第五十九話 第二回大試食会
宿場町の『ワクワクバーガー』開店から数日後。
魔王城へ戻った八起達は城内にある大食堂にいた。
ガルードが出店を希望する数人の商人たちを連れて
やって来る日だ。
「ガルード様ぁ、ご到着ですぅ」
連れて来られたのは、いずれもガルードが厳選した、
領内でも特に信頼の置ける有力な商人たちだ。
彼らは魔王城の壮麗な佇まいや、俺の無骨な作業着姿に
少し緊張した面持ちで、長机を囲んで並んでいる。
「話はガルードさんから聞いていると思う」
腕を組んで商人たちの顔を順番に見渡した。
「今日は、提供する商品の説明を兼ねた試食会だ。まずは、
これから各地で展開してもらう店の味を、その舌で確かめて
もらいたい」
俺は食堂の隅で控えていたシオリに、スッと目で合図を送った。
シオリは「はいですぅ」と間延びした声で小さく一礼する。
直後、大食堂の厨房の扉が開き、魔王城の子供たちが一斉に
中へと入ってきた。
子供たちはそれぞれ、出来立ての料理が載ったトレイを恭しく
抱え、商人たちの前の長机へと手際よく運んでいく。
「トレイに載っているのが『テリヤキバーガー』と、細切りの
『フライドポテト』、そして特製シロップを炭酸水で割った
『コーラ』と『ジンジャーエール』だ」
目の前に並んだ、見たこともないジャンクフードに、
商人たちがゴクリと喉を鳴らした。
「ポテトの横にあるのは、味を変えるための特製ソースと
マヨネーズ各種だ。通常の純正マヨのほかに、刺激の強い
唐辛子マヨ、鼻に抜けるわさびマヨ、濃厚なタラコマヨ、
解禁されたメンタイマヨを用意した。好きに組み合わせてくれ」
俺が手を差し伸べると、商人たちは貪るようにバーガーに
かぶりつき、シュワシュワと泡立つ炭酸水を一気に喉へと
流し込んだ。
至る所から、言葉にならない驚嘆の吐息が漏れ始める。
「食べていただきながら質問を受け付けます」
ルナリアが毅然とした一店員の態度から、本来の秘書官としての
冷静な声へと切り替えて商人たちに告げた。
一人の老商人が、タラコマヨをつけたポテトを口に運びながら、
震える声で手を挙げた。
「八起殿、この味、この衝撃……間違いなく天下を獲れる。
だが、我々のような個人の商人が、これほど高品質な食材や
マヨソースを常に切らさず調達することなど可能なのか?」
「そこは心配いらねえよ」
俺は腕を組み、集まった商人たち全員を安心させるように、
低く頼りがいのある声で笑ってみせた。
「大豆や生乳、大量の生肉といった原材料を、店舗側で調達して
持ち込む必要はねえ。すべてこの魔王城が責任を持って一括生産し、
完成品として各地の店舗へ出荷・供給することをお約束する」
「今後、店が増えて増産が必要になった場合は、ここから直接
運ぶだけじゃ追いつかせねえ。その時は、各地への輸送の都合が
良い中継場所に、専用の生産工場を新たに建設する予定だ」
ガルードがその言葉を引き継ぎ、脂の乗った顔をニヤリと
綻ばせる。
「つまり、我々商人は販売と現地の店舗運営だけに集中すれば
いいというわけだ。輸送のリスクも、食材の劣化も、すべて
八起殿のインフラが保証してくださる」
商人たちの目に、一斉にギラリとした商機の色が灯った。
この圧倒的な美味、そして完璧に計算された供給体制。
彼らはこれが、ただの飲食店の枠を超えた、巨大な経済の
地殻変動だと確信したのだ。
魔王国の大食堂から人間の商人たちを巻き込んで、
この世界に新たな仕組みが出来上がろうとしていた。




