第六十四話 相変わらずだな……
ガルードの素早い働きによって、城下町の一角に
新たな求職所が設置された。
通信機の内職の割り振りや、新型車両の組み立て人員の募集。
生活の土台を求める大勢の人間たちが、早くもその窓口へと
殺到し始めている。
各地のあぶれた職人たちから買い取る部品の受付窓口は、
俺の指示で魔王城の受付に設置されることになった。
そんな報告を大食堂で受けていた俺は、
隣に立つゼフェルを見据える。
「ゼフェル。お前も知っての通り、俺はこういう国の政治や
難しい手続きには疎い。手続きや役所の管理は、
引き続きお前に丸投げするが頼んでもいいか?」
俺がいつものように無骨に笑いながら言うと、
ゼフェルは即座にその顔を両手で覆った。
彼の瞳から、またしても大粒の涙がハラハラと流れ落ちる。
「おお……八起殿……! なんという深い信頼……!
この私に内政の全権を委ねることで、王としての器の大きさを
示されるとは……。我が命に代えても、必ずやその深謀遠慮
にお応えしてみせます……っ!」
過剰崇拝がいつものように大爆走を始め、激しく肩を震わせる。
「いや、ただの手続きの丸投げだ。泣くようなことじゃねえよ。
求職所の役人の手配や、城の受付での部品の検品基準、
そのあたりの書類仕事はお前が一番得意だろ。」
「ハッ! すでに城下町の主要な名主たちへは触れを出し、
不正が出ぬよう二重の監査体制を整えさせております!」
涙を拭ったゼフェルは、一瞬で魔王国の次席にふさわしい、
隙のない官僚の顔に戻って書類を整理し始めた。
ポンコツなところはあるが、こういう実務に関しては、
やはり俺なんかより遥かに頭が回る。
(相変わらずだな……)
俺が胸の中で深くため息をついた、その時だった。
城の裏庭のほうから、地響きのような激しい騒音と、
何かが吠え立てる賑やかな声が響いてくる。
「あん? なんだ、今度は裏庭が騒がしいな。……ガウラの奴、
もう戻ってきたのか?」
長机から腰を浮かせ、俺とゼフェル、そしてルナリアの三人で
裏庭の広場へと外に出てみる。
土煙の向こうにいたのは、やはりあの巨大な白い魔獣に
跨がったガウラだった。
だが、今回はそれだけじゃなかった。
彼女の周囲には、数頭の同じような犬が、尻尾をぶんぶんと
振りながら群がっているのだ。
「ボス! ただいま戻ったぞ!」
ガウラが白い巨体の背中から身軽に飛び降りてくる。
連れてこられた奴らは、大人が跨がって乗れる
くらいの大きさの白い魔獣だった。
モフモフした質感といい、人懐っこい顔といい、
ここはもう犬ということにしておこう。
「おいおい、ガウラ。お前、その犬どもをこれから食べるつもりで
連れてきたんじゃねえだろうな?」
「違うっ! この子たちはあたしの最初の友達の、仲間だ!」
ガウラはフンスと鼻を鳴らし、自分のふさふさとした大きな狼の
尻尾をちぎれんばかりに振り回しながら、得意げに胸を叩く。
「山を一つ向こうに超えた草原に、ボスが言ってた条件に
ぴったり合うデカい動物がたくさんいるんだって! この子たちの
話を聞くと、肉も乳もいっぱい獲れる牛みたいなやつで、
すごく繁殖力も高いんだぞ!」
「牛の群れ、ねえ……。だがガウラ、いくら群れがいると分かっても、
狩りに行く人手が足りねえぞ。毎回遠征させるわけにもいかねえしなぁ」
俺が腕を組んで現実的な仕入れの難しさを口にすると、
ガウラは犬たちの頭を交互に撫でながら、ニヤリと鼻を鳴らした。
「だから、この子たちと約束したんだぞ! あたしたちが定期的に
美味しい食べ物をあげる代わりに、この犬たちがその群れを、
ここまで順番に追い立てて連れてきてくれるって! だからこいつら、
あたしの大事な部下になった!」
「なるほど、お前が犬の親分になったわけか」
野生のネットワークと物々交換。これならこちらから危険な荒野を
捜索しなくても、食材の仕入れルートが勝手に構築される。
「相変わらずだな、ガウラ。最高の仕事だ、褒めてやるぞ」
俺が彼女の頭を撫でると、ガウラは今日一番の
弾けるような笑顔を見せた。
仕入れ、雇用、通信、精度、そして治安。魔王国の土台が、
すべての現場から同時に、力強く耕されようとしていた。




