第五十七話 勇者の決意
厨房の張り詰めた空気の中、俺は腕を組み、
正面の4人を真っ直ぐに見据えた。
自分の正体は地球人であること。
召喚前は新潟で何でも屋を営んでいたこと。
そして今、この国の現魔王(仮)として立っていること。
すべてを明かされたコウタロウは、ただ頭を抱えて
激しく混乱していた。
世界を救うために召喚された勇者、自分が忘れかけた
故郷の味を作りだし、路地裏の子供たちを救う
仕組みを作った男が、討伐対象であるはずの
『魔王』
だったのだ。
そのあまりの矛盾に、少年は言葉を見出せない。
「混乱するのは後だ、坊主。俺が地球人だろうが魔王だろうが、
この店で出すバーガーの美味さは変わらねえし、ガキどもを救う
計画も変わらねえ」
「……っ」
「ただな、言っとくが、これはまだ計画の段階だ。俺自身、向こう
じゃ小さな何でも屋のオヤジだ。こんな壮大な仕事なんてやった
ことねえよ。世界情勢だって、隅から隅まで理解できてる訳でも
ねえしな」
コウタロウが息を呑み、俺の顔を凝視した。
「でもな、この計画は動き出す。俺の後ろにいる優秀な側近達が、
泥をかぶってでも必ず成功させる。――そこでだ、コウタロウ。
お前はどうする?」
「え……?」
「俺を討伐するか?」
その言葉に、厨房の空気が凍りついた。
ルナリアが背後で息を止め、聖騎士セシリアと魔法使いメルが
即座に身を固くする。
だが、俺は変わらず、無骨な職人の顔のまま言葉を続けた。
「実際に計画が動き出すには、まだ時間がある。決めるのは
お前だ。もし、少しばかりの猶予をもらえるってんなら……
お前を送り出した聖法国に戻って、今後の
話をして来い」
「聖法国に……」
「まずはこの国、魔王国を豊かにする。それが俺の今の仕事だ。
俺は逃げやしねえから、どっしり腰を据えて待っててやらあ」
コウタロウはしばらく黙り込み、自分の拳を見つめていた。
やがて、彼は決意を固めたように顔を上げ、少し照れくさそう
に頭をかいた。
「七転さん……。ハンバーガーも最高でしたけど……ラーメンって
作れますか?」
「あん?」
予想外のメニューに、俺は一瞬だけ呆気に取られ、それから
豪快に笑った。
「ぶっはっっはっはっ、ラーメンか! 懐かしいな。材料ならいくらでもある。
スープをじっくり研究すれば、あっちの味に負けねえ奴がきっと作れるぞ」
「わかりました。僕、必ず聖法国の偉い人達を説得してきます。
だから、次に会うときは、最高に美味いラーメンを食べさせて
ください」
「おう、約束だ。とびきりのを仕込んでおく」
数日後。
朝霧が立ち込める宿場町の街道を、ガルードから御者付きの
魔導馬車を借り受け、勇者一行の4人が旅立った。
その馬車が遠く見えなくなるまで見届けた後、俺は耳の鉛筆を
手に取り、目の前の書き付けに向き直った。
失業者を巻き込んだ新型車両の製造、商人を束ねるフランチャイズ
構想。
やるべき大仕事は山積みだ。俺は気合を入れ直すと、これからの
再建計画のまとめを、手元の紙へ書き殴り始めるのだった。




