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50歳の何でも屋、セカンドライフは魔王城~今度の依頼は国再建! 異世界バーガーで追放勇者を弟子にしました~  作者: おっさん5963
第一章 湯船で召喚!? 壺ハメおっさん魔王(仮)――気付いたら国を救ってた

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第六話 フード イズ パワー

魔王城の大広間に設置された長テーブルを挟み、

かつてないほど緊迫した対面が続いていた。


片側には、人狼族の長ガルム将軍を含む軍部の幹部三名。

戦場を幾度も潜り抜けてきた彼らの放つ殺気は、

広間の空気を物理的に重く沈ませている。


対する側には、作業着姿の八起を中央に、

秘書官ルナリアと軍師ゼフェルが脇を固めて座る。

八起の目の前には、泥を落としただけの生の

(キョ)ジャガが一つ、無造作に置かれていた。


「……八起殿。まさか、我々にその不浄な毒塊を食えと言うのではあるまいな?」


幹部の一人が、剣呑な視線で八起を睨みつけた。

軍部にとって、それは飢えた兵たちが最後の一線を超えて手を出しては、

無惨に命を落としてきた「呪いの象徴」だ。


「まぁ待てよ。……シオリさん、悪いが人数分、例のやつを頼む」


八起が扉の外に声をかけると、


「はぁ〜い、お任せくださいおじ様ぁ!」


と弾んだ声が返ってきた。


「出来上がるまで少し時間がかかる。その間に、俺がどうしてここにいて、

何をしようとしているのか……状況を整理しておこう」


八起は耳に挟んだ鉛筆を取り出し、テーブルをコンコンと叩きながら話し始めた。


「まず、俺はアンタらの言う魔王じゃない。……入浴中に突然ここに召喚され、

それと入れ替わるようにしてアンタらの魔王が消えた。

理由は知らんが、俺は向こうの世界じゃただの『何でも屋』をやってたおっさんだ」


八起は淡々と語った。

召喚された瞬間、自分が全裸だったこと。宝物庫のガラクタを資材として仕分け、

ギガントを改造したこと。

そして、この「謎の塊」が、実は毒を抜けば最高の食料になるという事実。


ガルムたちは最初こそ鼻で笑っていたが、八起の淀みのない、

そして嘘偽りのない「職人」の口調に、次第に言葉を失い、聞き入っていった。


「……つまり、貴殿は陛下が放り出したこの国を、土いじりから立て直そうというのか。

誇り高き魔王軍の牙を抜き、鍬を持たせて……」


ガルムが唸るように問いかけた、その時だった。


「――んぐっ、はふっ! うめぇ、うめぇぞこれぇ!!」


重厚な扉が豪快に蹴り開けられ、会議の厳粛な空気を微塵も読み取らない、

凄まじい咀嚼音と共に「それ」は現れた。

現れたのは、乱れた髪を振り乱し、黄金色のホクホクとした塊を

頬張る女性――ガルム将軍の娘、ガウラだった。


彼女は口の周りに大量の食べカスをつけ、飲み込むのももどかしい

様子で(キョ)ジャガを貪りながら、ガルムの元へ詰め寄る。


「ガ、ガウラ!? お前、寝込んでいたのでは……」


「オヤジィ! 寝てられるか! 廊下でこれ持ってるクモの姉ちゃん

捕まえたんだが、マジでこれ食ってみろ! 腰抜かすぞ!」


ガウラの背後から、シオリとテオ、リナの兄妹が、

慌てた様子で湯気を上げるトレイを持って入室してきた。

一口大に切り分けられた蒸し上がりの(キョ)ジャガと、

細かく砕かれたピンク岩塩が添えられている。


「……よし、届いたな。ガルムさん、話の続きはこれを食ってからだ。

腹が減っちゃ、正しい判断もできねぇだろ?」


八起はニヤリと笑い、毒見と称して自ら一片を口に放り込み、

見せつけるように咀嚼した。


「んー、やっぱりいいな。この塩気がたまらん」


その光景を、軍幹部たちは言葉を失って眺めていた。

つい先ほどまで「不浄な毒塊」と蔑んでいたものが、

目の前でこの上なく旨そうに消費されている。


しかも、将軍の娘は獣のような勢いでそれを貪り食っている。

あまりに現実離れした光景に、歴戦の猛者たちも呆気に取られた。

だが、その静寂を鋭い怒声が切り裂く。


「ちょっとガウラ! あんた、審議会の最中に何て無作法な格好で

乱入してるのよ! 食べカスを撒き散らさないで頂戴!」


ルナリアが勢いよく立ち上がり、ガウラを指差して声を荒らげた。

その声に、ガウラが(キョ)ジャガを頬張ったまま、

野性味溢れる瞳をルナリアへ向ける。


「……あ? なんだ、ルナリアか。相変わらずうるさいなぁ、この三十路」


「なっ……! だから二十代後半だって言ってるでしょ!

