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50歳の何でも屋、セカンドライフは魔王城~今度の依頼は国再建! 異世界バーガーで追放勇者を弟子にしました~  作者: おっさん5963
第六章 「ハラが減っては戦にならぬ、ハラが膨れりゃ戦はできぬ」

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第五十六話 与えるものと掴むもの

宿場町に店を構えてから、一週間が過ぎていた。

あの日、勇者の坊主が涙を流しながら去っていった後、

俺はすぐにガルードを呼び出し、ある計画を動かしていた。


それは、路地裏で生きる子供たちへの炊き出しと、

彼らの生活実態の把握だ。

この町は近くにダンジョンがあるため、それなりに

冒険者たちで賑わっている。

だが、その華やかさの影には、今日の食うものにすら

事欠く人間が少なくなかった。


世界にいるすべての人間を救うなどという大言壮語は、

夢物語でしかない。

そんなことは、長年何でも屋をやってきた俺が

一番よく分かっている。

だが、飢えた子供たちに『未来』へのきっかけを

与えることくらいなら、大人のやり方次第で

いくらでもできるはずだった。


この世界の子供たちは、地球のガキどもに比べて

驚くほどしっかりしている。

自分たちにできる仕事があり、まっとうな対価が得られるなら、

彼らは自分の足でいくらでも歩いていけるのだ。

ここで始めた小さなジャンクフード店は、その大いなる

可能性を示している。


開店前の厨房で、俺は持ち込んだ手書きの資料を広げながら、

ガルードに新しい仕組みを説明していた。


「――つまりな、ガルード。俺の持っているレシピや看板、

調理のノウハウを、信頼できる商人たちに貸し出すんだ。

彼らは自分の資金で店を出し、売上の一部をこちらに支払う。

これを元いた世界じゃ『フランチャイズ』って呼ぶんだよ」


ガルードは脂の乗った顔を真剣なものに変え、

その書き付けを凝視している。


「なるほど、八起殿……。国がすべての店舗を直営する

リスクを分散しつつ、爆発的な速さで領土内に店を増やせるのですね。

ですが、人手はどうするのですか?」


「そこが本題だ。ガルードに集めてもらった信頼の置ける

商人たちに、各地で店を出してもらう。その際、こちらで

訓練した路地裏の子供たちを、正規の従業員として

雇い入れることを条件にする」


「仕事を得た子供たちは自立できる。そして、まだ働けない

年少の子供らは国――つまり魔王国が生活を保証する。

当然、これは路地裏の子供たちだけじゃねえ。

貧困家庭の大人や子供たちへも、全く同じ扱いをして

雇用を生み出す」


ガルードの目が、驚愕に大きく見開かれた。

商人の直感が、これがただの慈善事業ではなく、

巨大な経済圏の確立だと見抜いたのだろう。


「そんな大がかりな仕組みを……。しかし八起殿、

各地の店へ供給する食材はどうするつもりなのですか?

この味は、魔王城のインフラがあって初めて成り立つものでしょう」


「ああ、だから別に生産拠点を設けて、そこから

各地の店舗へ一括輸送する。そのための新型車両を、

これから一気に用意するつもりだ」


「これから用意する、とは……? 魔王城から

運ぶのではないのですか?」


「それじゃあ地元の奴らのためにならねえだろ。この町にも、

仕事にあぶれて食い詰めてる職人や健康な男たちが

ゴロゴロしてる。そいつらをまともな給与で一斉に募集して、

ここで組み立てさせるんだよ」


俺は別の紙を広げた。魔王城の技術を応用した、

新たな流通インフラの計画書だ。


「時間停止のコンテナと、炭酸ガスを閉じ込める魔術樽を

大幅に増産する。それを、アイアンウッドの浮力システムを

組み込んだ馬車用の連結荷車に積む。

名付けて『大容量連結魔導荷車メガ・トランスポーター』だ。

これなら馬一頭の力でも、通常の数倍の物資を軽々と、

しかも新鮮なまま各地へ運べちまう」


「馬車用へ改良を……! それを地元のあぶれた人間たちの

手で作らせ、雇用と技術を落とすというのですか!

