第六十話 ギガント再び
大試食会が終わり、大食堂は商人たちの熱気に満ちた
懇談会の場へと移っていった。
「別の味を作っても良さそうですな」
「具材も研究しがいがありますぞ」
ガルードを筆頭に、男たちがこれからの商機について皿を囲み
ながら激しく意見を交わしている。
その賑わいから静かに席を外した俺は、厨房の勝手口の近くで
片付けをしていたテオの姿を見つけ、声をかけた。
「テオ、ちょっといいか」
「あ、八起さん。はい、なんですか?」
テオは手を止め、真っ直ぐな目をこちらに向ける。
妹のリナはまだ幼いため、テオは妹を一人でおいて宿場町への
出店に参加するわけにはいかなかった。そのため、自ら城に残り、
さらに幼い子供たちの世話役をかって出ていたのだ。
「どうだ城の生活は本当ならテオに店任せたかったんだが
他の子たちに譲るとはな。お前には、これから自立に向けて
もっと色んな経験を積ませたいと考えてる。
いつまでもここで小さなガキどもの面倒
ばかり見てるわけにもいかねえだろ」
「え……? でも、みんなの面倒は……」
「これからは大人をたくさん雇い入れる。幼い子供たちの世話は
その大人たちに任せりゃいいんだよ」
俺はテオの肩に手を置き、食堂の窓から見える広大な裏手の
荒野へと視線を向けた。
「これからの計画じゃ、店が増える分だけ大量の作物の生産量が
必要になる。そこでだ、テオ。お前にあのギガントを使って、
耕作地を広げる開墾計画の責任者を任せたい」
「僕が……ギガントの責任者、ですか……!?」
テオの瞳が驚きで大きく見開かれた。
あの超巨大な重機に『ギガント』という名前をつけたのは、
他でもないテオだ。
だからこそ、俺はこの大役には彼がうってつけだと考えていた。
「安心しろ。ルナリアにあの超絶格好良い改造をこっぴどく
怒られたからな。二足歩行の変形機構と、あの無駄な擬似飛行
能力は綺麗に封印してある」
「あはは……ルナリア様、本当に凄く怒ってましたもんね」
「ああ、怖かったよなぁ、美人が怒るとあんなに怖いものだと
知らなかった。追加の美容液で機嫌取れたから良かったが
正座させられたからなぁ」
「だから今は、普通の魔力量でも安全にトラクターや
作業機として動かせるように、中身をきっちり改良しておいた。
これならお前でも荒野をゴリゴリ耕せるぞ」
テオはぎゅっと拳を握りしめ、覚悟を決めたように力強く
頷いた。
「やらせてください、八起さん! 僕、ギガントと一緒に、
この国の未来をたくさん耕してみせます!」
「頼んだぞ。お前がこの国の胃袋を支える立役者だ」
俺はテオの頭をクシャッと撫で、再び動き出す巨大な重機の
姿を頭に思い描いた。
魔王国の再建は、大人の商売だけでなく、次世代を担う若き
者たちの手によって、その大いなる大地の底から力強く動き出そう
としていた。




