第六十五話 よ、予定...どおりです
ガウラが犬の群れを引き連れて戻ってきた後、
俺は大食堂の片付けをしていたシオリへと向き直った。
「シオリ。ガウラが外にモフモフの犬どもを数頭連れてきてる。
出発する前に腹いっぱい食えるだけのメシを用意してやってくれねえか」
「あら、ワンちゃんたちですかぁ? そんなにたくさん……。
はいですねぇ、それじゃあお肉を山盛りにして、美味しく食べてもらいますぅ」
シオリは間延びした声で嬉しそうに頷き、アラクネの細い指先で
器用に大皿を重ねていく。
「おう、これから山を越えて牛の群れを追い立ててもらう、
大事な仕事の仲間だからな。まずはたらふく飯を食わせて、
胃袋を掴んでおくのが現場の基本だ。肉の手配は倉庫の
在庫を使って構わねえからな」
「はいですぅ。ワンちゃんたちが元気に走れるように、
とびきりジューシーなところを仕度しますねぇ」
シオリの返答を聞き届け、俺は大食堂を後にした。
まずはたらふく飯を食わせてやる。これが俺のインフラの基本だ。
ガウラに率いられた犬たちが大盛りの肉を力強く平らげ、
満足そうに荒野の彼方へと出発していくのを見届けた後、
俺は城下町の求職所の視察を兼ねて、魔王城の裏手に広がる
荒野の畑へ様子を見に行くことにした。
ガルードの作った求職所には、内職の割り当てや組み立ての
仕事を求める人々が列を作っており、窓口がうまく回っているのを
確認できた。
そのまま、大城壁の重い門を抜けて外へと足を運ぶ。
だが、大城壁を抜けて目指す場所にたどり着いた瞬間、
俺の足は完全に止まった。
「……………………」
声が出ねえ。
荒野がねえ。
そこにあったはずの、石ころだらけの乾いた茶色い大地が、
跡形もなく消え失せていた。
目の前に広がっていたのは、黒々とした豊かな土がどこまでも
続く、見渡す限りの広大な農地だ。
美しく整えられた畝の波が地平線まで並ぶその中を、
大きな影が忙しなく動いている。作業機として生まれ変わった
ギガント改だ。
地響きを立てて停止した重機の運転席から、一人の少年が勢いよく
飛び降り、こちらに向かって泥を跳ね上げながら猛ダッシュで
駆け寄ってきた。
「あ、八起さん! すみません、ギガントを動かすのが楽しくて、
つい夢中になってここまで広げちゃいました……」
最年長のテオが、申し訳なさそうに俺の顔を見上げながら、
がっくりと肩を落とす。
「いや、謝ることじゃねえよ」
俺は唖然とした顔のまま、テオの頭をクシャッと大いに褒めるように
撫で回した。
「これだけの広さを耕しちまうとはな。一人でやれば何ヶ月かかるか
分からない大開墾だぞ。これだけの手間を
一瞬で省いてくれたんだから、親方としては万々歳だ。むしろ助かった。
よくやったぞ、テオ」
「へへ、ありがとうございます! ギガント、本当にすごいスピードで
土がひっくり返るから、面白くて」
テオは嬉しそうに顔を綻ばせる。だが、この広さを眺めているうちに、
俺は腕を組んでふと考え込んだ。
これだけの規模になると、いくらテオがしっかりしているとはいえ、
城の子供たちだけで農作しきれるレベルを遥かに超えている。
「よし。さっき見た求職所に、この畑で働くための人間を新しく
募集して雇うことにする。これからは地元の大人たちの手も借りて、
この大農地を回していくぞ」
「はい! 大勢の人が来てくれたら、すっごく賑やかになりますね!」
テオが元気よく頷く。俺はポケットから紙を取り出し、
黒い土を踏みしめながら次なる作物の構想を練り始めた。
「さて、トマト、ピーマン、長ネギ……」
年間を通して春のように穏やかなこの気候と、アイアンウッドの技術、
そしてギガントが耕したこの土壌があれば、なんでも作れそうだ。
地球の瑞々しい野菜の数々が魔王国の主食と並ぶ日を想像し、
俺はフッと職人の笑みを浮かべた。




