第六十二話 想像を超えた所にある宝
魔王城の裏手にある広場から、ガウラを乗せた白い巨体が
あっという間に荒野の彼方へと爆走していった。
その見事な爆走っぷりを見届け、
俺は手元の書き付けを真剣に睨みつけた。
ガウラが食用魔獣の生息地を見つけてくれば、仕入れの目処は立つ。
だが、店が増え、さらに城下町へ人員が流入してくるとなれば、
次の問題が嫌でも頭をもたげてくる。
(車両の数が、圧倒的に足りねえな……)
各地へ食材を運ぶ大容量連結魔導荷車に、
人員を運ぶ多人数用連結魔導客車。
俺が一人でコツコツ組み立てていたんじゃ、これからの爆発的な
需要には絶対に追いつかねえ。
とはいえ、素人にすべての連結車両を組み立てさせるのも無理がある。
特殊な浮力を生み出す床板の魔力調整や配置は、
やはり俺が付きっきりでやるしかなかった。
「ルナリア、ちょっとガルードを呼び戻してくれ。大至急、相談したいことがある」
俺が広場の脇にある作業場のベンチから声をかけると、
隣に控えていた秘書官が小さく目を見開く。
だが、すぐに「分かりました」と毅然とした態度で城内へと戻っていった。
数時間後、大食堂の一角で、俺は呼び戻したガルードの前に
新しい書き付けを広げていた。
「八起殿、車両の製造を各地の食い詰めている者たちに任せるという話
でしたが……。そんな特殊な荷車、素人に作らせるのは流石に無茶ではないでしょうか?」
ガルードが不安げに尋ねる。俺は首を横に振った。
「丸ごと作らせるわけじゃねえよ。車両の外枠になる木材の加工や、
補強用の鉄金具、座席のクッションなんかを規格化して、
各地のあぶれた人間たちに部品として作らせるんだ」
「部品、ですか……? 組み立てさせるのではなくて?」
「おう。それぞれの場所で単純な部品だけを作らせて、一斉に買い取る。
それをこの魔王城に集めるんだ。城下町から組み立ての人員を募集して、
俺が横で指示を出しながら一気に仕上げる。これなら品質も安定するし、
製造のスピードは何倍にも跳ね上がる」
ガルードは脂の乗った顔を近づけ、図面の寸法を凝視した。
「なるほど。これなら高度な魔力調整を知らぬ素人でも、指示された通りの
形に木を削り、鉄を叩くだけで仕事になりますな。しかし八起殿、
各地の職人や食い詰めた者が、本当にこちらの求める通りの寸法で
部品を作ってきますかな? 少しでもズレれば組み合わなくなりますぞ」
「だから『型紙』と『寸法を測る固定の治具』をこっちで用意して、
部品と一緒に各地へ配るんだよ」
俺は鉛筆の尻で図面の端をトントンと叩いた。
「この枠にぴったり嵌まるように作れ、ってな。職人の勘に頼るんじゃねえ、
誰が作っても同じサイズになる仕組みをこっちが提供する。お前が連れてきた
商人どもの手で、各地の職人へその型をばら撒いてくれ」
ガルードの目が、一瞬で鋭い商人の光を帯び確信をもって何度も力強く頷いた。
「素晴らしい……! 各地に手軽な雇用を生み出しつつ、最終的な完成は
魔王城の仕事場で一括管理するわけですな。さらに、集まった人間たちをそのまま
『製造・整備ギルド』として組織化すれば……」
「おう。車両は商人たちに貸し出すインフラだ。作って終わりじゃねえ。
走らせれば定期的なメンテナンスが必要になる。部品を作った連中には、
今度はその整備の技術を叩き込んで、終身雇用を保証してやるんだよ」
ガルードは満足そうに深く息を吐き、これからの巨大な商売の段取りに
胸を躍らせているようだった。
ただ車両を増やすだけでなく、維持管理のインフラそのものを強固な経済圏に
変えていく大人のやり方だ。
魔王国の大食堂で、俺とガルードの二人は書き付けを挟み、
この世界に新たな仕組みを立ち上げるための具体的な段取りについて、
さらに深く言葉を交わし始めるのだった。