ですが待ってください、物資の長距離輸送となれば、

街道を荒らす魔物や盗賊への対策が必要になります。

そこはどうするのですか?」


ガルードの鋭い指摘に、俺はニヤリと笑って

資料をもう一枚めくってみせた。


「そこは『護衛の専門職』を現地で雇う。ダンジョン帰りの、

食い詰めてる冒険者たちをな。今回のフランチャイズ加盟店を

出す商人たちで『商人組合』を作ってもらう。そこが資金を

出し合い、輸送車専用の『護衛専門ギルド』を立ち上げるんだ」


ガルードが大きく息を呑んだ。


「護衛専門の……ギルド……!」


「おう。冒険者ギルドの依頼じゃなく、商人組合が直接、

好待遇で冒険者を専属雇用する。さらに、店が増えれば

希少なドラゴン肉は流石に供給が追いつかなくなる」


「確かに。ドラゴン肉のパティなど、そうそう量産できません」


「だから、その護衛ギルドの連中には街道の安全確保と同時に、

食用になる他の大型動物や魔獣の狩猟・調達もやらせる。

それを一括で買い取って、生産拠点へ集めてパティに加工するんだ」


俺はさらに、仕入れの根幹に関わる部分の図を指差した。


(キョ)ジャガも同様だ。現地買い付けだけ

じゃ足りなくなるから、魔王城の周辺に巨大な農地を設ける。

城下町の住民や、新しく受け入れる移住者たちに

その大規模栽培を担ってもらう。これで供給は完全に安定する」


「……! 流通、雇用、治安維持、さらに食材の生産体制まで。

ただの商売の枠組みで、国の境界すら超えた巨大な経済インフラを

構築してしまうというのですか……!」


「人員の移動に使う連結式の大型ワゴン車――

多人数用連結魔導客車(ワゴン・キャリア)』も同様だ。

これらはすべて魔王国からの貸し出しにする。

商人たちには、輸送のリスクを一切負わせねえよ」


完璧に組み上げられた流通システムに、ガルードは言葉を失い、

ただ深く息を吐き出すことしかできなかった。

その時、厨房の扉が静かに開き、数人の影が中へと入ってきた。

ルナリアに案内されてやってきたのは、勇者コウタロウ、

聖女ノエル、聖騎士セシリア、魔法使いメルの4人だった。

この重要な説明会に、俺はあえて勇者一行を参加させることに

していたのだ。


「――とまあ、こういう計画だ。分かったか、勇者の坊主」


俺が全体の説明を終えると、コウタロウは言葉を失ったまま、

じっと自分の手を見つめていた。

彼の拳は、小刻みに震えている。聖女ノエルもまた、

胸元で両手を組み、祈るような眼差しで俺を見ていた。


「僕は……自分のお金を使って、その日暮らしのパンを

配ることしかできなかった……」


「……」


コウタロウの口から、掠れた声が漏れる。彼の喉が激しく上下した。


「でも、七転さん……。仕事にあぶれた人や子供たち、

食えない冒険者、城の下の住民たちにまで全部仕事を与えて、

これからの生き方そのものを準備しようとしてる。

誰も飢えない仕組みを作ろうとしてる。……大人って、すごいなぁ……」


不器用な少年らしい、敗北感と深い敬意が混ざり合った、

押し殺したような声。隣のノエルが、そっとコウタロウの肩に

手を置いた。


「コウタロウ君のやったことは無駄じゃねえ。お前がガキどもに

飯を配って歩いたからこそ、誰が本当に困ってるかを

把握できたんだからな。きっかけを作ったのはお前だ」


「七転さん……」


コウタロウが顔を上げる。その真っ直ぐな瞳を受け止めながら、

俺は深く息を吸い込んだ。

ここが一つの、区切りだろう。これだけのインフラと計画を

動かす以上、いつまでも隠し通せるものでもない。

何より、この実直な少年には、正面から話しておく必要がある。


「さて、ここからはビジネスの話じゃねえ。個人的な昔話だ」


俺は腕を組み、勇者一行の4人を順に見つめた。

厨房の空気が、張り詰めたものに変わる。


「鈴木コウタロウ。お前、日本から来たんだよな?」


「そうです……」


コウタロウは聴き慣れた響きの『日本』に違和感を感じた。

空気が変わったことに聖騎士セシリアが即座に腰の剣の柄に手をかけ、

魔法使いメルが大きな帽子を揺らして身構える。

そんな緊張感の中、俺は苦笑交じりに頭をかいた。


「そう警戒すんな。テリヤキバーガーの味を懐かしがってたが、

俺だってあの味が恋しくて自分で再現した口だ」


「まさか……七転さんも……?」


コウタロウの瞳が、これまでにないほど大きく見開かれる。

驚きで言葉を失う彼の前で、俺は明確に、自分の正体を告げた。


「ああ。俺も地球から来た人間だ。50歳で、向こうじゃ

何でも屋のオヤジをやってた。裸でこの世界に召喚されちまってな」


一瞬の沈黙。ノエルが息を呑み、セシリアの剣を握る手が

わずかに緩む。


「そして――俺の住んでいる場所は魔王城だ。

いろいろあってな、現魔王(仮)なんて大層な肩書きで、

国を再建するためにこうして前線で汗を流してる」


「魔王……七転さんが……!?」


コウタロウは頭を抱え、混乱の極みにあるように

足元をふらつかせた。


俺はそんなコウタロウの前に歩み寄り、その頼りない肩を、

分厚い手でバシッと叩き、柔和な笑みを浮かべた。


「世界を救うってのは、剣を振るうことだけじゃねえんだよ。

大人のやり方って奴を、これから特等席でしっかり見てな」


元・地球人の何でも屋にして、現魔王。

代替食材の狩猟から、城下町での(キョ)ジャガ

大規模栽培までをも組み込んだ一大経済圏。

人間の社会構造を根底から変える七転 八起の国再建が、

勇者一行の目の前でついにその幕を開けた。

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