第五十八話 魔王国再建計画始動!
勇者一行を乗せた馬車を見送った翌日。
開店前のジャンクフード店には、子供たちが全員、
緊張した面持ちで一列に整列していた。
その前で、俺はポケットに両手を突っ込み
彼らの顔を順番に見渡す。
魔王城で共に苦楽を乗り越え、調理や接客の訓練を
積んできた自慢のガキどもだ。
全員が清潔なエプロンを身につけ、背筋をピシッと伸ばしている。
「みんな、この一週間よく頑張ったな。店も落ち着いてきて、
安定的な売上も出せるようになってきた」
俺の言葉に、子供たちが小さく肩を揺らし、
互いに顔を見合わせてはにかんだ。
「ここはもう、ただの雨風をしのぐ場所じゃねえ。みんなの
家であり、自分たちの手でお金を稼ぐ立派な職場だ」
俺はふっと視線を落とし、それからまた全員の目を見据える。
耳に挟んだ鉛筆の位置を少しだけ直した。
「だからこそ、お前らが独り立ちする時が来た。――ここで、
俺たちは一度、魔王城に戻ることにする」
厨房が一瞬、静まり返った。
背後で控えていたルナリアが、何も言わずに子供たちを
温かい目で見守っている。
「寂しがることはねえよ。君たちなら、自分たちの力で
しっかりやっていける。それに、お別れするわけじゃねえからな。
バンズやマヨソースの納品には、定期的に俺がちゃんと来るさ」
俺がにべもなく笑うと、子供たちの顔にようやく安堵の色が戻った。
最年長組の少年が、エプロンの裾をぎゅっと握りしめて前に出る。
「それでだ。今日からは、ここはお前らの店だ。自分たちの
物になったお店に、新しく名前をつけてもらいたい。
何か、いい名前は考えてあるか?」
俺が問いかけると、子供たちは一斉に声を弾ませ、
一人の少年の背中をポンと押した。
押されて前に出た少年は、緊張で喉を大きく上下させながらも、
真っ直ぐな瞳で俺を見上げてきた。
「『ワクワクバーガー』! これが、僕たちのお店の名前です!」
「ワクワクバーガー、ねえ」
俺が腕を組んでその名前を口ずさむと、少年は一歩踏み出し、
熱のこもった声で理由を語り始めた。
「お腹がすいて、毎日が辛くて仕方がなかった時……。
八起さんが『これからは毎日ご飯が食べられるし、みんなを雇う』って、
そう言ってくれたんです。その時、すごく嬉しくて……
これからこの国で、ワクワクすることがたくさん待ってるんだって
思いました」
少年の後ろで、他の子供たちも健気にコクコクと何度も
首を縦に振っている。
「だから、この店に来てくれるお客さんも、ここで働く僕たちも、
みんなが元気にワクワクできるお店にしたいんです!」
小さな体に秘められた、力強い決意。
その言葉を聞いた瞬間、背後にいたルナリアが、目元を熱くしたように
そっと顔を背けた。
子供たちが、今、自分たちの足で未来を掴もうとしている。
「おう! いい名前だ、任せたぞみんな」
俺は少年の頭をパシッと叩き、豪快に笑ってみせた。
「これからは、ガルードさんがお金の計算とか難しいことを
やってくれる優秀な人を店に置いてくれる。だからお前らは、
自分たちにできる仕事を精一杯、頑張るんだぞ」
俺は腰を落とし、子供たちと同じ目線になる。
「いいか。これからお前らの働く姿を見て、同じような境遇の
子供たちがたくさん希望を持てるようになるんだ。
お前らがその先頭に立つんだぞ」
「はいっ! 八起さん!」
子供たちが、これまでにないほど晴れやかな笑顔で、
元気いっぱいに返事をした。
「俺もかならず、お前ら全員が生活しやすい国にするからな」
異世界に裸一貫で召喚されてから、1年3ヶ月。
何でも屋の意地にかけて、俺はこの世界の仕組みを
大人の商売で作り変えてみせる。
「君たちが、この国再建の第一歩だ」
子供たちの歓声が、朝の厨房に響き渡る。
魔王国の未来を担う宝たちが、自らの手で掴み取った
『ワクワクバーガー』の看板を掲げ、大いなる国再建計画が
いよいよ本格的に始動した。
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