りだ、軍師殿。このバーガー、あるいはポテトと黒い飲料。

これらはすべて、既存の保存食の概念を根底から覆している。

時間停止の魔導通い箱、炭酸を閉じ込める魔術樽――これらが

合わされば、どうなる?」


辺境伯の鋭い眼光が、ゼフェルを射抜く。


「前線で戦う兵士たちに、常に最高状態の、極めて栄養価の高い

食料を大量に、かつ迅速に補給し続けることが可能になる。……

これはもはや、ただの料理ではない。大陸の戦争の常識を塗り替える

『戦略物資』だ」


部屋の扉が静かに開き、再びテオたちが冷えた炭酸水の入った

ガラスコップを運んできた。役人たちがごくりと喉を鳴らす中、

辺境伯はそのコップに目を落としながら言葉を続ける。


「我が国の王が懸念されているのは、この物流網が、

魔王国による我が国内への『経済的・軍事的な侵略の足がかり』に

なるのではないか、という点だ。

この圧倒的な利便性に我が国の民が依存した時、

我が国は魔王の意思一つで干上がることになる」


さすがは一国の王とその重臣だ。ただ美味い美味いと食うだけでなく、

その裏にある物流インフラの真の恐ろしさにまで一発で

行き着いてやがる。


だが、ゼフェルはそんな辺境伯の追及に対しても、眉一つ動かさずに

ふっと微笑んだ。


「なるほど、実に見事な洞察です、レオンハルト殿。……ですが、

それは大きな誤解です。我が主が目指しているのは、我が国による

独占ではありません。むしろその逆です」


ゼフェルは長机に両手を突き、使節団の面々を一人ずつ見据えた。


「先ほど中庭でご覧いただいた大量の車両、あれらを製造し、

維持管理し、魔力を補充する『製造・整備ギルド』を、

我々は貴国の領地内にも設立する計画です。さらに、です――」


ゼフェルは俺が先ほど使った通信機を、美しい指先で軽く指し示した。


「先ほど我が主が使ったこの『双方向通信機』。これの管理・運用に

ついても、貴国に設立するギルドへ端末そのものを無償で『貸与』し、

共同で運用する手筈を整えます。我が国の魔力ネットワークを貴国へも

一部開放し、物流の遅延や事故を防ぐための連絡網としてのみ

使用を許可する。つまり――」


軍師の唇が、滑らかに、かつ力強く弧を描いた。


「物流の拠点を動かし、その現場で通信を預かるのは、

我が国の兵ではなく、貴国のあぶれた民や職人たちです。

インフラの実務を握るのは貴国自身。我が国はただ、

原材料と通信のインフラを維持し、供給元として機能するに過ぎません。

これでもまだ、我が主が侵略を企てているとお疑いになりますか?」


辺境伯の呼吸が、わずかに止まった。


ノウハウの流出は防ぎつつも、共同運用という形で通信の利便性

そのものを他国へ分け与えるという、魔王国の懐の深さと合理的な提案。

使節団の役人たちは一斉に顔を見合わせ、言葉を失って硬直していた。

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