この、脳筋女!!」


バチバチと火花が散るように視線がぶつかり合う。

二人の背後には、牙を剥く「狼」の幻影と、怒りに燃える

「般若」のオーラが立ち昇っているのが見える気がした。

凄まじい威圧感に、さしものガルム将軍も椅子を引いて身を遠ざける。


「はいはい、そこまで。現場で喧嘩は禁止だ」


八起が二人の間に割って入り、宥めるように手を振った。

ルナリアは「だっておじさん、こいつが!」と食ってかかるが、

八起は「まぁまぁ」と彼女の肩を軽く叩いて落ち着かせる。


その様子をじっと見ていたガウラが、ニヤリと下卑た笑みを浮かべた。


「……へぇ。ルナリア、あんた、ついに『(つがい)』を見つけたわけ?

その、くたびれたおじさんが好みなんだ、意外と枯れてるな」


「つ、番……っ!? な、ななな、何を言ってるのよ、この馬鹿ガウラ!!」


ルナリアの顔が一瞬で真っ赤に染まる。

八起は「つがい? 何の現場用語だ?」と首を傾げているが、

その横でゼフェルだけが、


「番……なるほど、魔王の伴侶。実に理にかなった解釈です」


と一人で深く納得し、せっせと手帳に書き込みを始めていた。


「おい、その辺にしろ」


八起が宥めるように手を振ると、一同の視線がテーブルの上の

(キョ)ジャガへと戻った。

ガウラが幸せそうに三つ目を平らげる姿を見て、ガルム将軍も

つい意を決し、震える手で一片を口に運んだ。


「……っ!? なんという……瑞々しさ、そしてこの力強い甘み!」


ガルムの目が見開かれる。

続いて他の幹部たちも恐る恐る口にすると、広間には沈黙の代わりに、

喉を鳴らす音と感嘆の吐息が漏れ始めた。


「いいか、将軍さん。現場で一番大事なのは『補給』だ」


八起は残った巨ジャガを指さし、重みのある声で語り始めた。


「腹が減ってちゃ力は出ない。力がなけりゃ誇りも守れない。

あんたらが喉から手が出るほど欲しがってる兵器のギガントを、

俺が真っ先にトラクターへ作り変えたのは、

それが今この国で一番必要な『仕事』だからだ」


「奪い取るより、まず自分たちが食える土台を作る。

現場の立て直しってのは、そこから始まるんだよ」


職人の論理に基づいた八起の説教に、軍人たちは反論の言葉を失った。

しかし、ガルム将軍は最後に一度だけ、鋭い眼光を八起に向けた。


「……認めよう。この食料と、貴殿の言う『内政』の価値をな」


ガルム将軍は重々しく立ち上がると、八起を見据えて突きつけた。


「だが、これは猶予だ。一年だ。一年以内にこの国から食糧難を拭い去り、

兵の腹を満たしてみせろ。もし果たせぬ時は……

我らは隣国への侵略を開始する。……いいな?」


「一年か……受けて立ってやるよ」


八起が不敵に笑うと、張り詰めていた空気がわずかに緩んだ。

すると、今まで巨ジャガを貪り食っていたガウラが、

尻尾をブンブンと振りながら八起に詰め寄った。


人族との混血である彼女は、端正な顔立ちにピンと立った狼の耳、

そして感情が丸出しの尻尾を持っている。


「気に入ったぞ、おじさん! 腕はいいし、メシは美味いし。

……ちょっと触らせろ!」


ガウラが勢いよく八起に飛びかかろうとした、その時。

八起の「現場監督」としての本能が動いた。


「おい、『おすわり』」


「……はふっ!?」


驚くべきことに、猛将の娘であるはずのガウラが、

その場でストンと床に腰を下ろした。

自分でも何が起きたのか分からないという顔で、耳をパタパタさせている。


「な、なんだ今の感覚……。体が勝手に……」


「よし、次は『おあずけ』だ。まだ皿に欠片が残ってるだろ。勝手に食うな」


「くぅ〜ん……」


ガウラは喉を鳴らし、食べたい衝動を必死に抑えて震え出した。


その様子を見ていたガルム将軍は、泡を吹いて椅子から転げ落ちそうになった。


「ば、馬鹿なッ! 我が愛娘が、出会ったばかりの男に

完璧に(しつけ)られているだと……!?

妻にすら見せたことのない従順さを……ぐぬぬぬ!」


「……ガルム将軍。奥さんに弱いのは知ってますけど、

娘さんまでこれじゃ先が思いやられますね」


ルナリアが冷ややかな視線を送る。


対してガルムは、


「ガウラァ! 誇りを思い出せぇ!」


と、狼狽するばかりだ。


どうやら八起の無自覚な魔力か、あるいは長年「荒くれ者の職人」を

束ねてきた威圧感のせいか。

人狼の血を引くガウラにとって、八起は逆らえない

「絶対的な上位者」として刻まれてしまったらしい。


「よし、好きなだけ食っていいぞ」


「わふっ! やっぱりおじさん、あんた最高だわ!」


再び(キョ)ジャガに食らいつくガウラと、それを見て頭を抱えるガルム、

そして嫉妬で般若の顔に戻りそうなルナリア。


魔王国の運命を懸けた一年間は、想像以上に騒がしく幕を開けた。

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