第六十三話 ガルード……欲しがりめ
大食堂の長机の上で、車両の部品調達に関する書き付けを
眺めていたガルードが、ふと悪戯が成功した子供
のような顔でニヤリと笑った。
彼は上等な絹の服の袖をまくり上げ、身を乗り出してくる。
「八起殿、ここで以前のお話を……。ほら、あれですよ、あれ。
なんと言いましたか、遠く離れた場所と会話ができるやつ」
「ああ、思い出した。無線機のことか」
「それです、無線機ですよ! あれも組合員には絶対に必要
です。発注するまでに時間はかけられないですからな」
ガルードの言葉に、俺は深く頷いた。
「おう、発注システムあってこその今回の店舗展開だからな。
手紙を馬に持たせて何日も待つなんてやり方じゃ、
せっかくの新鮮な食材が届く前に腐っちまう」
店でどのマヨソースが足りないか、バンズをあと何個運ぶべき
か。それを各地の商人が即座に魔王城へ伝えるための、通信網の
確立だ。
「問題は、どのくらい数が必要になるかだな」
俺は新しい紙を引っ張り出し、耳に挟んでいた鉛筆を手に取る。
「まずは今回の試食会に集まった、第一陣の商人組合の連中の
分だ。それから、街道を走る魔導荷車の護衛ギルドにも、
緊急連絡用に持たせなきゃならねえ」
「となれば、かなりの数になりますな。……八起殿、製造の
方は大丈夫ですかな?」
ガルードが心配そうに俺の顔を覗き込んできたが、俺は無骨に
ニヤリと笑ってみせた。
「心配すんな。あれは構造自体は単純で、ほんの少しの魔力さえ
あれば誰でも作動する。外枠の切り出しや簡単な組み立てなら
城下町にいる奥さん方や、怪我なんかで外出が困難な連中に、
家でできる内職として仕事を回してやれるさ。これで製造の
スピードは一気に跳ね上がるぞ」
「内職、ですか……! 家から出られぬ者たちにまで、まっとう
な現金収入の機会を与えるというわけですか」
「おう、ただの箱を組み立てるだけなら、特別な腕もいらねえ。
材料を配って、出来上がった分だけ魔王城の窓口で買い取る。
これなら家から出られねえ連中だって、自分の手で食い扶持を
稼げるだろ」
ガルードは服の袖をさらに捲り上げ、じっと手元の図面を
見つめている。
「しかし、八起殿。家から出られぬ者たちにその材料をどうやって
配り、どうやって回収するおつもりですか? それだけの数を
城下町中から集めるとなれば、城の役人だけでは手が足りぬでしょう」
「そこは、お前らの商会のネットワークを使うんだよ」
俺は鉛筆の尻でガルードの胸元をトントンと指し示した。
「各地の店舗へ食材を届ける帰り道だ。空になった馬車を使い、
城下町の回収拠点から、出来上がった内職の部品を載せて
魔王城へ持ち帰らせる。物流の往復便ってやつさ。
空荷で走らせるほど無駄なもんはねえからな」
ガルードは脂の乗った顔を感嘆に歪め、ポンと膝を叩いた。
「なるほど……! 配送の帰りの便を利用するわけですか!
それならば、我が商会の馬車の手間も最小限で済みますな。
いやはや、八起殿の考える仕組みには、本当に一切の
無駄がない」
「現場を回すには、これくらい泥臭く計算しなきゃならねえ。
内職の報酬の計算や割り振りは、城下町の求職所に窓口を
作って、そこにガルードの代理人を立たせてくれ」
「承知いたしました。すぐにでも信頼の置ける番頭を
手配しましょう。これで城下町の困窮した家庭も、
一気に息を吹き返しますな」
ガルードは満足そうに深く頷き、これからの巨大な商売の段取りに
胸を躍らせているようだった。
魔王国の流通、雇用、そして通信。地球の多種多様な現場で見てきた
知恵を異世界の現状へと応用した、大人の再建計画が、さらにその
密度を増していく。
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